461さんバズり録〜ダンジョンオタク、攻略ガチ勢すぎて配信者達に格の違いを見せ付けてしまう 〜

三丈夕六

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第205話 カタチ

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 461さんとリレイラが恋人になってから数日後。


 ~天王洲アイル~


 ──洋食屋「冒険家B」


「それでね、461さんとリレイラが付き合う事になったの!」

 新宿迷宮から帰って来たヨロイさんにリレイラが気持ちを伝えた。その結果を聞いた時、すごく嬉しかった。

「……」

 ミナセさんと冒険家Bで待ち合わせをしてそのことを報告したけど、なぜかミナセさんは深刻な顔をした。

「アイルちゃん、大丈夫? 無理してない?」

「え、なんで?」

「だってさ、好きな人が他の人と付き合っちゃったら普通……」

「すごく落ち込んじゃうにゃ!!」

 突然ナーゴの声が聞こえてくる。見上げると、飲み物を持ったナーゴがテーブルの前に立っていた。

「あ、聞いてたのナーゴ?」

「聞いてたの? じゃないにゃ! ナーゴはアイルちゃんが心配にゃ!」

 ナーゴは、注文した飲み物を置きながら真剣な表情で訴えてくる。私って変なのかなぁ……。

 ……ヨロイさんのことは好きだし、確かにヨロイさんに好きだって言われたら舞い上がっちゃうくらいだけど……でもリレイラのことも好きだし、リレイラとヨロイさんが仲良くしてるところ見ると嬉しくなるし……落ち込むってことはないんだけどな。

「う~ん」

 腕を組んで考え込むと、ミナセさんも同じように考え込む。ミナセさんは何かを思い付いたような顔をすると、テーブルに身を乗り出した。

「じゃあさ、アイルちゃんはどうなったら悲しいと思う?」

「悲しい?」

「そう、どういう状況ならアイルちゃんが悲しいか、それが分かれば私達もアイルちゃんの事が分かるかも」

 ミナセさんの表情は真剣だ。


 悲しい……。


 考えた事も無かった。そうだ。私がリレイラにヨロイさんの事を好きだって伝えた時、あの時は悲しかった。泣いてしまった私を、リレイラが慰めてくれて……すごく悲しかったけど、リレイラに抱きしめられて安心したんだ。

 なんで? あの時なんで私は悲しかったんだろう?

 考え込んでいると、ミナセさんがふぅっと息を吐いた。

「まだアイルちゃんの中でよく分かってない感じかぁ……なら、私達が変な心配する事じゃないね」

「にゃ!? ミナセちゃんはいいのかにゃ!?」

「私達が心配だけしても何もしてあげられないし。さっき聞いたのはアイルちゃんが無理してないかなって思っただけ。でも今の顔見たら大丈夫だと思えたの」

 ミナセさんが私の手をそっと取った。

「だからこれ以上は何も言わない。でも、もし辛くなったらいつでも言ってね? 私はアイルちゃんの味方だよ?」

「にゃ! ナーゴもにゃ! その時はいっぱいいーっぱい美味しいもの作ってあげるにゃ♡」

「2人とも……ありがとう」

 それから私達は他愛ない話をした。新宿迷宮の時の思い出とか、次にみんなで行くダンジョンはどこがいいだろうとか、東京以外のダンジョンも攻略したいね、とか。盛り上がって、気付いた頃には夕方になっていた。

