265 / 302
第253話 いつもの日々
しおりを挟む
~天王洲 アイル~
シィーリアが亜空間の門に手をかざす。彼女が魔力を流し込むと、イシャルナが開けた時間魔法を呼び出すための亜空間の門が閉じた。
「……これでよし。イシャルナにも封印魔法を使った。スージニアも助けねばの。彼女が閉じ込められた門が残っておるようじゃが……」
「あ、僕が時壊魔法でこじ開けますよ。きっと巻き戻せば開くはず」
「確かにそれならいけそうじゃの!」
「私も手伝います!」
「ありがとう2人とも。だが、その前にイシャルナを拘束せねば。手伝ってくれるかの?」
タルパちゃんとシンがシィーリアに着いていく。私達も手伝おうとしたけど止められた。2人は大変だったから休めって。
「はぁ~……疲れたぜ~」
ヨロイさんが地面に横になる。その隣に腰を下ろした。
「怪我はもう大丈夫なの? 九条に相当殴られてたけど」
「ん? まぁ痛いけど平気だって」
「ダメ。ちゃんと見せて。さっきはイシャルナのこともあったしそれどころじゃ無かったんだから」
ヨロイさんのヘルムを外す。ヘルムの中のヨロイさんはボロボロで、さっきイシャルナと普通に戦っていたのが嘘みたいだ。
「わ、回復薬でも綺麗には治らないのね……」
「応急処置みたいなもんだったしなぁ。後でちゃんと回復させれば綺麗に治るさ」
ヨロイさんが九条と戦っていた事を思い出して、急に胸が苦しくなる。
俯いていると、ヨロイさんが私の頭を撫でてくれる。素顔の彼が、ボロボロのヨロイさんが優しい顔で微笑んでくれた。
「もう泣くのはいいじゃねぇか。な?」
「うん……」
ヨロイさん……大好き。
私もヨロイさんの隣に居られるように強くならないと。精神的にも……。
「あ」
「なんだよ?」
急にヨロイさんが言っていた事を思い出した。
「そういえばヨロイさん『俺のアイルを泣かせるな』って……言ったわよね?」
ヨロイさんがビシリと固まる。
「え、ああああああいい言ったかなななな……そんな事……ハハハ、必死だったからなぁ……言ったのかも」
ヨロイさんが顔を真っ赤にして目を泳がせる。すごく動揺してる……こんなヨロイさんは初めてだ。こうしてると普通の男の人みたい。
私は、そんなヨロイさんを見ていると胸が──
「きゃああああああああああ!?」
その時、タルパちゃんの悲鳴が聞こえた。
「行くぞアイル!」
ヨロイさんがヘルムを被り直す。私達は急いでみんなの所へ走った。
みんなのところへ着くと、ボロボロになったイシャルナが立ち上がろうとしていた。体をガクガクと震わせながらもゆっくりと立ち上がるイシャルナ。彼女は自分の手を見てポツリと呟いた。
「封印魔法か……力は……使えぬ……か……」
イシャルナが落ちていた漆黒の剣を拾い上げる。ヨロイさんが私を庇うように抜刀の構えを取った。
イシャルナと対峙していたシィーリアが拳を握りしめる。
「諦めろイシャルナ!! お主は負けたのじゃ!!」
「シィーリアよ……おかしいとは、思わなかったのか……? 貴様達に負けるような者が創生神を殺すなどと……どう考えても、力不足であろう……?」
イシャルナが喉元に剣を当てる。
「貴様達は甘い……我を殺さぬとはな……自らの手で下さねば……」
「な、何をやってるのよ!! 自殺する気……!?」
剣を当てたイシャルナが、私を見る。彼女の瞳は、なんだか悲しそうだった。その顔を見た瞬間、イシャルナが私の背中を撫でてくれた事を思い出した。
──あそこに行けば、その苦しみは終わる。
あの時の声、戦っている時からは考えられないほど優しい声だったことを。
「我は……ソナタのように……強くはなれない。ソナタのように……明日へ生きられない」
「イシャルナ……」
「ソナタの純粋な想いを利用してすまなかったな……桜田カナよ」
イシャルナは一瞬だけ微笑んだ後、勢い良く自分の首を掻き切った。私も含めて誰もが固まってしまって動けない。ただ、血を吹き出す彼女を見つめることしかできなかった。
「時の神エモリア……我を……」
イシャルナが膝をつく。彼女は地面に倒れ込み、広間の中心にあった女性の像へと手を伸ばした。
「ウルダリウス……愛しい子……同じ姿で生まれることができなかった……姉を……どうか……許して……」
パタリと落ちる手、息絶えた表情。イシャルナは……死んでしまった。
広間の中が静まり返る。しばらくみんな警戒していたけど何も起こらなかった。
事切れたイシャルナの前にシィーリアがしゃがみ込む。
「イシャルナ……様」
シィーリアが悲しそうな顔で、イシャルナの目を閉じた。
「彼女はツノが無いことで貴族達から虐げられていた……それを今の地位へ登用したのが彼女の弟、魔王ウルダリウス様じゃ。仲睦まじい姉弟であったが……このような苦しみを抱えておったとは……」
「イシャルナは何を言っていたんだ?」
ヨロイさんが尋ねると、シィーリアは静かに首を振った。
