461さんバズり録〜ダンジョンオタク、攻略ガチ勢すぎて配信者達に格の違いを見せ付けてしまう 〜

三丈夕六

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第204話 ふたりの想い

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 ~リレイラ~

『心配しなくてもリレイラならきっと大丈夫よ』

「アイル君はいいのか? その、私が……」

『そんなこと気にしないで。そういう約束でしょ?』

「う、うん」

『がんばってねリレイラ。応援してるから』

「ありがとう……アイル君」

 プツリと切れる通話。優しいな、アイル君。

 家に帰って着替えが終わったタイミングでアイル君から着信があった。半休を取ると伝えていたから気にかけて来てくれたんだろう。私を勇気付ける為に……ホント、こういう時はどちらが歳上か分からないな。

 鏡を見る。私服も気合いの入りすぎない物を用意した。後は……ヨロイ君の家に行くだけだ。

 今日、私はヨロイ君の家で夕食を食べる約束をしていた。そこで伝えようと思っていたからだ。私の気持ちを。

 でもその前に……。

「はぁ~……」

 ベッドに倒れ込んで時計を見る。急いで帰って来たからまだ13時。ヨロイ君の家に行くのは18時だ。心の準備をする為に半休を取った。絶対緊張するから……。

「そういえば、シィーリア部長にも応援されたな。何も言ってないはずなのに……私ってそんなに分かりやすいかな?」


 ヨロイ君に「新宿から帰って来たら伝えたいことがある」と約束したのは自分だ。今更逃げ出すなよ、リレイラ。


 でも……。


「うぅ……ドキドキする……」

 もし拒まれたら? ヨロイ君だから種族の事は気にしないだろうけど、彼にとって私がそういう対象じゃなかったらどうしよう……。

 ベッドに倒れ込む。まだ時間はある。深呼吸して……落ち着け落ち着け……。

「はぁ~……」

 目を閉じる。すると少しだけ体の震えがマシになった。冷静になれ私。ヨロイ君が私の事をなんとも思っていないなら、キスした時に私を引き止めたりしなかったはずだろ?


 大丈夫。大丈夫……自信を持って……うぅ、やっぱり怖いぃ……。



 ……。




 …。





 12年前。


 ──ダンジョン管理局、栃木支部。



 目の前の青年が真剣な表情で私の顔を見つめている。しかし、その表情とは裏腹にヒョロリとした体格に青白い肌……どう見ても探索者に向かない青年だった。


「ダメだ。君のような軟弱な者がダンジョンに挑めばすぐに死ぬ事になるぞ」

「でもテレビじゃ誰でも探索者になれるって言ってましたよ?」

「それは……そうだが、私が採用した者に死なれては寝覚めが悪いだろう。君の家族に恨まれても困る」

「別に気にしなくていいですよ。俺が死んだらむしろ家族は喜ぶんで」

 家族が喜ぶ? 何を馬鹿な事を。私もお父様とは折り合いが悪かったが、この世界に来る時には涙を流して見送ってくれた。親ならば心から疎んでいるなんて事は無いはずだ。それは子供が気付いていないだけ……やはりまだ若すぎるな。

 だが……。

 採用書類にバツを付けようとした時、青年と目が合った。目の前の青年は親が自分の事を疎むのを「普通のことだ」という顔をしていた。その様子が、どうも嘘を言っているようには思えない。それが私には気にかかった。

「……どうしても探索者になりたいのか?」

「はい。なってみたいです」

 真剣な顔。彼の想いが本物なのか、私は試してみたくなった。

の君には無理だろうな」

「……そんな事言うんですか?」

 青年の顔に敵意が浮かぶ。無理と言われた程度では諦めはしないか。なら、私にも考えがある。

「なら、私が鍛えてやろう」

「え?」

「3ヶ月。私の課したトレーニングを乗り越えられたら探索者として採用しよう。どうする?」

 意思を確かめるには壁を実感させるのが1番だ。この青年の場合、それは体力面だ。3ヶ月、どんな事があっても続けさせる。それが終わった時に彼の意思が変わっていなければ……私は彼を全力でサポートしよう。

 彼は少しだけ考えるような仕草をすると、深く頷いた。

「……やります。その代わり、やり切ったら約束守って下さいよ?」

「ああ。約束しよう」


 君の考えが変わっていなければな。


 ……。


 翌日から私は彼にトレーニングを徹底して指導した。基礎を中心にトレーニングを組み、それが終わると剣術の訓練。彼が泣き言を言っても聞かず、ひたすら毎日トレーニングを続けさせた。

 彼の家には何度も足を運んだ。そこで気付いたのは彼は本当に家族から疎まれているという事だった。魔族の私が彼を連れて行くと言えば普通の家庭なら引き留めるはずだが、それもなかった。

