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第180話 司祭ズィケルの狂気
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ポイズン社長が目を覚ました頃。
──旧都庁。
~竜人の剣士、ラムルザ~
「司祭様!」
「司祭様はどこに!?」
移動魔法で帰還したダルクとベイルストは慌てた様子でズィケル司祭を探していた。
「2人とも何を慌てておる?」
奥の階段からズィケル司祭が降りてくる。ダルクとベイルストは彼の元へ駆け寄ると膝を付いた。
「ガランドラ様が倒されました!!」
「人間の女との戦闘で……っ!」
「何だと?」
その一言で部屋中の竜人達がザワザワと騒ぎ出した。
ガランドラが? やはり驕りを捨てられなかったか……。
ダルク達が事の顛末を話す。エルフを発見したが、1人の人間の女に全滅させられたことを。なるほど……ヤツらの中にはまだ鎧の男並みの力を持つ者がいるということか。
「ふむ……」
だが、思いのほか司祭は冷静だ。ガランドラは司祭が任を与えたはず。なのにこの反応はなんだ?
「して、ここに戻って来たということは手ぶらで戻った訳ではあるまいな?」
「はっ。司祭様よりお預かりしていた巻物を。ガランドラ様の光はここに」
「全ての光は集められませんでしたが……」
魔法の巻物? 魔法を封じ込め、他者にも使えるようにするアイテムだ。それをなぜ司祭はダルク達に……。
司祭は巻物を受け取ると、神妙な面持ちで言った。
「うむ。ガランドラの死もこれで無駄にはならぬであろう」
そう言うと、ズィケル司祭は巻物をイァク・ザァド様の像に向けて開いた。巻物から溢れ出した光がイァク・ザァド様の宝玉へと吸い込まれていく。
「し、司祭様……その巻物に封じられていた魔法は?」
「これは私のレベルドレインを封じ込めた巻物だ。ガランドラが万一倒された時の為のな」
「レベルドレイン!? ガランドラを贄にしたのですか!?」
同族を贄とするのは先代司祭様が禁じられたはず! その教えを受け継いだズィケル司祭自らが破ったというのか!?
「ラムルザ」
ズィケル司祭が私の前までやって来る。そして私の顔を覗き込むと笑みを浮かべた。
「考えが変わったのだ。我らは長年この牢獄の中に囚われて来た。ここから出る為ならば、仲間の屍を糧にしても良いではないかと」
「そんなことは……」
司祭様がゆっくりとダルクとベイルストに目を向ける。その顔は優しげだが、有無を言わせない迫力があった。
「お前達もそう思うだろう?」
「はい。おっしゃる通りです」
「我らは外に出たい。その為ならば……」
部屋の中を見渡す。他の者達も皆同じ眼をしている。正気なのか? そのタガを外してしまえば、我ら竜人同士で殺し合いをすることになるかもしれないのだぞ。
「考えが変わったのは、ラムルザ。お前の敗北によってだ」
「私の……敗北……ですか?」
「お前ほどの力を持つ者が敗れたのだ。人間は私達が想定していたよりも強いと考えねばなるまい。だからこそ戦った者の死を、無駄にしてはいけないと考えたのだ」
……我らはあの魔族の予言を信じる事で12年という歳月を耐えてきた。皆にとっての希望、贄となる人間達が来ることを信じて。
そして、その予言通り人間達が現れた。それを知った時の仲間達の熱気……あれは希望が手の届く場所まで来たからこそ。
しかし私の敗北が……手にするはずの希望を奪った。我らは人間に勝てぬかもしれないと司祭に思わせてしまった。それが、ガランドラに「保険」をかけさせることになってしまったのか……。
戸惑っていると、ガランドラの部下、ダルクが私の顔を覗き込んだ。
「ラムルザ様。貴方は司祭様のお言葉に疑問を持たれるのですか?」
「いや、そんな事は……」
この目、一切の疑いが無い。周囲を見渡しても皆同じ目をしていた。皆が司祭の言葉を信じ切っている。
ズィケル司祭は私の肩をポンと叩くと声を上げた。部屋中の者に声をかけるように。
「ガランドラはイァク・ザァド様の一部となった……しかし誰も悲しむことは無い! 我らは死すともイァク・ザァド様の中で永遠に生き続ける。死を恐れるな! 死んだ者の意思を継げ! 仲間の光を糧とせよ!」
「ガランドラ様……」
「そうだよな……でなきゃあの人の死が無駄になる!」
「ガランドラ様は私達を助ける為に犠牲になってくれたのよ!」
「イァク・ザァド様の復活の為だ!」
「俺達が外に出る為に!!」
