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第209話 アイル、仲間に誘う
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~天王洲アイル~
土曜日。
朝起きてシィーリアの屋敷に行く準備をする。キャップにサングラスにマスク……新宿を攻略してから声をかけられることが増えたから、極力顔が分からないようにしないと。
今、シィーリアはいないけど「あの人」はいるらしいので、屋敷のメイド長のハルフェルさんに事前に連絡をしていた。
ヨロイさんに鎧は目立つから私服で行こうと言ったら、カーキのシャツにベージュのチノパンという秋コーデっぽい服装で部屋から出て来た。シンプルなのに中々いい感じだと褒めようとしたら、ヨロイさんはその上からヘルムを被ってしまった。
「な、何でヘルム被るのよ……」
「知らない奴に顔晒すの恥ずかしいじゃん」
そういえば秋葉原で装備買いに行く時も私服にヘルムだったわね……ヨロイさんって意外に恥ずかしがり屋? その割にはヘルムしてる時はみんなと普通に接してるわよね。
まぁ? 私達にしか素顔見せないって言うのは嬉しいけど……。
「それにしてもこう、マスクとかで顔隠すとかもっと自然に」
「か、カッコいい……っ!?」
トイレから出てきたリレイラは、ヨロイさんの服装を見て放心していた。顔も真っ赤でうっとりしたような表情。リレイラの様子にヨロイさんも照れたようにヘルムの頬部分を掻いた。
……どういうセンスしてるのよこの2人。
ヨロイさんに人の多いところではヘルムを外す必要があるかもしれないからと新しい紙マスクを渡す。
「ほら袋も持っていって! これならヘルム入るでしょ!」
「いや、外さねぇよ?」
「一応! 一応持っておいて! 使うタイミングあるかもしれないから!」
「しゃあねぇなぁ……」
渋々といった様子で小さく折り畳まれた袋を受け取るヨロイさん。私達を見ていたリレイラはなぜかクスリと笑った。
「ふふっ。いってらっしゃい、2人とも」
リレイラに見送られながら私達は家を出た。
……。
ヨロイさんと2人で渋谷の高級住宅へと向かい、シィーリアの屋敷へ行った。
インターホンを鳴らしてヨロイさんが事情を説明する。すると門がゆっくりと開いた。門の中に現れた白い光。その中へと入ると景色が一変する。草原のような小高い丘に真っ青な空。丘のはるか向こうに立派な庭園と大きな屋敷があった。
「何回見ても慣れないわね、これ」
「俺はワクワクするぜ。日本には無い景色だからな」
「ふふっ。それは私もそうかも」
そんな事を話していると、声をかけられる。いつの間にやって来たのか、背後にメイド長のハルフェルさんが立っていた。
「ようこそおいで下さいました」
「ああ、今日は……」
ヨロイさんが要件を言おうとすると、ハルフェルさんはそれを遮るようにうやうやしく頭を下げる。
「既にアイル様よりお聞きしております。あの方であれば、あちらで他のメイド達と修行されておりますよ」
ハルフェルさんは屋敷を指した。
◇◇◇
屋敷の近くの草原ではミナセさんの双子の妹、ユイさんとスライム型のモンスター、スキルイーターのキル太が戦闘訓練していた。
相手は魔族のメイドさんが3人。同時に襲いかかるメイドさんを前に、ユイさんは身構えた。
「物理攻撃上昇魔法!」
淡い光を浴びたユイさんが、サッカーのシュートのようにキル太を蹴り飛ばす。キル太は、丸い形状を歪めながらメイドさんへと突撃した。
「ブギィ!!!」
「くぅ!?」
1人のメイドさんにキル太が直撃。相当な威力だったのか、メイドさんが吹き飛んでしまう。跳ね返ったキル太は、その反発力を活かして他のメイドさんの元へ突撃する。
「わっ!?」
2人目のメイドさんを踏み台にバウンドしてユイさんの元に戻る。最後に残った1人、指示を出していたメイドさんの元へ速度上昇魔法を唱えたユイさんが駆け出す。
「はあああああああ!!!」