「あ……私、宿題があるからそろそろ帰るね」

 2人に別れを告げて、私はお店を出た。



◇◇◇

 冒険家Bを出た後、何となく家の前を通り過ぎてしまって、上野駅の方へ歩いてしまう。

「うーん……」

 さっきからミナセさんの「どうなったら悲しいか」という質問が頭の中をぐるぐる回ってる。それと一緒にリレイラと話した時の事も。あの時、なんで私は悲しかったんだろう。


 考えながら歩いて、歩いて、歩いて。


 しばらく歩いていたら後ろから声をかけられた。


「天王洲アイルちゃんですよね!」

 それは小学生くらいの女の子を連れたお母さんだった。

「あ……そうです」

 突然の声かけに私は思わず答えてしまった。

「すごい! こんなところで会えるなんて! ウチの子が大ファンで! もう毎日アーカイブ見てるんですよ~!」

 連れられている女の子は、母親の後ろに隠れていた。母親がその子の背中をポンと叩くと、女の子はオズオズと私の前に出て来る。

 彼女の目線に合わせるようにしゃがみ込む。女の子は、チラチラとこちらを見ながら手を差し出した。

「あ、あの……握手……して貰っても……いいですか?」

「うん、いいよ」

 差し出された手を握ると、女の子はパッと嬉しそうな顔をする。小さな手。私のチャンネルって、こんな小さな子まで見てくれていたんだ。嬉しいな。

「あ、あのね。最初の頃のアイルちゃんも可愛くて好きだったけど、461さんと一緒に配信するようになってからもアイルちゃんすごくカッコいいから……こ、これからも応援してます!」

 絞り出すように気持ちを伝えてくれる子が可愛くて笑ってしまう。握手をした後、親子は興奮気味に手を振ってくれた。


 ……カッコいい、かぁ。自分では必死だっただけなんだけど、人から見るとそう見えるんだな。自分の事って、自分だけじゃ分からないのかも。


 それからさらに歩いて、アメ横までやって来た。ブラブラと店を見て回っていると食材用モンスター専門店の前で見知った顔を見かけた。


「ううん……ヨロイ君はラルサーモンが調理しやすいと言ったが……いきなりモンスター食は無謀だろうか? スーパーで普通の食材を買った方がいいかな……?」


 リレイラだ。


 買い物をしている姿を見た瞬間、動悸がして来る。これからヨロイさんの家に行くのかも……。


「……っ!?」


 ヨロイさんとリレイラが2人でいる所が頭に浮かんで、急に涙が溢れて来た。


「あ、あれ……? なんで私……」


 止めようと思っても涙が止まらない。なんだろう? 悲しい……あれ? なんで? 嬉しいって気持ちはホントなのに……。


「あ……」


 リレイラと目が合ってしまう。声が出なくて、彼女を直視できなくて、私は反射的に背を向けた。


「あ、アイル君!!」


 後ろからリレイラの声が聞こえる。泣いている所を見られたくなくて、私は全力で走った。



◇◇◇ 


 走って、来た道を戻って、家の前まで帰って来た所で動けなくなって……しゃがみ込んでしまう。


 日が落ちて真っ暗になったマンションの前。帰って来たマンションの住人が、座り込んでる私を見てギョッとした様子でマンションの中へ入っていく。

 こんな所に座っていたら不審者だと思われちゃうよ……でも、体が動かない。涙が止まらなくて、膝に顔を埋めた。


「……アイル君」


 リレイラの声が聞こえた。追いかけて来たんだ。早く部屋に戻れば良かった。


「ほっといて」


「す、すまない……君を泣かせてしまって……」


「ほっといてって言ってるじゃん!! 1人にさせて欲しいの!!」


 こんな言葉が言いたい訳じゃない……リレイラとヨロイさんが付き合ってすごく嬉しいのに、なんでこんな事……リレイラに悲しい思いさせちゃうじゃない。


「ごめんね……以前君に「自分の気持ちに正直でいていい」なんて言ったのに、結局君に気持ちを押し殺すようなことをさせてしまって……私だけが抜け駆けなんて……」


 違う……違う違う違う!!

 私はそんな事思ってない!!