 彼の両親とも何度か話をしてみたが、興味が無いという様子……というより、彼に関して全てを諦めているようだった。


 ……彼の言葉は嘘では無かったようだ。


 ……。


 1ヶ月と少しが経った頃。彼は、私のトレーニングに慣れ始めた。初めは言っていた泣き言も減り、休憩中にはダンジョンの事を質問して来るようになった。

 私は彼のひたむきさに感心した。何が彼をそこまでさせるのか、気になった。

 彼に聞くと、ダンジョン探索者の募集を見た時、これが自分の天職だと感じたらしい。今まで様々な失敗を経験した彼が唯一自分に合っていると感じたもの……私は彼の気持ちに報いたいと思うようになっていた。


 そして3ヶ月が経った頃、トレーニングをやり切った彼は意志を確認する前に「これで探索者になれますよね?」と嬉しそうに言った。


 そこから、彼は探索者「461さん」となって私と2人でダンジョンの攻略を始めた。私は彼をヨロイ君と呼ぶようになり、彼も私の事をリレイラさんと慕ってくれた。魔族として人から距離を取られていた私は……彼との関係が進展した事を密かに嬉しいと感じていた。


 私は人から疎まれる。彼は家族から疎まれる。


 私と彼は、なんだか似ている。


 そんな気がした。


 当時はダンジョンの情報など何も無かったから、攻略中に担当魔族が直接探索者と連絡を取り合うことも許されていた。彼と共にダンジョンを選定し、攻略する。何かの理由で探索中の彼と連絡がつかなくなった時は心配で仕方なかった。

 彼と共に探索を続ける内に私は……彼と仲間になったような感覚がした。彼の家族は相変わらずで、それを見るたび胸がズキリと傷んだ。だから……私がその分、彼を支えたいと思った。


 彼との日々は私にとって楽しくて……優しくて……特別だった。私が東京に転勤になってもずっと……ヨロイ君の事を忘れた事なんて無かった。


 ヨロイ君、私は……。



 ……。



 ……あれ?


 私……いつの間にか眠ってしまってたみたいだ。ふふっ。懐かしい夢だったな。


 そう言えば今何時だ?


 時計を見る。時計の針は17時40分を差していた。カーテンを開くと窓の外もすっかり暗くなって……。


「マズイ!?」


 急いで起き上がって支度する。鏡を見て……大丈夫だよね? あああああ……なんでこんな日に限って昼寝なんか……!?


 私は、急いで部屋を飛び出した。




◇◇◇

 ~461さん~

 スマホを確認する。おかしいな、確か今日18時には来るって言ってたよな、リレイラさん。

 もう18時30分……スマホでメッセージを送っても既読が付かない。もしかして仕事が忙しいんだろうか?

 外も真っ暗だ。徐々に不安になって来る。仕事中でも既読すら付かないなんて、今まで無かったよな?

「マズイな……迎えに行った方がいいか?」

 以前みたいに攫われた可能性もある。急いで鎧を装備してアスカルオを腰に差す。バッグに回復薬を数本詰めて家を飛び出した。

 通り過ぎる人がチラチラと俺を見る。軽く頭を下げて交差点を走り抜けた。

 クソッ! 焦るな……冷静になれ、俺。

 全力で走って秋葉原電気街にある芳林ほうりん公園までやって来た時、俺のスマホが鳴った。

 前みたいに向こうから場所を明かしてくるとは限らない。環境音に集中しろ。

 深呼吸して電話に出ると、聞き慣れた声がヘルムの中に響いた。

『よ、ヨロイ君!? はぁはぁ……ごめん! ちょっと遅れてしまって……っ! 今秋葉原駅にいるから、あと20分くらいで……っ!』

 焦ったようなリレイラさんの声。緊張感が一気に解ける。なんだか力が抜けて、俺は公園のベンチに座り込んでしまう。

「大丈夫ですか? 今芳林ほうりん公園にいるんでそっちまで行きますよ」

『え!? なんで公園に……いや! 私が公園に行く! ヨロイ君はそこで待っていてくれ!』

「あ、俺が」

 通話が切れてしまう。だいぶ焦ってたな、リレイラさん。でも、無事で良かった……。


 ベンチから公園を見渡す。街頭に照らされる公園には誰もいなくて、それが妙に寂しい。

 そういえば、リレイラさんが九条商会に攫われた時もこの公園で待ち合わせしていたな。あの時はリレイラさんが走っていってしまったから慌てて追いかけたんだった。


「……」


 あの時、確かリレイラさん言っていたよな。


 ── ヨロイ君は、私のことをどう思っているの?


「どう思う……か」


 あの時の俺は、リレイラさんがいないと悲しいと言った。素直に俺の気持ちを伝えたが……。

 リレイラさんは俺にとってなんだ?


