461さんバズり録〜ダンジョンオタク、攻略ガチ勢すぎて配信者達に格の違いを見せ付けてしまう 〜

三丈夕六

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第213話 アイルの素質

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「キィィィイイイイ!!!」

 無数のエイブラスとルブラス達が建物から飛び降りて来る。マズイ、あの量に囲まれたら戦闘どころじゃない。


〈どんだけいるんだよアイツら!?〉
〈え、100体くらいいる?〉
〈多すぎなんだ!?〉
〈加減しろバカ!!〉
〈エイブラスは群れで活動するから……:wotaku〉
〈どうすんだお!?〉
〈6つの果実を合わせれば必ず突破できると信じている〉
〈意味不明で草w〉

 まずはヤツらが簡単に飛び込め無いようにしないと。


「私に魔法強化お願い! 3段階いける!?」

「任せとけっ!」


 ユイさんが魔法攻撃強化の魔法を3段階かけてくれる。私は、迫り来るエイブラス達を見た。

「この量なら……っ!」

 私にはある、敵が多い方が威力を発揮できる魔法が。考えろ、どこに放てば1番効果的かを。杖を構える。突撃するエイブラス達。ヤツらは散開して向かってくる。を右回りで放てば、いけるはずだ。

 私は、正面右側のエイブラスめがけて魔法を放った。


炎渦魔法ブレイジングストーム!!」


「ギイアアッ!?」
「アッ!?」
「ギイィィィ!!?」

 魔法強化を受けた巨大な炎の竜巻が巻き起こる。敵を焼き尽くしながら、それはさらに大きくなっていく。


〈!!?!?!?〉
〈ヤババババババ!?〉
〈めちゃくちゃ威力高いんだ!?〉
〈炎渦魔法は燃やす対象が多いほど威力が上がる:wotaku〉
〈つまり……敵が多いほど強いってコト!?〉
〈搾られたい〉
〈キショコメも燃やし尽くして〉
〈火力高すぎだお!〉


 後方のエイブラス達が炎渦魔法の軌道に気付いて射程外に逃げようとする。避けられたら一気に攻め込まれる。ここは逃しちゃダメな所だ。

 魔法を放ったばかりの自分じゃすぐ次の攻撃はできないけど……私の仲間には敵の攻撃を止める技がある。


「モモチー!! フリーズエッジお願い! アイツらを逃がさないで!」

「待っておりましたわ!! ダブルフリーズエッジ!!」


 モモチーが両手のショートソードに魔法剣を発動し、凍った刀身を地面へ叩きつける。大地を凍らせながら放たれた冷気は、逃げようとしていたエイブラス達の足を凍り付かせ、炎の竜巻の餌食にした。


〈うおおおおおお!!〉
〈逃がさなかった!〉
〈燃やした跡が炎の膜みたいになってるお!?〉
〈他のサル達ビビってるな〉
〈ガードの固い膜は美しい〉
〈おいw〉
〈誰かコイツ黙らせろwww〉
〈何のことか分からないんだ!〉
〈知らなくてええで〉
〈……:wotaku〉


 燃え盛る炎の竜巻。エイブラス達を燃やした事で炎の壁が生まれ、むれの追撃を阻んだ。

 エイブラス達、火を怖がってる。それに、想像以上の燃え広がり方……ヤツらの弱点はね。

「よし! 2人とも、今のうちにボスを!」

 2人に指示を出そうとした時、すぐ近くで大地を踏み締める音がした。

「グオオオオオオ!!!」

「炎の壁を飛び越えてきた!?」

 咄嗟に飛び退いて避けると、透明のエイブロードが私がいた場所に拳を叩き付ける。弾ける地面。その衝撃波に私達は吹き飛ばされてしまう。


〈地面へこんだぞ!?〉
〈透明なボス来たか!〉
〈戦闘中に姿を消されると非常に戦い難い:wotaku〉
〈一瞬見逃しただけでも致命傷受けるかもしれないしな〉
〈見失うとヤバそう〉
〈みんな、死なないでぇ……〉