「勝手に決め付けるのはやめて!!」

「す、すまない。でも、このままじゃ分からないから、アイル君の気持ち……聞かせてくれないかな?」

 リレイラが背中を撫でてくれる。


「触らないで!!」


 リレイラの手を跳ね除けてしまった。でもリレイラは何も言わずに私の背中を摩ってくれる。それで今までのことを思い出して……リレイラがずっと私の側にいてくれたことを思い出して、私はまた涙が溢れた。


「君が本当にそう思うなら、私は帰るよ。でも……そうは見えなくて……」


「ほっといてよぉ……」


 なんで……なんでこんな事言っちゃうの?


 私は嬉しいの。だってリレイラがヨロイさんの事を好きなのずっと見て来たもん。リレイラしか、ヨロイさんに相応しい相手なんていないよ……。


 でも、でも……2人の関係が深くなって……。


 光景が浮かんでしまう。ヨロイさんとリレイラが手を繋いでいて、後ろから私が見てる。2人は歩いて行くのに私は進めない。追いかけても追い付けなくて……私だけ……。


「私だけがそこ・・にいないって思ったら……」


 ポツリと言葉が溢れてしまう。漏れ出た言葉に自分自身でも戸惑ってしまった。


「アイル君、君は……」


 リレイラの驚いたような声が聞こえる。私、それ・・が悲しかったんだ。


 リレイラとヨロイさんが結ばれて、私の居場所が無くなっちゃうんじゃないかって……だから、ヨロイさんを好きだって彼女に伝えた時も涙が出たんだ。

 リレイラを傷付けてしまうから。私達3人でいられなくなると思ったから。

 顔を上げると、リレイラが私の顔をジッと見つめていた。涙に目を潤ませて、私の事を。

 
「寂しい思いをさせて……ごめん」


 リレイラがそっと私の事を抱きしめてくれる。嗚咽が込み上げてしまう。


「嫌だよ……私……2人といたいよ……おいていかないで……」


 言葉にしたら、リレイラの力が強くなった。彼女の髪から伝わる花のような香りがして、それがすごく安心した。


「大丈夫。私達はずっとアイル君と一緒にいるよ? 君はヨロイ君の相棒で、私は2人の担当だ。アイル君が望む限り、私達は絶対に君から離れない」


「うん……」


「そうだ、私がヨロイ君に話すから、3人で暮らそう。毎日一緒にご飯を食べて、一緒に家を出て、2人がダンジョンから帰った時は私が迎える。それならアイル君は不安にならないんじゃないかな?」


「2人の邪魔しちゃうよ……」


「邪魔なんかじゃない! ヨロイ君も絶対にそんなこと言わないはずだ!」


 リレイラが声を荒げて、その力が痛いほど強くなる。それが嬉しくて、私も彼女を抱きしめた。


「アイル君がもしそう・・思うなら……私達をそう・・慕ってくれるなら、私は絶対に寂しい思いはさせない」


「ごめんね……」


「謝ることなんて、何も無いよ。私も君と同じだ。ヨロイ君も、君も大切。ヨロイ君もきっとそう思ってくれている」


「うん、うん……ありがとう……」


 3人で……。


 そうなったら、嬉しいな。



◇◇◇

 その後、リレイラがヨロイさんに3人で暮らすことを話してくれた。ヨロイさんも最初は彼女の提案に戸惑ったみたいだったけど、なんて言われるか緊張している私を見て、微笑んでくれた。

 素顔の彼はすごく優しくて……「アイルがそうしたいならそうしよう」と言ってくれた。そして私達は、3人で暮らす事になった。


 リレイラは、私にヨロイさんの事を好きなままでいいと言ってくれた。あんなに泣いたのに、今までと何も変わらなくて笑ってしまう。


 でも……きっと違う。


 私達は少しだけ近付いた気がする。他の人から変だと言われるかもしれないし、きっと分かって貰えないと思う。だけど……。
 

 リレイラが言ってくれて。


 ヨロイさんが受け入れてくれて。


 これからも3人でいられると思えて。


 私は、すごく嬉しかった。





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