そのまま跳躍して、メイドさんの顔のすぐ側に拳を放った。格闘用の籠手が大地にめり込み、リーダーのメイドさんは、焦ったような顔をした。
「こ、降参ですぅ……」
両手を上げるメイドさん、恐らく加減はされているだろうけど、魔族相手にあそこまでやるのかぁ……やっぱり、彼女を誘おうとして正解だったかもしれない。
「そこまで。ユイ様、お客様が来られていますよ」
私達の隣にいたはずのハルフェルさんが、いつの間にかユイさん達の側に立っていた。
「客ぅ?」
ユイさんが怪訝な表情で私達を見る。うわっ……ミナセさんと同じ顔なのに威圧感あるなぁ……な、なんか街で声かけられたら目を逸らしてしまうタイプの……。
「お、鎧とアイルじゃん!」
でも、私達を見たユイさんはすぐに朗らかな笑みを浮かべた。
……。
ユイさんと一緒に外に置かれたテーブルに座る。3人で丸テーブルを囲むと、ハルフェルさんが優雅な動きで紅茶と焼き菓子を配膳してくれた。
お菓子を狙ったキル太がユイさんの膝に登る。ユイさんは自分用のお菓子をつまむとキル太に食べさせた。青くて透明なキル太の中に入った焼き菓子は、シュワ~っと消えてしまう。何だか不思議な光景。その様子をボーッと眺めていると、ユイさんに「触ってみるか?」と言われる。
指でキル太をつつくと、ポヨポヨした感触が指に伝わった。面白い感触で思わず笑ってしまう。ユイさんは、愛しそうにキル太を撫でた。
「それで、私に用事って何のようなんだ?」
ヨロイさんに肘で突かれて早速本題に入る。そうだ、キル太を見に来た訳じゃないんだった。
「実は、ダンジョン攻略の即席パーティメンバーを探しているの。今、前衛の子と後衛の私しかいなくて……ユイさんなら補助も前衛もこなせるしピッタリだと思うのよね」
「……」
真剣な表情になるユイさん。やっぱりミナセさんより威圧感あるなぁ……。
「行きたいけど、配信するならアタシはいけないな」
「え!? なんで!?」
「アタシはマイと同じ見た目だし、配信に出ちゃうと迷惑かけちゃうよ。九条のこともあるし」
しまった。
そこまで考えてなかった。思えば確かにそうだ。九条から抜けたユイさんを配信に出したら大変な事になっちゃうかも……でももうツェッターで配信告知しちゃったし、今更配信無しの攻略はできない。ユイさんがいれば絶対うまく噛み合うと思うのになぁ……。
「ダンジョンは?」
「え」
「どこのダンジョンに行くつもりなんだ?」
「え、ええ。今回は東京じゃなくて川崎ダンジョンに行こうと思ってるの。強いボスが現れたって最近話題になってるから」
「川崎、川崎かぁ……配信は絶対するんだよな?」
「そうなの。もう告知しちゃったのよね」
「う~ん……」
腕を組んでウンウン唸るユイさん。すぐ断られると思ったのになぜか悩んでる。もしかしてこれ……行ける? ユイさんもダンジョン攻略したいって思ってる?
でも、配信がなぁ……どうしたら……。
「なぁユイ」
腕を組んでいたヨロイさんがユイさんを見た。
「なんだよ?」
「俺はヘルムのおかげで顔バレしてねぇぜ」
ヨロイさんの一言でユイさんは目をカッと見開く。
「そうじゃん!! マスクかなんかつけて顔隠したら大丈夫かも! キル太! これでもっと強くさせてあげられるよ!」
「ブギィ~!」
興奮したようにキル太を抱き上げるユイさん。その喜びようにちょっと嬉しくなってしまう。ユイさんも本当は行きたかったのね、ダンジョンに。
「じゃあ連絡先交換しましょ! 打ち合わせの日はまた連絡するから!」
「お~! 頼むぜアイル!!」
ニカリと笑うユイさん。その笑顔はミナセさんにそっくりだった。
◇◇◇
~461さん~
シィーリアの屋敷を出てアイルと2人で歩く。鍋島松濤公園という看板を見たアイルが、フラッと公園の中に入った。
「帰らねぇのか?」
「ちょっと寄り道な気分なの」
公園の中は誰もいない。ブランコに座ったアイルが俺を見て手招きする。
「ね、隣に来て?」
アイルの隣のブランコに座る。アイルは周囲をキョロキョロと見渡すと、サングラスとマスクを外した。
「さっきはありがとね」
ん? 俺、なんかしたっけ?