「くっ!?」

 体を翻して着地する。腰のナイフを掴むが歪みは既にいない。クソッ。一瞬でも見失うと厄介ね……。

「どこですの!?」

 モモチーが警戒しながら周囲を見渡す。再び歪みが現れた時は彼女のすぐ側だった。


「グオオオオオオオオオオオ!!!」


「そこにいるぞ!!」


 放たれるエイブロードの拳。エイブロードの居場所を見つけたユイさんが飛び蹴りを放って、拳の軌道を逸らす。ヤツが放った拳は建物の外壁に当たり、壁を吹き飛ばした。

「厄介なヤツですわね!!!」
「おらぁっ!!」

 モモチーとユイさんが同時に攻撃を放つ。しかし、先ほどまでボスがいたはずの場所には何もおらず、彼女達の攻撃は空を切った。

 頭上に着地する音がする。ドスドスという足音。飛び上がって今は建物の上にいるようだ。ヤツの透明化……空間の歪みで居場所は分かっても、ヤツが動くと見失ってしまう。数秒が勝負を決める戦闘中ではこれほど厄介な能力無いわね。

「くっ……なんて身体能力ですの……」
「ウゼ~ステルスってこんな鬱陶しいのかよ」

 悪態をつく2人、炎渦魔法でできた炎の壁が消える。消えた瞬間、また群れが襲いかかって来る。もう一度炎渦魔法を発動するけど、学習したヤツらは飛び退いて魔法が消えるのを待った。

 ヤツらの攻撃が止んだと思った瞬間、また透明なボスが襲いかかって来た。せっかく弱点が分かったのに活かせない。連携でこっちの行動を制限するつもりか。


「グオオオオオオオオオオオ!!!」


「っぶないですわねぇ!?」
「んだよコイツ!?」

 強化魔法を使ったユイさんが、渾身の蹴りを放つ。攻撃を受けたボスは、大きく飛び退いて群れに指示を出すように鳴き声を上げる。するとまた群れが襲いかかって来る。このままじゃジリ貧だわ。

 群れを抑えればボスが迫る、ボスを引かせれば群れが襲って来る。アイツらは多分、この攻撃方法が必勝パターンなんだわ。だからここに私達を誘い込んだのね。


〈うわああああああ!?〉
〈どうやって戦うんだお!?〉
〈考えるんだ!〉
〈なんとかなれー!!〉
〈なるかっ!!〉
〈果実を合わせるんだ〉
〈突っ込まんぞwww〉
〈3人ならいけるハズ……:wotaku〉


 だけど諦めるな。ここを突破するのが私の仕事よ。考えろ。きっと私の経験した事で対処方法があるはず……っ!

 何が厄介なの? ボスは透明なせいで場所の特定が難しい。一瞬でも目を離した瞬間場所が分からなくなって、群れが私達の思考時間を奪って来る。これが組み合わさると厄介なんだ。

 今までの事を思い出す。新宿、浅草、池袋、品川、渋谷、代々木……今まで攻略したダンジョンでの戦いを。

 思い返して混ぜていく。私ができることと、モモチーとユイさんができることも含めて。

 群れをまとめて倒す、ボスの透明化を打ち消す。あのボス単体で戦えば私達なら倒せるはずなんだ。


 一瞬、渋谷の事が思い浮かぶ。ジークと盗賊が戦った事と、スキルイーターの事が。

 そうだ。ヤツの能力はスキル・・・だ。

 脳裏に作戦が浮かぶ。いける。この作戦なら……っ!


「2人とも! 今からこの状況を破るわ! 私の指示に従って!」

「だ、大丈夫ですの!?」

 心配そうな顔をするモモチー。弱気にさせちゃダメだ。ヨロイさんはいつも私達を安心させてくれる。ヨロイさんがいれば上手くいくって思わせてくれる。


 今それをやるのは……私の役目だ!


