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第210話 モモチー VS ユイ
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~天王洲アイル~
川崎ダンジョン攻略を週末に控えた火曜日。学校を終えてから私、モモチー、ユイさんはヨロイさんの家に集まった。
「ハルフェルさんは打ち合わせが終わるまで待ってて貰っていいですか?」
「はい。こちらで失礼します」
ハルフェルさんはリビングに行くと静かに正座をして目を閉じた。一切微動だにしないその動きが何だか怖い。
ユイさんはハルフェルさんと一緒に私達の家に来た。黒に白いラインの入ったスカジャンとジーンズ姿のユイさんに、リレイラのようなスーツ姿のハルフェルさん。ウェーブのかかったゆるふわな髪のハルフェルさんがスーツ姿なのも珍しいけど、ユイさんと2人揃うと何だか異様だ。
インターホンを付けた時、恐い人が来たのかと思った。九条絡みの問題を抱えているユイさんを心配してついて来たらしい。
「ハルフェルのヤツ、付いて来なくていいって言ったのにさぁ~」
「ブギィ~」
彼女の持っていたバッグからキル太が顔を覗かせる。
「す、スライム……?」
モモチーがキル太を見てギョッとする。あれ? ユイさんがスキルイーターのキル太を連れてるのは伝えたはずなのに、モモチーのこの顔なんだろう?
なんか、すごく嫌なものを見るような……何かあったのかな?
「……私はこちらの席に失礼しますわ」
モモチーが4人掛けのテーブル、私の向かいに座り、持っていたボストンバッグを隣の席に置いた。
学校帰りだったから、モモチーは学校の制服姿だ。隣に置いたボストンバッグ。そこに2本のショートソードが括り付けられている。彼女の首元に黒いインナースーツのような物も見えて、装備を変えたのだと感じた。
ユイさんが私の隣に座る。彼女が膝を叩くと、その上にキル太がよじ登った。
「それじゃあ攻略会議を始めるわよ」
スマホに地図アプリを表示させて彼女達に差し出した。
「川崎ダンジョンはラチッタデッラっていう商業施設がダンジョン化した場所よ。入り口は大通りに面した場所ね」
モモチーがスマホを覗き込む。そこには私とモモチーが調べたダンジョンの情報が載っていた。
元々ラチッタデッラ自体はさほど複雑な構造はしていなかったみたいだ。だけど、そこに異世界製の建造物が融合したせいで高低差のある迷路のようになってしまったとネットには書かれていた。
「迷いやすい構造をしていますから、挟み撃ちにされないように注意が必要ですわね」
「そうね、戦闘時の配置は気を付けたいわ」
「戦闘時はどう動けばいい?」
「ブギ」
「ユイさんはモモチーの強化をしながら近接戦闘の補助、もし私が範囲攻撃する時は補助魔法使ってくれる?」
「ああいいよ。キル太もいるから実質4人パーティみたいなもんだし、戦闘は上手く回せそうだな!」
「ブギィ!!」
気合いを入れたようにキル太が飛び上がる。テーブルの上で数回バウンドしたキル太は、バランスを崩したのかモモチーの方へ飛んでしまった。
「っ!?」
モモチーが右手でキル太を叩き飛ばす。吹き飛ばされたキル太は、ユイさんの顔面に直撃した。
「あ」
「あ……じゃねぇ! 何すんだよ!!」
「ブギィ~……」
キル太を抱き上げたユイさん。彼女が怒ったようにモモチーに詰め寄る。モモチーは、ツンと顔を逸らして腕を組んだ。