「ほら、迷ってるユイさんに顔を隠せばいいって言ってくれたでしょ?」
「ああ、思ったこと言っただけだ」
「優しいね」
アイルの頬が緩む。その頬は少し赤くなっていた。今朝ベッドに入り込んでた時もそうだったが、一緒に暮らしてからのアイルは距離が近い。リレイラさんも何も言わないし、戸惑うな。でも、まぁ……いいか。こういうのも。
「明日は特訓付き合ってくれる? 近接戦も鍛えておきたいの」
「いいぜ。帰ったらリレイラさんに川崎ダンジョンの情報も他に無いか聞いておくか」
「うん」
アイルがブランコを漕ぎ出す。徐々に大きくなるブランコの振り幅、ブランコを漕ぎながら、アイルは大声を上げた。
「私! 2人と一緒に住み出してよかった!」
「なんだよ急に」
「今言いたかったの!」
ズザザザッと足で揺れを止めたアイルは、ポケットに仕舞い込んでいたマスクとサングラスを取り出した。
もう行くのかと思ったが、アイルがマスクを中々着けない。どうしたんだろうかとその様子を見ていると、彼女はポツリと呟いた。
「……新宿攻略して有名にはなったけど、ホントに知って欲しい人には届かないのよねぇ」
さっきとは打って変わって寂しげな顔。アイルがそんな顔をする時は誰の事を想っているのか分かる。
「親父さんのことか?」
「うん。ツェッターのDMもずっと開放してるけど、全然……テレビで取り上げられたから今回は期待してたんだけどな」
「管理局の方も情報無いのか?」
「うん。リレイラにも調べて貰ってるんだけど、桜田賢人って名前は見つからないって。本名から探索者を特定するのは大変みたい」
探索者情報の中でも個人情報はかなり厳重に扱われている。管理局の中でも独立した管理部署があって、申請が受理されないとシィーリアでも見れないとか。
まぁ、探索者同士のいざこざがあった時、探索者担当職員が誤って個人情報を伝えてしまったりしたら管理局の責任になるからな。だけど、こういう時は不便だ。もうちょっと何とか何ねぇのかな。
「まだまだ時間かかりそうだなぁ……お父さん、どこにいるんだろう……」
しょんぼりするアイル。心なしか、彼女のツインテールもクタリとハリが無いように見える。
……。
「そういや、渋谷に美味いケーキ屋があるってナーゴが言ってたな。行ってみるか」
アイルが驚いたような顔で俺を見る。
「え? でも……」
「リレイラさんならちょっと遅くなったくらいで怒らないだろ」
思い切ってヘルムを外す。外してみると、外の冷たい空気が頬を伝った。アイルに言われて持って来ていた紙マスクを付けて、渡されていた折り畳みの袋を取り出す。
「……デカい袋だな、これ」
「バイクのヘルメット用だもん」
「こんなの持ってたら逆に目立たねぇか?」
「ヨロイさんだって分からなかったらいいかな~って思って」
それでこんなデカい袋買ってたのかよ。用意がいいと言うか何と言うか……。
もう一度アイルを見る。彼女は不思議そうに首を傾げた。
「? どうしたの?」
何やってんだよ。アイルの父親は。
アイルがずっと父親を探している事や、普段の明るい姿が浮かんで苛立ちを感じてしまう。人の家族の問題に気安く口を挟む物じゃないと分かっているのに。
なんだか、俺らしくない。イァク・ザァドと戦ってる時もそうだった。何で俺……こんなに心配になったり悲しくなったりするんだ?