ズィケル司祭は、一度呼吸を整えて、全員に向かって叫んだ。
「間も無く人間共は気付くだろう! 我らが領地から抜け出たくばこの場所を攻めるしかないと!!」
ズィケル司祭が杖を一振りすると、皆の前に金色の腕輪が現れた。
「その腕輪を付けよ! ここを襲う人間共を全力で迎え撃て!! その腕輪がある限り、死すともイァク・ザァド様の一部となれよう!!」
「そうだ! 俺だってやってやる!」
「生き残ったヤツが意思を継げばいい!」
「イァク・ザァド様が復活すれば救われる!」
「身分の低い者にも腕輪を付けさせろ!」
「復活すれば全部終わるのよ!!」
「死しても仲間の為に!!」
「守りを固めよ!! ヤツらを追い込め!! 人間共をここへ誘い込み贄とするのだ!!」
「イァク・ザァド様万歳!!」
「イァク・ザァド様万歳!!」
「イァク・ザァド様万歳!!」
「イァク・ザァド様万歳!!」
「イァク・ザァド様万歳!!」
なんだこの異様な熱気は……? 皆何かおかしい。
「ダルク、ベイルスト。この腕輪を外の砦の者達にも付けさせよ。森に入る者達へもだ」
ズィケル司祭がダルク達に腕輪の入った袋を渡す。ダルクはそれを膝を付いて受け取り、顔を上げないまま言葉を発した。
「司祭様。装着を拒否した者がいた場合はいかが致しましょう?」
「腕輪を付けた後に殺せ。今は団結する時。和を乱す者は要らぬ」
「はっ」
「はっ」
その言葉に頭が真っ白になる。何を言っているのだこの方は。
「ズィケル司祭。仲間を殺すなどと!」
「黙れラムルザ。私に従わなくば貴様とて容赦はせん。己が役目を全うせよ」
「ですが!」
一歩踏み出すと、ダルクが私の喉元に剣を突き付けた。
「ダルク。貴様……っ!」
「貴方は囮にでもなって下さいよ。その方が皆の為になる」
「ぐ……っ」
「腕輪を付けよラムルザ。貴様が仲間の為に剣を振るう者ならばな」
司祭に腕輪を渡される。金色に輝く腕輪は、私の腕に付いた瞬間、符呪の光を怪しく光らせた。
◇◇◇
~司祭 ズィケル~
もうすぐ、もうすぐだ。本当に長かった。
……。
私は、司祭の一族として生まれた。しかし父は私に司祭を継がせないと言った。お前に司祭は相応しくないと。他の竜人族の中から新たな司祭を選ぶと。
ふざけるな。司祭は我が一族が引き継いでいくことが伝統ではないか。そんなことを許せるはずがない。
奴は、この地に我らが閉じ込められた後もその考えを変えなかった。密かに新たな司祭を探し、教育までしていたのだ。
司祭しか受け継げぬ知識を、魔法を、何処の血筋とも分からぬ者に分け与えることに私は強い憤りを覚えた。
それと同時に私は焦っていた。このまま新たな司祭が誕生してしまえば私はどうなる? 役目を外れた私は皆から蔑まれ、このコミュニティから追放されるだろう。そんな日々に怯えていた。
そんな時、スージニアが現れたのだ。
この地を突然訪れた魔族。それがスージニアだった。魔法を使って通常の魔族に擬態し、私にしか真の姿を見せなかった女だ。
魔法障壁が張られる中、どこから侵入したのか分からない存在。ツノの無い青髪の魔族……当時そんな者がいると知らなかった私は、あの女の真の姿に驚いたものだ。人間とあまりにも酷似した姿に。しかし、その力は間違い無く魔族そのもの。その力を見た私は、彼女の言葉に耳を傾けた。
スージニアは言った。私に司祭になれと。そして、司祭に生まれた者が本来全うするはずの役目を果たせと。
その夜、スージニアの力を借りることにした私は、忌々しい父と候補者を誘い出した。2人が死んだのは一瞬だった。スージニアが召喚した狼は、2人の喉元に喰らい付き、跡形もなく平らげてしまったのだ。
かくして父は失踪の身となった。父が不在の竜人達は新たな指導者を求めた。
それが私だ。父を失った竜人族の救いを求める声によって、ついに私は司祭となれたのだ。竜人を導く存在として。
だが、司祭になったからには次の目的が生まれた。真の役目が。
……。
竜王の彫像に守られるように置かれた宝玉を見る。
竜王イァク・ザァドは死の間際2つの物を残した。力の結晶である宝玉、そして、知恵の化身である竜人だ。
宝玉にレベルポイントの光を集めれば、司祭自らが竜王となる。それが、歴代の司祭だけに伝えられて来た秘術だ。
そう、司祭の一族は元々他の竜人共を喰らい、光を集め、竜王になるために生まれたのだ。それを父を含めた歴代の司祭達は種族の繁栄などにうつつを抜かしおって!! 何が平和だ!! 何が若者達を守りたいだ!! 役目を果たすことすら忘れた馬鹿者共が!!