「ふ、ふん。私の胸に飛び込もうとするエロスライムを跳ね除けただけですわ」
「キル太はワザと飛び込んだ訳じゃねぇし。キル太に謝れっ!」
「ブギィ!」
「嫌ですわ。スライムなんて連れている方が非常識でしてよ」
モモチーの挑発的な態度にユイさんもキル太も怒り出してしまった。
「んだとこら!!」
「ブギィ!!」
「ちょっと2人とも、喧嘩しないでよ」
「私は何も悪くありませんわ」
「クッソムカつく女だなぁ!」
「ブギィー!!」
モモチー、キル太を見てから何だか変。なだめても2人の口論は止まらず、むしろヒートアップしてしまう。
「アイルさん! なんですのこのヤンキー女にエロスライムは! 私達のパーティに本当に相応しいんですの!?」
遂にはモモチーが怒ったように訴えて来た。うわぁ……パーティ的には相性いいハズなのに性格の相性が最悪すぎる……。
ユイさんとキル太の事情は九条商会が絡むからモモチーに言えないしなぁ……どう説明したら……。
「お前こそ相応しくないだろ! パーティ抜けろコラ!」
「はぁ!? このパーティは私がアイルさんを誘ったのでしてよ! 嫌ならアナタが降りなさい!」
「アタシはもう川崎ダンジョンに挑むって決めたんだよ!!」
「ブギブギィ!!」
「はい!? そんな我儘はリーダーのワタクシが許しませんわよ!」
「はぁ? リーダー? 実力的にどう考えてもリーダーはアイルだろうが」
「ブギィ~」
「な……っ!?」
「だってお前新宿迷宮クリアしてねぇだろ? ただのC級探索者と新宿迷宮クリアしたヤツを比べたらなぁ~。実力差は一目瞭然だろ」
ユイさんが挑発するように肩をすくめる。モモチーは、絶句した様子でワナワナと手を震わせてしまった。
「も、モモチー? 私は別に……」
「黙ってアイルさん。こんな事を言われて黙っていられる桃園モモではありませんわ……っ!」
「本名? ダッサ」
ユイさんの一言に、モモチーがブチギレた顔をする。彼女は、ショートソードを掴むとユイさんをキッと睨み付けた。
「表に出なさいチンピラ女……っ! その減らず口を3秒で黙らせてあげますわ!」
不貞腐れたような態度だったユイさんも、怒りを抱いた顔で立ち上がる。
「いい度胸じゃん。やってみろよ。あ?」
怒りの表情で睨み合う2人。ハルフェルさんを見ても我関せずという顔だ。どう説得したらいいかオロオロしていると、私服にヘルム姿のヨロイさんが顔を出した。
「お~? なんか盛り上がってんな」
「ちょっと!? 呑気なこと言ってないで止めてよ!」
「別にいいんじゃねぇか?」
「でも!」
「お前ら、喧嘩するなら不忍池の方にいけよ~」
ヨロイさんは、呑気な様子で言った。
◇◇◇
──ダンジョン周辺地区、上野・不忍池。
2人とも装備に着替えて不忍池の広場までやって来た。私、ハルフェルさん、キル太がベンチで2人を見守っていると、装備姿になったヨロイさんが睨み合う2人の間に立った。2人に審判役を頼まれたからだ。
「いいか? お前らダンジョンの攻略控えてんだからちゃんとその辺考えろよ?」
「分かっていますわ」
「わあってるよ」
2人が睨み合う。モモチーは新しい装備に着替えていた。黒いインナースーツの上から各所にアーマーが付いた装備。それに、左右の腰にショートソードを装備していた。
元々の露出度が高い装備から一転、動き易さと要所への防御を両立させた……戦闘の事を考え抜いたような装備だ。