「私を信じて! 全員に速度上昇魔法! それとアクアエッジを発動して!」

「分かったぜ!」
「了解ですわ!」

 2人がスキルを発動する。私は彼女達に笑って見せた。2人が不安にならないようにしないとね。自信満々に見せないと。


 私はワザとニヤリと笑ってみせた。


「よーし! 逃げるわよ!」



◇◇◇

「キィキィキィィィ!!」
「キイッキィ~!!!」

 背後から無数のエイブラス達が追いかけて来る。時折跳躍して襲いかかって来るルブラスをユイさんが殴り飛ばす。私達は塞がれてない道を駆け抜けながらひたすらダンジョン内を走り回った。


〈うわああああああ!?〉
〈めっちゃ追いかけてくるやんけ!〉
〈まだ70体以上はいるな:wotaku〉
〈多すぎぃ!?〉
〈ヤバいやろ!?〉
〈モモチーがすごいことになってるお!〉
〈揺れに揺れてるんだ!!〉
〈アングルをもうちょっとこう……ヤンキーちゃんを……〉
〈皆が果実の虜になっている〉
〈お前が意識させるからじゃい!!〉


「ちょ!? めちゃくちゃ付いて来てますわよ!?」
「行き止まりにぶつかったらどうすんだよ!?」

 後ろを付いて来る2人はさっきからずっと文句を言っていた。そのさらに背後……群れの後方でドスドスという足音も聞こえる。狙い通り、ボスも付いて来てるわね。

「大丈夫! それよりモモチー! ちゃんとアクアエッジ発動してなさいよね!?」

「切先が傷むから嫌なのですが!?」

「文句言わないで! ここを攻略したいでしょ!?」

 モモチーがアクアエッジを発動したまま剣を引きずって走る。その切先から流れ出た大量の水が、ダンジョン内に水の道を作っていた。私は走りながら速雷魔法ラピッド・ショックを発動して、帯電したナイフを地面に刺していく。


 3本目のナイフを刺し終えた時、私は立ち止まった。ボスに気付かれないように2人に耳打ちする。


(ユイさんはモモチーに魔法攻撃強化3段階ね。モモチーはサンダーエッジ発動して)

(え!? どうするんですの!?)
(わ、分かったけどさぁ……)

 戸惑いながらもスキルを発動する2人。3段階の魔法強化を受けて、モモチーのサンダーエッジが強化される。刀身が纏う電撃が太くなり、まるで大剣のようになった。

(これでいいわ。モモチーは私の指示を待って。ユイさん、キル太にスキルドレインの準備させてね)



〈何するつもりだお?〉
〈キャー!?のびたサンダーエッジ!?〉
〈え?〉
〈なんて?〉
〈なんだお?〉
〈すまん……〉
〈ええんやで〉
〈作戦あるんのかな?〉
〈捕まったらヤバいだろ!?〉
〈きっと大丈夫なんだ!〉
〈アクアエッジとサンダーエッジか……:wotaku〉


 これで群れは大丈夫のはず。後は発動のタイミングだけだ。

 どこだ? あの透明なボスは?

 周囲を確認する。こちらに向かって来るエイブラスの群れ。その最後尾にゆらりと蜃気楼のようなものが見えた。間違いない、あそこにいる。

 杖を向ける。外しちゃだめだ。ここは攻撃範囲の広い氷結晶魔法クリスタルバーストで……。

「目の前まで来ておりますわよ!」
「アイル! キル太の準備できたよ!」

「もうちょっと……」

 エイブラス達がバシャバシャ・・・・・・と足音を立てながら迫って来る。もう少し……後もう少し……。


「キキキィアアアアアアアアアアア!!!」


 群れの後方まで水に足を・・・・付けた時・・・・、2人に向かって全力で叫んだ。


「今よモモチー!! 地面を狙って!!」

「了解ですわ!!」


 私の狙いに気付いたのか、モモチーは両手のショートソードを大地に突き刺した。次の瞬間、サンダーエッジの電撃がアクアエッジで作られた水の通路を駆け巡り、エイブラスに流れ込んだ。


「アギャギャギャギャアアアアアアアア!?」


 エイブラスを感電させた電撃が次の目標へ。水を媒介にエイブラス達を倒す電撃は、設置された私の速雷魔法ラピッドショックに引き寄せられて威力を増幅しながら、エイブラス達を倒していく。