俺は、アイルに悟られないよう平静を装った。
「何でもねぇ。じゃ、行くか」
「うん!」
アイルが俺の手を引いてグイグイ引っ張っていく。その顔は笑っていて……今はただ、アイルを泣かせたくないなと思った。
土曜日。
朝起きてシィーリアの屋敷に行く準備をする。キャップにサングラスにマスク……新宿を攻略してから声をかけられることが増えたから、極力顔が分からないようにしないと。
今、シィーリアはいないけど「あの人」はいるらしいので、屋敷のメイド長のハルフェルさんに事前に連絡をしていた。
ヨロイさんに鎧は目立つから私服で行こうと言ったら、カーキのシャツにベージュのチノパンという秋コーデっぽい服装で部屋から出て来た。シンプルなのに中々いい感じだと褒めようとしたら、ヨロイさんはその上からヘルムを被ってしまった。
「な、何でヘルム被るのよ……」
「知らない奴に顔晒すの恥ずかしいじゃん」
そういえば秋葉原で装備買いに行く時も私服にヘルムだったわね……ヨロイさんって意外に恥ずかしがり屋? その割にはヘルムしてる時はみんなと普通に接してるわよね。
まぁ? 私達にしか素顔見せないって言うのは嬉しいけど……。
「それにしてもこう、マスクとかで顔隠すとかもっと自然に」
「か、カッコいい……っ!?」
トイレから出てきたリレイラは、ヨロイさんの服装を見て放心していた。顔も真っ赤でうっとりしたような表情。リレイラの様子にヨロイさんも照れたようにヘルムの頬部分を掻いた。
……どういうセンスしてるのよこの2人。
ヨロイさんに人の多いところではヘルムを外す必要があるかもしれないからと新しい紙マスクを渡す。
「ほら袋も持っていって! これならヘルム入るでしょ!」
「いや、外さねぇよ?」
「一応! 一応持っておいて! 使うタイミングあるかもしれないから!」
「しゃあねぇなぁ……」
渋々といった様子で小さく折り畳まれた袋を受け取るヨロイさん。私達を見ていたリレイラはなぜかクスリと笑った。
「ふふっ。いってらっしゃい、2人とも」
リレイラに見送られながら私達は家を出た。
……。
ヨロイさんと2人で渋谷の高級住宅へと向かい、シィーリアの屋敷へ行った。
インターホンを鳴らしてヨロイさんが事情を説明する。すると門がゆっくりと開いた。門の中に現れた白い光。その中へと入ると景色が一変する。草原のような小高い丘に真っ青な空。丘のはるか向こうに立派な庭園と大きな屋敷があった。
「何回見ても慣れないわね、これ」
「俺はワクワクするぜ。日本には無い景色だからな」
「ふふっ。それは私もそうかも」
そんな事を話していると、声をかけられる。いつの間にやって来たのか、背後にメイド長のハルフェルさんが立っていた。
「ようこそおいで下さいました」
「ああ、今日は……」
ヨロイさんが要件を言おうとすると、ハルフェルさんはそれを遮るようにうやうやしく頭を下げる。
「既にアイル様よりお聞きしております。あの方であれば、あちらで他のメイド達と修行されておりますよ」
ハルフェルさんは屋敷を指した。
◇◇◇
屋敷の近くの草原ではミナセさんの双子の妹、ユイさんとスライム型のモンスター、スキルイーターのキル太が戦闘訓練していた。
相手は魔族のメイドさんが3人。同時に襲いかかるメイドさんを前に、ユイさんは身構えた。
「物理攻撃上昇魔法!」
淡い光を浴びたユイさんが、サッカーのシュートのようにキル太を蹴り飛ばす。キル太は、丸い形状を歪めながらメイドさんへと突撃した。
「ブギィ!!!」
「くぅ!?」
1人のメイドさんにキル太が直撃。相当な威力だったのか、メイドさんが吹き飛んでしまう。跳ね返ったキル太は、その反発力を活かして他のメイドさんの元へ突撃する。
「わっ!?」
2人目のメイドさんを踏み台にバウンドしてユイさんの元に戻る。最後に残った1人、指示を出していたメイドさんの元へ速度上昇魔法を唱えたユイさんが駆け出す。
「はあああああああ!!!」
そのまま跳躍して、メイドさんの顔のすぐ側に拳を放った。格闘用の籠手が大地にめり込み、リーダーのメイドさんは、焦ったような顔をした。