しかも装備は傷だらけで、彼女の日光東照宮ダンジョンの攻略が凄まじい物だった事が分かる。
対してユイさんは先程のスカジャンとジーンズに格闘用の籠手の装備だ。彼女は強化魔法が使えるから動きやすさを優先したんだろう。
「ブギィ……っ!」
私の隣にハルフェルさんが座る。彼女に抱き上げられていたキル太が、応援するようにユイさんへ鳴き声を上げた。
ユイさんは、キル太へふっと笑みを浮かべると、額が当たるほどモモチーの顔に近付いて睨み付ける。モモチーも表情を一切変えずに彼女を睨み返した。
「アタシのキル太を侮辱しやがって……ぜってぇ泣かせてやる」
「お黙りなさい。お父様に頂いた名前を馬鹿にした事、後悔させてあげますわ」
「それじゃ……はじめ!」
ヨロイさんの合図で2人が同時に距離を取る。モモチーへ飛び込む隙を窺うように、ユイさんは低く構えた。
「速度上昇魔法!!」
ユイさんが魔法を発動して一気にモモチーの懐へ飛び込む。速い……っ!? 彼女の攻撃を迎え撃つことはできないと判断したのか、モモチーは2本のショートソードを盾のように構えた。
「物理攻撃上昇魔法!!」
「……っ!?」
拳がショートソードに触れる瞬間、ユイさんが強化魔法を発動。剣で受け止めたにも関わらず、モモチーは後方に吹き飛ばされてしまう。
「らぁ!!!」
彼女を追って拳を放つユイさん。モモチーは、着地と同時にクルリと回転してユイさんの攻撃をいなした。
「フリーズエッジ!!」
モモチーが左手のショートソードを大地に突き刺す。ユイさんの足元が急速に凍り付いていく。それはユイさんの両足を凍り付かせ、彼女の動きを止めてしまった。
「なに!?」
「降参するなら今でしてよ!!」
モモチーが右手のショートソードをユイさんに放つ。
「する訳ねぇだろ!!」
物理防御魔法を発動したユイさんは、籠手を剣撃へ合わせて、その軌道を逸らしてしまう。
「ちっ」
舌打ちしたモモチー。彼女が大地を蹴った瞬間、ユイさんの拳がモモチーの前を通り過ぎた。速度上昇の効果のせいか、私の予測より数段速い一撃……あそこで追撃しようとしていたら、モモチーは打撃をモロに受けていただろう。
「鬱陶しいぜ! この氷!!」
ユイさんが力任せに氷を破壊し、彼女を追いかける。2人は走りながら攻防を繰り広げた。2人の動きは私が脳内でシミュレートするよりずっと速くて、威力があって、前衛同士の読み合いやフェイントが織り込まれている。こんな戦い、私にはできないわ……。
実戦経験豊富なユイさんは当然だけど、それについて行けるモモチーは異常だ。池袋の時と動きが全然違う。
「モモチー、強くなってる……前よりもずっと……」
「そりゃあ日光東照宮をクリアしたくらいだからなぁ」
いつの間にか私達の所に来ていたヨロイさんは、感心した様子で腕を組んだ。
「そのダンジョン知ってるの?」
「知ってるも何も、俺が東京に来る直前にクリアしたダンジョンだぜ。モモチーのヤツ相当鍛えたな、あれは」
ヨロイさんが?
確か、モモチーはソロでそこをクリアしたと言っていた。クリアまで1ヶ月かかったらしいけど、そんなレベルのダンジョンを1人で……。
「よく見とけよアイル」
「え?」
「あの2人の力量は拮抗してる。お前の仲間としてアイツらは一緒に戦うんだ。2人の実力を知るにはお互いがキレてる今が絶好の機会だぜ」
「あ……」
そうか、だからヨロイさんはあの2人の喧嘩を止めなかったんだ。
私が2人に戦闘指示を出すなら、あの2人の戦いを目に焼き付けないと……っ!