その挙句父は「仲間殺しの禁」などというふざけた慣習まで決めおった。一度染み付いた掟を竜人達から拭い去るのは困難だ。皆が私の言葉に疑問を持つようになってしまう。それはまずい。目的を果たす前に種族の結束が失われてしまう。
事情を知ったスージニアは私に約束した。いつの日か贄となる人間共をこの地に送ると。それが予言の正体。予言とは約束であったのだ。私と魔族との。
そしてその約束は果たされた。新たな贄となる人間達が送られた。
……その人間達のせいで多少の計画変更を余儀なくされたがな。だがそれももはやどうでもいい。それすら仲間殺しの禁を破るきっかけとなってくれた。あるいは、それこそがスージニアの狙いであったのかもしれぬ。
思考を引き戻すと、うるさいほどの熱狂が耳に入った。目の前で歓声を上げる馬鹿どもの顔を見る。どうか信じておくれ出来損ないの竜人達。腕輪に込めた符呪は貴様達の死と共に宝玉へ光を運ぶ。これで、貴様らが敗北しようともイァク・ザァドの復活は確定するのだ。
……ラムルザが敗北して良かった。ガランドラを殺して良かった。これで私に救いを求める者達は喜んで命を差し出すだろう。人間との戦いの為に。
これでよい。
これで証明できる。
私こそが竜人の生まれた意味。
私こそがイァク・ザァドの生まれ変わり。
全ての竜人は私の為の糧であるのだと。
私を蔑んだ父よ。見ているか? 貴様が守ろうとした者達は全て私の糧になるのだ。この日の為にどれほどの時間と労力を費やしたか。これは貴様への真の復讐でもある。
そう。私自身が……竜王イァク・ザァドとなるのだ。
──旧都庁。
~竜人の剣士、ラムルザ~
「司祭様!」
「司祭様はどこに!?」
移動魔法で帰還したダルクとベイルストは慌てた様子でズィケル司祭を探していた。
「2人とも何を慌てておる?」
奥の階段からズィケル司祭が降りてくる。ダルクとベイルストは彼の元へ駆け寄ると膝を付いた。
「ガランドラ様が倒されました!!」
「人間の女との戦闘で……っ!」
「何だと?」
その一言で部屋中の竜人達がザワザワと騒ぎ出した。
ガランドラが? やはり驕りを捨てられなかったか……。
ダルク達が事の顛末を話す。エルフを発見したが、1人の人間の女に全滅させられたことを。なるほど……ヤツらの中にはまだ鎧の男並みの力を持つ者がいるということか。
「ふむ……」
だが、思いのほか司祭は冷静だ。ガランドラは司祭が任を与えたはず。なのにこの反応はなんだ?
「して、ここに戻って来たということは手ぶらで戻った訳ではあるまいな?」
「はっ。司祭様よりお預かりしていた巻物を。ガランドラ様の光はここに」
「全ての光は集められませんでしたが……」
魔法の巻物? 魔法を封じ込め、他者にも使えるようにするアイテムだ。それをなぜ司祭はダルク達に……。
司祭は巻物を受け取ると、神妙な面持ちで言った。
「うむ。ガランドラの死もこれで無駄にはならぬであろう」
そう言うと、ズィケル司祭は巻物をイァク・ザァド様の像に向けて開いた。巻物から溢れ出した光がイァク・ザァド様の宝玉へと吸い込まれていく。
「し、司祭様……その巻物に封じられていた魔法は?」
「これは私のレベルドレインを封じ込めた巻物だ。ガランドラが万一倒された時の為のな」
「レベルドレイン!? ガランドラを贄にしたのですか!?」
同族を贄とするのは先代司祭様が禁じられたはず! その教えを受け継いだズィケル司祭自らが破ったというのか!?