〈!!?!?!!?!?〉
〈サル達が痺れまくってるお!!〉
〈範囲攻撃じゃん!〉
〈でも何でアイルちゃんが電撃魔法使わなかったんや?〉
〈そういうことか:wotaku〉
〈ウォタクニキなんか気付いた?〉
〈教えて欲しいんだ!〉
〈ボス:wotaku〉
〈ボス?〉


「グオオッ!?」


 透明の揺らぎが慌てたように飛び退く。これで完全に場所を把握した。私は、ボスの着地地点を狙って魔法を放った。


氷結晶魔法クリスタルバースト!!」


 放たれた氷のつぶて。広範囲に放たれたそれが、透明なボスを凍り付かせる。


「今よ!! あの透明化するスキルを!!」

「しゃあ! 行ってこいキル太!!」
「ブギィ!!!」

 ユイさんがキル太をシュートする。サッカーボールのように吹き飛んだキル太は、透明なボスにビタンと張り付いた。


「ブギイィィィィ!!!」

「グオオオ、オオオ、ア゛ッ……ッ!?」


 キル太が緑色に光り輝く。それと同時に透明だったボスの体が空間に現れる。茶色い体毛に覆われた巨人。ルブラスをさらに凶悪にしたような姿のモンスターが。


〈!?!!?!?!?〉
〈出て来たんだ!?〉
〈3メートルくらいあるお!〉
〈スキルイーターの力でボスの特性を奪ったか:wotaku〉
〈だからモモチーが電撃流し込んだのか!〉
〈ヤババババ!?〉
〈天王洲アイル……何というテクニックの持ち主だ〉
〈草w〉
〈なんか真面目な話なのにw〉


「グオオオオオオオオオ!!!」

「ブギッ!?」

 怒り狂ったエイブロードがめちゃくちゃに暴れ回る。キル太はボスの攻撃から逃れるように後ろへ飛び退いた。そのままポヨンポヨンと跳ねてユイさんの所まで戻る。

「良くやったぞキル太!」
「ブギ~」


「グオオオオオオオオオオオアアアア!!!」


 エイブロードが飛び上がり、その両拳を振り上げた。


「モモチー! アイツは炎が弱点よ!」

 エイブラスの弱点なら上位種にも引き継がれているはず。それに、アイツらが何でまどろっこしい事をしていたのか分かった。

 私達が魔法を使うのを見て火炎魔法を使わないか警戒してたんだ。だからあの広場まで誘導した。連携攻撃で対応する為に。

「行きますわよ!!」

 モモチーが両手のショートソードにフレイムエッジを発動する。私はもう一度杖に魔力を貯めた。

 ユイさんが私の顔を見る。頷いて返すと、彼女は自分に強化魔法を発動して駆け出した。


「行くぞキル太!!」
「ブギイィ~!!」


「グオオオオオオオオオオオ!!!」


 エイブロードの拳をモモチーが躱わす。彼女がすり抜け様に一閃すると、エイブロードの体に炎が燃え移った。


「グギャアアアアアア!!?」


 のたうち回るエイブロード。ヤツは転がって全身の火を消すとモモチーに向かって突撃した。

「おっと!!」

 エイブロードが拳を振り上げた瞬間、ユイさんがその顔へと飛び蹴りを放つ。強化魔法によって威力を上げたその蹴りは、エイブロードを吹き飛ばした。地面に倒れ込むエイブロード。ヤツが起き上がる前に、ユイさんはキル太を上空へ放り投げた。


「ブギィ~!!」


 エイブロードの上空に浮かんだキル太が岩石化のスキルを使う。岩になったキル太がエイブロードの胴体に落下し、その直撃を喰らったエイブロードは小さく悲鳴を上げた。


「オア゛ッ!?」


「トドメお願いしますわ!」
「やっちまえアイル!!」
「ブギィ!!」


〈いけるんだ!!〉
〈決めるんだお!〉
〈うおおおおお!!〉
〈がんばれ!!〉
〈トキメキが止まらない〉
〈やめろwww〉
〈いきなり笑かすな!〉



 杖を構え、魔法名を告げる。


炎渦魔法ブレイジングストーム!!!」


「グギャアアアアアアアアアアアアアアアアア!?」


 放たれた炎の渦は、エイブロードを焼き尽くし、その全身からレベルポイントの光を溢れさせた──。




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