「こ、降参ですぅ……」
両手を上げるメイドさん、恐らく加減はされているだろうけど、魔族相手にあそこまでやるのかぁ……やっぱり、彼女を誘おうとして正解だったかもしれない。
「そこまで。ユイ様、お客様が来られていますよ」
私達の隣にいたはずのハルフェルさんが、いつの間にかユイさん達の側に立っていた。
「客ぅ?」
ユイさんが怪訝な表情で私達を見る。うわっ……ミナセさんと同じ顔なのに威圧感あるなぁ……な、なんか街で声かけられたら目を逸らしてしまうタイプの……。
「お、鎧とアイルじゃん!」
でも、私達を見たユイさんはすぐに朗らかな笑みを浮かべた。
……。
ユイさんと一緒に外に置かれたテーブルに座る。3人で丸テーブルを囲むと、ハルフェルさんが優雅な動きで紅茶と焼き菓子を配膳してくれた。
お菓子を狙ったキル太がユイさんの膝に登る。ユイさんは自分用のお菓子をつまむとキル太に食べさせた。青くて透明なキル太の中に入った焼き菓子は、シュワ~っと消えてしまう。何だか不思議な光景。その様子をボーッと眺めていると、ユイさんに「触ってみるか?」と言われる。
指でキル太をつつくと、ポヨポヨした感触が指に伝わった。面白い感触で思わず笑ってしまう。ユイさんは、愛しそうにキル太を撫でた。
「それで、私に用事って何のようなんだ?」
ヨロイさんに肘で突かれて早速本題に入る。そうだ、キル太を見に来た訳じゃないんだった。
「実は、ダンジョン攻略の即席パーティメンバーを探しているの。今、前衛の子と後衛の私しかいなくて……ユイさんなら補助も前衛もこなせるしピッタリだと思うのよね」
「……」
真剣な表情になるユイさん。やっぱりミナセさんより威圧感あるなぁ……。
「行きたいけど、配信するならアタシはいけないな」
「え!? なんで!?」
「アタシはマイと同じ見た目だし、配信に出ちゃうと迷惑かけちゃうよ。九条のこともあるし」
しまった。
そこまで考えてなかった。思えば確かにそうだ。九条から抜けたユイさんを配信に出したら大変な事になっちゃうかも……でももうツェッターで配信告知しちゃったし、今更配信無しの攻略はできない。ユイさんがいれば絶対うまく噛み合うと思うのになぁ……。
「ダンジョンは?」
「え」
「どこのダンジョンに行くつもりなんだ?」
「え、ええ。今回は東京じゃなくて川崎ダンジョンに行こうと思ってるの。強いボスが現れたって最近話題になってるから」
「川崎、川崎かぁ……配信は絶対するんだよな?」
「そうなの。もう告知しちゃったのよね」
「う~ん……」
腕を組んでウンウン唸るユイさん。すぐ断られると思ったのになぜか悩んでる。もしかしてこれ……行ける? ユイさんもダンジョン攻略したいって思ってる?
でも、配信がなぁ……どうしたら……。
「なぁユイ」
腕を組んでいたヨロイさんがユイさんを見た。
「なんだよ?」
「俺はヘルムのおかげで顔バレしてねぇぜ」
ヨロイさんの一言でユイさんは目をカッと見開く。
「そうじゃん!! マスクかなんかつけて顔隠したら大丈夫かも! キル太! これでもっと強くさせてあげられるよ!」
「ブギィ~!」
興奮したようにキル太を抱き上げるユイさん。その喜びようにちょっと嬉しくなってしまう。ユイさんも本当は行きたかったのね、ダンジョンに。
「じゃあ連絡先交換しましょ! 打ち合わせの日はまた連絡するから!」
「お~! 頼むぜアイル!!」
ニカリと笑うユイさん。その笑顔はミナセさんにそっくりだった。
◇◇◇
~461さん~
シィーリアの屋敷を出てアイルと2人で歩く。鍋島松濤公園という看板を見たアイルが、フラッと公園の中に入った。
「帰らねぇのか?」
「ちょっと寄り道な気分なの」
公園の中は誰もいない。ブランコに座ったアイルが俺を見て手招きする。
「ね、隣に来て?」
アイルの隣のブランコに座る。アイルは周囲をキョロキョロと見渡すと、サングラスとマスクを外した。
「さっきはありがとね」
ん? 俺、なんかしたっけ?