「ラムルザ」
ズィケル司祭が私の前までやって来る。そして私の顔を覗き込むと笑みを浮かべた。
「考えが変わったのだ。我らは長年この牢獄の中に囚われて来た。ここから出る為ならば、仲間の屍を糧にしても良いではないかと」
「そんなことは……」
司祭様がゆっくりとダルクとベイルストに目を向ける。その顔は優しげだが、有無を言わせない迫力があった。
「お前達もそう思うだろう?」
「はい。おっしゃる通りです」
「我らは外に出たい。その為ならば……」
部屋の中を見渡す。他の者達も皆同じ眼をしている。正気なのか? そのタガを外してしまえば、我ら竜人同士で殺し合いをすることになるかもしれないのだぞ。
「考えが変わったのは、ラムルザ。お前の敗北によってだ」
「私の……敗北……ですか?」
「お前ほどの力を持つ者が敗れたのだ。人間は私達が想定していたよりも強いと考えねばなるまい。だからこそ戦った者の死を、無駄にしてはいけないと考えたのだ」
……我らはあの魔族の予言を信じる事で12年という歳月を耐えてきた。皆にとっての希望、贄となる人間達が来ることを信じて。
そして、その予言通り人間達が現れた。それを知った時の仲間達の熱気……あれは希望が手の届く場所まで来たからこそ。
しかし私の敗北が……手にするはずの希望を奪った。我らは人間に勝てぬかもしれないと司祭に思わせてしまった。それが、ガランドラに「保険」をかけさせることになってしまったのか……。
戸惑っていると、ガランドラの部下、ダルクが私の顔を覗き込んだ。
「ラムルザ様。貴方は司祭様のお言葉に疑問を持たれるのですか?」
「いや、そんな事は……」
この目、一切の疑いが無い。周囲を見渡しても皆同じ目をしていた。皆が司祭の言葉を信じ切っている。
ズィケル司祭は私の肩をポンと叩くと声を上げた。部屋中の者に声をかけるように。
「ガランドラはイァク・ザァド様の一部となった……しかし誰も悲しむことは無い! 我らは死すともイァク・ザァド様の中で永遠に生き続ける。死を恐れるな! 死んだ者の意思を継げ! 仲間の光を糧とせよ!」
「ガランドラ様……」
「そうだよな……でなきゃあの人の死が無駄になる!」
「ガランドラ様は私達を助ける為に犠牲になってくれたのよ!」
「イァク・ザァド様の復活の為だ!」
「俺達が外に出る為に!!」
ズィケル司祭は、一度呼吸を整えて、全員に向かって叫んだ。
「間も無く人間共は気付くだろう! 我らが領地から抜け出たくばこの場所を攻めるしかないと!!」
ズィケル司祭が杖を一振りすると、皆の前に金色の腕輪が現れた。
「その腕輪を付けよ! ここを襲う人間共を全力で迎え撃て!! その腕輪がある限り、死すともイァク・ザァド様の一部となれよう!!」
「そうだ! 俺だってやってやる!」
「生き残ったヤツが意思を継げばいい!」
「イァク・ザァド様が復活すれば救われる!」
「身分の低い者にも腕輪を付けさせろ!」
「復活すれば全部終わるのよ!!」
「死しても仲間の為に!!」
「守りを固めよ!! ヤツらを追い込め!! 人間共をここへ誘い込み贄とするのだ!!」
「イァク・ザァド様万歳!!」
「イァク・ザァド様万歳!!」
「イァク・ザァド様万歳!!」
「イァク・ザァド様万歳!!」
「イァク・ザァド様万歳!!」
なんだこの異様な熱気は……? 皆何かおかしい。
「ダルク、ベイルスト。この腕輪を外の砦の者達にも付けさせよ。森に入る者達へもだ」
ズィケル司祭がダルク達に腕輪の入った袋を渡す。ダルクはそれを膝を付いて受け取り、顔を上げないまま言葉を発した。
「司祭様。装着を拒否した者がいた場合はいかが致しましょう?」
「腕輪を付けた後に殺せ。今は団結する時。和を乱す者は要らぬ」
「はっ」
「はっ」
その言葉に頭が真っ白になる。何を言っているのだこの方は。
「ズィケル司祭。仲間を殺すなどと!」
「黙れラムルザ。私に従わなくば貴様とて容赦はせん。己が役目を全うせよ」
「ですが!」
一歩踏み出すと、ダルクが私の喉元に剣を突き付けた。
「ダルク。貴様……っ!」
「貴方は囮にでもなって下さいよ。その方が皆の為になる」
「ぐ……っ」
「腕輪を付けよラムルザ。貴様が仲間の為に剣を振るう者ならばな」
司祭に腕輪を渡される。金色に輝く腕輪は、私の腕に付いた瞬間、符呪の光を怪しく光らせた。