……。
…。
その後、戦闘は2時間に渡って続き、決着が付かなかった。
「ま、まだ……ですわ……! 離しなさい!」
「離せ! 次で……決めるんだよ……っ!!」
ヨロイさんに止められたモモチーと、ハルフェルさんに引きずられるユイさん。体力切れになった2人は、最後まで睨み合いながらお互いを罵り合っていた。
それを見て思う。ソリが合わない2人だけど、もし連携できればすごい力を発揮できるかもしれないって。
……。
それは私の仕事かぁ……。
考えると頭は痛いけど、ちょっとだけ楽しみな気持ちになった。
川崎ダンジョン攻略を週末に控えた火曜日。学校を終えてから私、モモチー、ユイさんはヨロイさんの家に集まった。
「ハルフェルさんは打ち合わせが終わるまで待ってて貰っていいですか?」
「はい。こちらで失礼します」
ハルフェルさんはリビングに行くと静かに正座をして目を閉じた。一切微動だにしないその動きが何だか怖い。
ユイさんはハルフェルさんと一緒に私達の家に来た。黒に白いラインの入ったスカジャンとジーンズ姿のユイさんに、リレイラのようなスーツ姿のハルフェルさん。ウェーブのかかったゆるふわな髪のハルフェルさんがスーツ姿なのも珍しいけど、ユイさんと2人揃うと何だか異様だ。
インターホンを付けた時、恐い人が来たのかと思った。九条絡みの問題を抱えているユイさんを心配してついて来たらしい。
「ハルフェルのヤツ、付いて来なくていいって言ったのにさぁ~」
「ブギィ~」
彼女の持っていたバッグからキル太が顔を覗かせる。
「す、スライム……?」
モモチーがキル太を見てギョッとする。あれ? ユイさんがスキルイーターのキル太を連れてるのは伝えたはずなのに、モモチーのこの顔なんだろう?
なんか、すごく嫌なものを見るような……何かあったのかな?
「……私はこちらの席に失礼しますわ」
モモチーが4人掛けのテーブル、私の向かいに座り、持っていたボストンバッグを隣の席に置いた。
学校帰りだったから、モモチーは学校の制服姿だ。隣に置いたボストンバッグ。そこに2本のショートソードが括り付けられている。彼女の首元に黒いインナースーツのような物も見えて、装備を変えたのだと感じた。
ユイさんが私の隣に座る。彼女が膝を叩くと、その上にキル太がよじ登った。
「それじゃあ攻略会議を始めるわよ」
スマホに地図アプリを表示させて彼女達に差し出した。
「川崎ダンジョンはラチッタデッラっていう商業施設がダンジョン化した場所よ。入り口は大通りに面した場所ね」
モモチーがスマホを覗き込む。そこには私とモモチーが調べたダンジョンの情報が載っていた。
元々ラチッタデッラ自体はさほど複雑な構造はしていなかったみたいだ。だけど、そこに異世界製の建造物が融合したせいで高低差のある迷路のようになってしまったとネットには書かれていた。
「迷いやすい構造をしていますから、挟み撃ちにされないように注意が必要ですわね」
「そうね、戦闘時の配置は気を付けたいわ」
「戦闘時はどう動けばいい?」
「ブギ」
「ユイさんはモモチーの強化をしながら近接戦闘の補助、もし私が範囲攻撃する時は補助魔法使ってくれる?」
「ああいいよ。キル太もいるから実質4人パーティみたいなもんだし、戦闘は上手く回せそうだな!」
「ブギィ!!」
気合いを入れたようにキル太が飛び上がる。テーブルの上で数回バウンドしたキル太は、バランスを崩したのかモモチーの方へ飛んでしまった。
「っ!?」
モモチーが右手でキル太を叩き飛ばす。吹き飛ばされたキル太は、ユイさんの顔面に直撃した。
「あ」
「あ……じゃねぇ! 何すんだよ!!」
「ブギィ~……」
キル太を抱き上げたユイさん。彼女が怒ったようにモモチーに詰め寄る。モモチーは、ツンと顔を逸らして腕を組んだ。