「ほら、迷ってるユイさんに顔を隠せばいいって言ってくれたでしょ?」
「ああ、思ったこと言っただけだ」
「優しいね」
アイルの頬が緩む。その頬は少し赤くなっていた。今朝ベッドに入り込んでた時もそうだったが、一緒に暮らしてからのアイルは距離が近い。リレイラさんも何も言わないし、戸惑うな。でも、まぁ……いいか。こういうのも。
「明日は特訓付き合ってくれる? 近接戦も鍛えておきたいの」
「いいぜ。帰ったらリレイラさんに川崎ダンジョンの情報も他に無いか聞いておくか」
「うん」
アイルがブランコを漕ぎ出す。徐々に大きくなるブランコの振り幅、ブランコを漕ぎながら、アイルは大声を上げた。
「私! 2人と一緒に住み出してよかった!」
「なんだよ急に」
「今言いたかったの!」
ズザザザッと足で揺れを止めたアイルは、ポケットに仕舞い込んでいたマスクとサングラスを取り出した。
もう行くのかと思ったが、アイルがマスクを中々着けない。どうしたんだろうかとその様子を見ていると、彼女はポツリと呟いた。
「……新宿攻略して有名にはなったけど、ホントに知って欲しい人には届かないのよねぇ」
さっきとは打って変わって寂しげな顔。アイルがそんな顔をする時は誰の事を想っているのか分かる。
「親父さんのことか?」
「うん。ツェッターのDMもずっと開放してるけど、全然……テレビで取り上げられたから今回は期待してたんだけどな」
「管理局の方も情報無いのか?」
「うん。リレイラにも調べて貰ってるんだけど、桜田賢人って名前は見つからないって。本名から探索者を特定するのは大変みたい」
探索者情報の中でも個人情報はかなり厳重に扱われている。管理局の中でも独立した管理部署があって、申請が受理されないとシィーリアでも見れないとか。
まぁ、探索者同士のいざこざがあった時、探索者担当職員が誤って個人情報を伝えてしまったりしたら管理局の責任になるからな。だけど、こういう時は不便だ。もうちょっと何とか何ねぇのかな。
「まだまだ時間かかりそうだなぁ……お父さん、どこにいるんだろう……」
しょんぼりするアイル。心なしか、彼女のツインテールもクタリとハリが無いように見える。
……。
「そういや、渋谷に美味いケーキ屋があるってナーゴが言ってたな。行ってみるか」
アイルが驚いたような顔で俺を見る。
「え? でも……」
「リレイラさんならちょっと遅くなったくらいで怒らないだろ」
思い切ってヘルムを外す。外してみると、外の冷たい空気が頬を伝った。アイルに言われて持って来ていた紙マスクを付けて、渡されていた折り畳みの袋を取り出す。
「……デカい袋だな、これ」
「バイクのヘルメット用だもん」
「こんなの持ってたら逆に目立たねぇか?」
「ヨロイさんだって分からなかったらいいかな~って思って」
それでこんなデカい袋買ってたのかよ。用意がいいと言うか何と言うか……。
もう一度アイルを見る。彼女は不思議そうに首を傾げた。
「? どうしたの?」
何やってんだよ。アイルの父親は。
アイルがずっと父親を探している事や、普段の明るい姿が浮かんで苛立ちを感じてしまう。人の家族の問題に気安く口を挟む物じゃないと分かっているのに。
なんだか、俺らしくない。イァク・ザァドと戦ってる時もそうだった。何で俺……こんなに心配になったり悲しくなったりするんだ?
俺は、アイルに悟られないよう平静を装った。
「何でもねぇ。じゃ、行くか」
「うん!」
アイルが俺の手を引いてグイグイ引っ張っていく。その顔は笑っていて……今はただ、アイルを泣かせたくないなと思った。
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