◇◇◇
~司祭 ズィケル~
もうすぐ、もうすぐだ。本当に長かった。
……。
私は、司祭の一族として生まれた。しかし父は私に司祭を継がせないと言った。お前に司祭は相応しくないと。他の竜人族の中から新たな司祭を選ぶと。
ふざけるな。司祭は我が一族が引き継いでいくことが伝統ではないか。そんなことを許せるはずがない。
奴は、この地に我らが閉じ込められた後もその考えを変えなかった。密かに新たな司祭を探し、教育までしていたのだ。
司祭しか受け継げぬ知識を、魔法を、何処の血筋とも分からぬ者に分け与えることに私は強い憤りを覚えた。
それと同時に私は焦っていた。このまま新たな司祭が誕生してしまえば私はどうなる? 役目を外れた私は皆から蔑まれ、このコミュニティから追放されるだろう。そんな日々に怯えていた。
そんな時、スージニアが現れたのだ。
この地を突然訪れた魔族。それがスージニアだった。魔法を使って通常の魔族に擬態し、私にしか真の姿を見せなかった女だ。
魔法障壁が張られる中、どこから侵入したのか分からない存在。ツノの無い青髪の魔族……当時そんな者がいると知らなかった私は、あの女の真の姿に驚いたものだ。人間とあまりにも酷似した姿に。しかし、その力は間違い無く魔族そのもの。その力を見た私は、彼女の言葉に耳を傾けた。
スージニアは言った。私に司祭になれと。そして、司祭に生まれた者が本来全うするはずの役目を果たせと。
その夜、スージニアの力を借りることにした私は、忌々しい父と候補者を誘い出した。2人が死んだのは一瞬だった。スージニアが召喚した狼は、2人の喉元に喰らい付き、跡形もなく平らげてしまったのだ。
かくして父は失踪の身となった。父が不在の竜人達は新たな指導者を求めた。
それが私だ。父を失った竜人族の救いを求める声によって、ついに私は司祭となれたのだ。竜人を導く存在として。
だが、司祭になったからには次の目的が生まれた。真の役目が。
……。
竜王の彫像に守られるように置かれた宝玉を見る。
竜王イァク・ザァドは死の間際2つの物を残した。力の結晶である宝玉、そして、知恵の化身である竜人だ。
宝玉にレベルポイントの光を集めれば、司祭自らが竜王となる。それが、歴代の司祭だけに伝えられて来た秘術だ。
そう、司祭の一族は元々他の竜人共を喰らい、光を集め、竜王になるために生まれたのだ。それを父を含めた歴代の司祭達は種族の繁栄などにうつつを抜かしおって!! 何が平和だ!! 何が若者達を守りたいだ!! 役目を果たすことすら忘れた馬鹿者共が!!
その挙句父は「仲間殺しの禁」などというふざけた慣習まで決めおった。一度染み付いた掟を竜人達から拭い去るのは困難だ。皆が私の言葉に疑問を持つようになってしまう。それはまずい。目的を果たす前に種族の結束が失われてしまう。
事情を知ったスージニアは私に約束した。いつの日か贄となる人間共をこの地に送ると。それが予言の正体。予言とは約束であったのだ。私と魔族との。
そしてその約束は果たされた。新たな贄となる人間達が送られた。
……その人間達のせいで多少の計画変更を余儀なくされたがな。だがそれももはやどうでもいい。それすら仲間殺しの禁を破るきっかけとなってくれた。あるいは、それこそがスージニアの狙いであったのかもしれぬ。
思考を引き戻すと、うるさいほどの熱狂が耳に入った。目の前で歓声を上げる馬鹿どもの顔を見る。どうか信じておくれ出来損ないの竜人達。腕輪に込めた符呪は貴様達の死と共に宝玉へ光を運ぶ。これで、貴様らが敗北しようともイァク・ザァドの復活は確定するのだ。
……ラムルザが敗北して良かった。ガランドラを殺して良かった。これで私に救いを求める者達は喜んで命を差し出すだろう。人間との戦いの為に。
これでよい。
これで証明できる。
私こそが竜人の生まれた意味。
私こそがイァク・ザァドの生まれ変わり。
全ての竜人は私の為の糧であるのだと。
私を蔑んだ父よ。見ているか? 貴様が守ろうとした者達は全て私の糧になるのだ。この日の為にどれほどの時間と労力を費やしたか。これは貴様への真の復讐でもある。
そう。私自身が……竜王イァク・ザァドとなるのだ。
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