 師匠? 仲間? 担当? それとも……。


 東京で、リレイラさんと再会してからのことが頭の中を廻る。

 中野で見送ってくれた時も、池袋で支えてくれた時も、新宿で迎えてくれた時も。いつもリレイラさんは俺の事を想ってくれていた。


 それに、浅草を攻略した日の夜の事も……。


 今なら分かる。あの日の「どう思う?」という言葉はきっと……。


「ヨロイ君!!」


 声の方を向くと、公園の入り口に息を切らせたリレイラさんが立っていた。彼女は息を整えながら歩いてくると、深呼吸して俺の隣に座った。

「すすすすまない! 約束したのに遅れてしまって! その、怒ってる……?」

 上目遣いで見てくるリレイラさん。その顔を見た瞬間、言葉にできない感情が湧き上がる。それは、初めて感じたものじゃない。リレイラさんと接してる時に今まで感じていたものだ。それを今、ハッキリと自覚した気がする。

「怒ってないですよ。心配しただけです」

「そ、そうか……うん、焦っていて頭が回らなくて……ごめん……なんで私は今日に限って……」

 いつもと違って涙目でオドオドするリレイラさん。しまいには落ち込んだように俯いてブツブツと独り言を言い始めてしまった。

(遅刻するなんて……本当はもっとスマートに……うぅ……)

 そんな彼女を見ていると、思い出す。初めて会った時のことも、今までのことも、全部。


 俺は……。


「リレイラさん」

「ひゃい!?」

 リレイラさんが急に背筋をピンと張る。彼女はロボットのように固い動きで俺を見た。

「な、ななにかなヨロイ君?」

「リレイラさん、前にこの公園で自分の事をどう思うかって聞きましたよね?」

 リレイラさんの顔がビシリと固まり、その顔が真っ赤になっていく。なんだかその様子を見ていたら、余計に込み上げてくる。

「リレイラさんが来るまで考えていたんです。俺は……リレイラさんのおかげでここにいて、色んな仲間と出会えて……リレイラさんがいるから、461ヨロイとしての俺がいるんだって」


「ど、どういう……こと?」


「俺、リレイラさんのこと……好きです」


「え?」


 頭の上に「?」を浮かべるリレイラさん。呆気に取られたような顔で、口を半開きにして、予想外の事を言われたような顔。


 え、何だろうこの顔? もしかして……全部自分の妄想だったんじゃ……。


 ヤバイ……これでリレイラさんに気持ち悪いとか言われたら俺生きていけないかも……。


 脳裏にリレイラさんとキスした事が浮かぶ。あの時の彼女のはにかんだような笑顔も。


 ……流石にアレで勘違いはないだろ。伝わってないならちゃんと言うべきだろ、俺。


「その……女性、として」


「ふぇ?」


 彼女はフルフルと震えた。視線も泳がせて状況を飲み込もうとしているような……。

「ヨロイ君が、私の事、好き?」

「はい」

「い、異性として?」

「はい」

「ふええええええええ!?」


 リレイラさんは、驚いたように声を上げて、自分の頬を手で押さえた。


「え!? それは私が言おうと……いや、夢!? 私はまだ夢を見ているのか!?」

「夢? 夢ってなんですか?」

「あああああいや! 気にしないでくれ!」

 彼女は、俺の前までやって来ると、俺の手をにぎにぎと握った。


「ゆ、夢じゃない……本物だ!!」


「本物ですよ」


「わ~!!」


 子供のようにピョンピョン跳ねながら抱き付いて来るリレイラさん。彼女は頬を紅潮させながら俺の顔を見た。

「ヨロイ君と両想いだったなんて……っ!!」

 彼女が俺のヘルムを外す。彼女の香りが強くなる。昔からずっと大人っぽくて、俺を導いてくれていて、でも、再会してから色んな顔を見せてくれるようになった女性。そんな彼女が、嬉しそうな顔で俺を見つめてくれていた。

「わ、私も……好き。ずっと自分の心に嘘をついてきたけど……でも、君と再会して、助けられて、やっと自分の中で言葉にできた。君と一緒に探索していたあの時からずっと……好きだった」

 言葉にしながら、泣き始めてしまうリレイラさん。俺が全然ダメだった頃からずっと? その言葉が、何よりも嬉しい。色んな人から見放されて、諦められていた中で彼女だけはずっと俺を見てくれていた事が。


「好きなんだ。私は君の全部が好き。ダンジョンに行く姿も、夢中になって話をする姿も……好き」

「俺も、リレイラさんの全部が好きです。優しい所も、冷静な所も、たまに涙目になる所も……全部」


 彼女を抱きしめる。抱きしめると、彼女の呼吸をすぐそばに感じた。腕の中の彼女は涙を拭って微笑みを浮かべた。

「絶対幸せにするから、ヨロイ君……」

「それって俺のセリフじゃないですか?」

「あ……この世界では男性が言うことが多いんだったな。ふふっ」


 また子供のように笑う彼女。その姿に思わず笑ってしまう。こんなにコロコロ表情が変わる所は初めて見る。リレイラさんの新しい顔が見る事ができて、嬉しい。

「じゃあ……そろそろ行きますか」

「買い物もしないとな」

「遅くなったんで作るのは簡単なヤツにしますか」

「じゃあ鍋ものにしよう。今日は冷えるからな」

「あ、カセットコンロどこにしまったかな……」

「私も探すの手伝うよ」

 何気ない会話をして、買い物をして家に帰り、2人で飯を作って、一緒にテーブルを囲んだ。

 テーブルの向こうの彼女は12年前とも、再会した時とも違う雰囲気で、新鮮で……でも、リレイラさんだから、すごく安心した。


 その後は……。


 まぁ、それは内緒だ。




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