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第243話 東京パンデモニウムへ
しおりを挟む準備を終えてリレイラさんと別れた俺は、浜松町駅のダンジョン周辺地区へと向かった。
浜松町から見える魔法障壁……それは空まで登るほど高いドーム状を形成していて、その中央から東京タワーが伸びている。それを見ただけで東京パンデモニウム内がとんでもなく広い事が分かった。
「時間通りじゃな」
待っていたシィーリアは探索者のような装備姿だった。三つ編みにした銀髪に白い独特の装束。それに胸当と籠手……格闘主体の装備だ。
「本気で戦う気かよ」
「当たり前じゃ。今、イシャルナ様とまともにやり合えるのは妾しかおらぬのじゃから」
……ふぅん。そんなに強いのか、その魔王の姉ってヤツは。シィーリアとは以前ジーク達の訓練の時にやり合った事があるが、とんでもない強さだった。身体能力から魔力に至るまで別次元の存在だ。そんなシィーリアがここまで言うなんてな。
普通なら燃える所だが……今回はアイル優先だ。俺は九条をやらせて貰う。
「461さん、これ……どうぞ」
タルパがボトルを2本渡してくれる。そのボトルには見覚えがあった。ナーゴ特製ドリンク……わざわざナーゴの所に寄ってくれたのか。
「ナーゴさんから伝言です「絶対アイルちゃんを助けてにゃ!」と言ってました」
「……ありがとな。お前は魔力回復薬持って来たか?」
「はい! 持てるだけとナーゴさんのドリンクも2本!」
タルパが腰のポシェットを開く。その中には魔力回復薬が7本。加えて反対に付いているボトルホルダーにはナーゴ特製ドリンクが2本。タルパは足手纏いにならないようにと言っていたが、これだけあればそんな事にはならないだろう。
受け取ったナーゴドリンクをベルトのホルダーにセットし、最後のメンバーへ目を向ける。青髪の女……スージニアに。
「お前も来ることにしたのか」
スージニアを見ると、彼女がビクリと体を震わせる。シィーリアが慌てた様子で俺に駆け寄った。
「スージニアは妾達に協力すると言った。一時休戦じゃ」
「分かってるよ」
問題あるのはスージニアの方じゃねぇか? さっきから俺を見ないようにずっと顔伏せてるし、震えてるし。
ジッとスージニアを見つめていると、彼女の体がさらにスマホのバイブレーションのように震え出した。心なしか涙ぐんでもいる。とりあえず今は協力すると決めた以上連携は必要だ。俺は極力普段通りに聞こえるよう声をかけた。
「おい」
「……ひっ」
スージニアの振動が小刻みを通り越してとんでもない事になる。
シィーリアが俺に座るように指を動かす。しゃがんで彼女へ目線を向けると、彼女は俺の肩を叩いた。
「水に流せとは言わぬ。妾もアヤツを許す事はできぬ。だが今だけ、今だけ協力して欲しい」
「だから協力しようと歩み寄ってるじゃねぇか」
答えると、シィーリアはあからさまにため息を吐いた。
「ダメじゃダメじゃ。お主、自分の殺気に気付いておらんのか?」
殺気?
自分の手を見ると、硬く握りしめていた事が分かった。
深呼吸して気分を落ち着ける。言われてみれば、スージニアと戦ってからずっと気を張っていたかもしれねぇな。冷静だとは思っていたが、力を抜ける時は抜いておかないといざ戦う時に命取りになる。
最後に握りしめていた手を開いてみると、シィーリアが俺の腕をコツンと叩いた。
「それでよい。普段通りでいるのじゃ」
「……ああ」
自分の事で分かってるつもりだったがダメだな。シィーリアに言われるまで気付けなかった。彼女は俺よりもっと色んな事を飲み込んでいるだろう。俺も見習わねぇとな。
シィーリアは笑みを浮かべた後、スージニアへと目を向けた。
「よし、では今から概要を説明する。スージニア、頼むのじゃ」
スージニアが一歩前に出て手をかざす。すると魔法陣が床に現れ、2体の狼が召喚された。それは軽自動車ほどの大きさで、鋭い眼で俺達を睨み付ける。スージニアが彼らの喉元を撫でると、狼達は殺気を消した。
「神殿までは狼で移動する。これで九条様達へ追い付けるはず」
「東京パンデモニウムが時の迷宮であるならば、中央の神殿までかなり距離があるはずじゃ。神殿こそが本丸。その中がダンジョンとなっており、イシャルナ様達は最深部へと向かっておるハズじゃ」
シィーリアがスージニアへ革製の長いベルトのような物を渡す。2人は、2体の狼の体にベルトを巻き付けた。首元から胴体下を通し、後ろ脚の根本へ回したベルトを狼の後頭部に伸びたベルトへ接続する。狼の全身に巻かれたベルトを掴んでみると、ガッシリと狼の体に固定されており、首元のベルトからは手綱のような物が伸びていた。
「そちらの狼にはヨロイとタルパが乗るがよい。妾とスージニアで先導しよう」
狼が地面へ座り込む。タルパを前にのせ彼女の後ろから手綱を握る。
「悪いが我慢してくれよ」
「だ、大丈夫です……」
緊張した様子のタルパを見て申し訳ない気持ちになる。だが、そんな事は言ってる場合じゃないな。今は先を急ぐしかない。
横を見る。隣の狼は、シィーリアが前に乗ってスージニアへと何か指示を出していた。それが終わると、シィーリアが空へ人差し指を向ける。すると俺達の頭上に魔法陣が現れた。俺の肩にジワリとした熱さが伝わり、魔法障壁へ入る為の承認魔法が発動された事が分かった。
「これより東京パンデモニウムへ突入する!!」
シィーリア達の狼が走り出す。それを追いかけるように俺達の狼も走り出した。
……ずっと行きたかった東京パンデモニウムにこんな形で入る事になるなんてな。だが、今はそれよりもっと大事な物を取り返さねぇと。
気合い入れていくか。
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