「ふ、ふん。私の胸に飛び込もうとするエロスライムを跳ね除けただけですわ」
「キル太はワザと飛び込んだ訳じゃねぇし。キル太に謝れっ!」
「ブギィ!」
「嫌ですわ。スライムなんて連れている方が非常識でしてよ」
モモチーの挑発的な態度にユイさんもキル太も怒り出してしまった。
「んだとこら!!」
「ブギィ!!」
「ちょっと2人とも、喧嘩しないでよ」
「私は何も悪くありませんわ」
「クッソムカつく女だなぁ!」
「ブギィー!!」
モモチー、キル太を見てから何だか変。なだめても2人の口論は止まらず、むしろヒートアップしてしまう。
「アイルさん! なんですのこのヤンキー女にエロスライムは! 私達のパーティに本当に相応しいんですの!?」
遂にはモモチーが怒ったように訴えて来た。うわぁ……パーティ的には相性いいハズなのに性格の相性が最悪すぎる……。
ユイさんとキル太の事情は九条商会が絡むからモモチーに言えないしなぁ……どう説明したら……。
「お前こそ相応しくないだろ! パーティ抜けろコラ!」
「はぁ!? このパーティは私がアイルさんを誘ったのでしてよ! 嫌ならアナタが降りなさい!」
「アタシはもう川崎ダンジョンに挑むって決めたんだよ!!」
「ブギブギィ!!」
「はい!? そんな我儘はリーダーのワタクシが許しませんわよ!」
「はぁ? リーダー? 実力的にどう考えてもリーダーはアイルだろうが」
「ブギィ~」
「な……っ!?」
「だってお前新宿迷宮クリアしてねぇだろ? ただのC級探索者と新宿迷宮クリアしたヤツを比べたらなぁ~。実力差は一目瞭然だろ」
ユイさんが挑発するように肩をすくめる。モモチーは、絶句した様子でワナワナと手を震わせてしまった。
「も、モモチー? 私は別に……」
「黙ってアイルさん。こんな事を言われて黙っていられる桃園モモではありませんわ……っ!」
「本名? ダッサ」
ユイさんの一言に、モモチーがブチギレた顔をする。彼女は、ショートソードを掴むとユイさんをキッと睨み付けた。
「表に出なさいチンピラ女……っ! その減らず口を3秒で黙らせてあげますわ!」
不貞腐れたような態度だったユイさんも、怒りを抱いた顔で立ち上がる。
「いい度胸じゃん。やってみろよ。あ?」
怒りの表情で睨み合う2人。ハルフェルさんを見ても我関せずという顔だ。どう説得したらいいかオロオロしていると、私服にヘルム姿のヨロイさんが顔を出した。
「お~? なんか盛り上がってんな」
「ちょっと!? 呑気なこと言ってないで止めてよ!」
「別にいいんじゃねぇか?」
「でも!」
「お前ら、喧嘩するなら不忍池の方にいけよ~」
ヨロイさんは、呑気な様子で言った。
◇◇◇
──ダンジョン周辺地区、上野・不忍池。
2人とも装備に着替えて不忍池の広場までやって来た。私、ハルフェルさん、キル太がベンチで2人を見守っていると、装備姿になったヨロイさんが睨み合う2人の間に立った。2人に審判役を頼まれたからだ。
「いいか? お前らダンジョンの攻略控えてんだからちゃんとその辺考えろよ?」
「分かっていますわ」
「わあってるよ」
2人が睨み合う。モモチーは新しい装備に着替えていた。黒いインナースーツの上から各所にアーマーが付いた装備。それに、左右の腰にショートソードを装備していた。
元々の露出度が高い装備から一転、動き易さと要所への防御を両立させた……戦闘の事を考え抜いたような装備だ。
しかも装備は傷だらけで、彼女の日光東照宮ダンジョンの攻略が凄まじい物だった事が分かる。
対してユイさんは先程のスカジャンとジーンズに格闘用の籠手の装備だ。彼女は強化魔法が使えるから動きやすさを優先したんだろう。
「ブギィ……っ!」
私の隣にハルフェルさんが座る。彼女に抱き上げられていたキル太が、応援するようにユイさんへ鳴き声を上げた。
ユイさんは、キル太へふっと笑みを浮かべると、額が当たるほどモモチーの顔に近付いて睨み付ける。モモチーも表情を一切変えずに彼女を睨み返した。
「アタシのキル太を侮辱しやがって……ぜってぇ泣かせてやる」
「お黙りなさい。お父様に頂いた名前を馬鹿にした事、後悔させてあげますわ」
「それじゃ……はじめ!」
ヨロイさんの合図で2人が同時に距離を取る。モモチーへ飛び込む隙を窺うように、ユイさんは低く構えた。
「速度上昇魔法!!」
ユイさんが魔法を発動して一気にモモチーの懐へ飛び込む。速い……っ!? 彼女の攻撃を迎え撃つことはできないと判断したのか、モモチーは2本のショートソードを盾のように構えた。
「物理攻撃上昇魔法!!」
「……っ!?」
拳がショートソードに触れる瞬間、ユイさんが強化魔法を発動。剣で受け止めたにも関わらず、モモチーは後方に吹き飛ばされてしまう。
「らぁ!!!」
彼女を追って拳を放つユイさん。モモチーは、着地と同時にクルリと回転してユイさんの攻撃をいなした。
「フリーズエッジ!!」
モモチーが左手のショートソードを大地に突き刺す。ユイさんの足元が急速に凍り付いていく。それはユイさんの両足を凍り付かせ、彼女の動きを止めてしまった。
「なに!?」
「降参するなら今でしてよ!!」
モモチーが右手のショートソードをユイさんに放つ。
「する訳ねぇだろ!!」
物理防御魔法を発動したユイさんは、籠手を剣撃へ合わせて、その軌道を逸らしてしまう。
「ちっ」
舌打ちしたモモチー。彼女が大地を蹴った瞬間、ユイさんの拳がモモチーの前を通り過ぎた。速度上昇の効果のせいか、私の予測より数段速い一撃……あそこで追撃しようとしていたら、モモチーは打撃をモロに受けていただろう。
「鬱陶しいぜ! この氷!!」
ユイさんが力任せに氷を破壊し、彼女を追いかける。2人は走りながら攻防を繰り広げた。2人の動きは私が脳内でシミュレートするよりずっと速くて、威力があって、前衛同士の読み合いやフェイントが織り込まれている。こんな戦い、私にはできないわ……。
実戦経験豊富なユイさんは当然だけど、それについて行けるモモチーは異常だ。池袋の時と動きが全然違う。
「モモチー、強くなってる……前よりもずっと……」
「そりゃあ日光東照宮をクリアしたくらいだからなぁ」
いつの間にか私達の所に来ていたヨロイさんは、感心した様子で腕を組んだ。
「そのダンジョン知ってるの?」
「知ってるも何も、俺が東京に来る直前にクリアしたダンジョンだぜ。モモチーのヤツ相当鍛えたな、あれは」
ヨロイさんが?
確か、モモチーはソロでそこをクリアしたと言っていた。クリアまで1ヶ月かかったらしいけど、そんなレベルのダンジョンを1人で……。
「よく見とけよアイル」
「え?」
「あの2人の力量は拮抗してる。お前の仲間としてアイツらは一緒に戦うんだ。2人の実力を知るにはお互いがキレてる今が絶好の機会だぜ」
「あ……」
そうか、だからヨロイさんはあの2人の喧嘩を止めなかったんだ。
私が2人に戦闘指示を出すなら、あの2人の戦いを目に焼き付けないと……っ!
……。
…。
その後、戦闘は2時間に渡って続き、決着が付かなかった。
「ま、まだ……ですわ……! 離しなさい!」
「離せ! 次で……決めるんだよ……っ!!」
ヨロイさんに止められたモモチーと、ハルフェルさんに引きずられるユイさん。体力切れになった2人は、最後まで睨み合いながらお互いを罵り合っていた。
それを見て思う。ソリが合わない2人だけど、もし連携できればすごい力を発揮できるかもしれないって。
……。
それは私の仕事かぁ……。
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