「我ら魔族は創生神エリオンより生まれた。創生神が我らの始祖たる存在、アクゥを3つの種族に分けたのじゃ。魔族、神族、人族へと……だが、時折そこに収まらぬ姿をした者が生まれる。それが彼女達、ツノ無しじゃ」
「イシャルナは、創生神を殺すと言っていたわ」
「そうじゃ。過去へ戻って創生神を殺せば、種族は分けられぬ。彼女は己が運命を、そして同じツノ無し達の運命を変えたかったのかもしれぬの」
みんなが沈黙する。彼女の壮絶な最後にみんな何も言うことができなくなっていた。
「帰ろう。これから大変じゃが……魔王様に全て話すつもりじゃ」
「そうだな。まずは帰って──」
ヨロイさんが言いかけたその時。
広間の中央で私達を見下ろしていた女性の像。その周辺の空間がバリバリと割れ、その中から光の球体が現れた。それに呼応するようにダンジョン中の異世界文字がチカチカと明滅を始め、轟音が時の迷宮内へ響き渡る。
「な、なんですかあれ!?」
「文字が、鼓動みたいに光ってる……」
シンとタルパちゃんが周囲を見渡す。石像が放った光球がイシャルナの方へユラユラと近付いて行く。
──ネガイ……ネガイ……エリオンノコヨ……アワレナモノヨ……ソノネガイ、トキノカミ、エモリアガ……キキトドケヨウ……。
響き渡る女性の声。光の球がイシャルナを包み込み、広間を眩いまでに照らした。
「イシャルナから離れろ!」
ヨロイさんに言われて、みんなイシャルナから距離を取る。彼女の光が激しさを増す。目が開けてられないと思った時、急に周囲が暗くなった。
「何この光……? みんな大丈夫?」
声をかけても、みんな呆然としたように上を見上げていた。私もつられて見上げてしまう。
そこには……見た事のないモンスターがいた。
天井に届くほどの大きさ。全身プラチナのような色をしていて、ドラゴンみたいな姿だけど、翼がない。代わりに虹色のヒレが6枚。それがユラユラと漂っていた。竜に似た顔。その額にはイシャルナの上半身が埋め込まれていた。
「カナシイ」
ポツリと呟いて、モンスターが周囲を見渡す。額のイシャルナは水銀のような物に覆われて、像のようになってしまった。
あまりに異様な姿。それはモンスターというより……。
「あ、あれは……古の書物で見た時の神エモリアにそっくりじゃ……」
「し、知ってるのシィーリア?」
「時間魔法を使う神じゃ……イシャルナは時間魔法を求めておった。時間魔法は神の力、それを取り込めばどうなる? もしかして……」
シィーリアが見上げたままブツブツと独り言を言う。そして、何かが繋がったように呟いた。
「イシャルナの目的は、時の神そのものになることじゃったのか……己の命を差し出してまで……」
「時の神そのもの? じゃあアイツは神になってるって事かよ?」
ヨロイさんがアスカルオを引き抜く。その視線の先には変わってしまったイシャルナがいた。彼女はただ静かにこちらを見ていた。
「……時の神は創生神と対を成す原初の神。妾達に勝てるのか? だが、やるしか……」
シィーリアが呟いた時、イシャルナがそのヒレを開いた。
「カナシイ。ケシタイ」
部屋を埋め尽くすほどの大きなヒレ。それが虹色に光る。それは、周囲から光の粒を吸収し始めた。
「マズイ!! マナを吸い出したぞ!? 時間魔法を使う気じゃ!!」
ヨロイさんがみんなの方を見た。
「タルパ! 不死鳥を先行させろ! アイルは氷結晶魔法! シンは時壊魔法でヤツの動きを少しでも妨害してくれ! シィーリアは俺と突撃するぞ!!」
「キュオオオオオオオオオ!!!」
ヨロイさんの指示とほぼ同時に不死鳥が舞い上がる。不死鳥が氷結ブレスを発射しようとした瞬間、イシャルナのヒレが不死鳥を薙ぎ払った。
「ギュオア゛ッ!?」
「不死鳥が!?」
壁に叩き付けられる不死鳥。タルパちゃんの驚いたような顔。私達が走り出そうとした瞬間、目の前に巨大な尻尾が叩き付けられる。響く轟音。シィーリアは、その顔を青くした。
「こ、行動が読まれておる……伝説通りなら、この場に漂う思念を読んでおるのか……」
思念?
「あの触角を見るのじゃ。アレは周囲の思念を読む器官。アレがある限り、ヤツに行動が見透かされる」
「そ、そんなのアリなんですか……!?」
シンがイシャルナの顔を見上げる。竜の目元には10本の触角があって、ユラユラと漂っていた。
「……ヒテイシナイデ」
ポツリと呟いたイシャルナ。龍の口から光が放たれる。それが石像に向かい、そのふもと……紫電の剣に直撃した。紫電の剣を中心に赤い魔法陣が浮かび上がる。それは部屋全体に広がり、私達の方へ向かって来た。
「時間魔法じゃ!! アレに飲まれてはいかん!!」
シィーリアが部屋の入り口にある通路を指した。そこに向かって全力で走る。私達のすぐ後ろまで赤い魔法陣は迫っていた。
「キエテ」
イシャルナの声が響いた直後、昼間のように周囲が明るくなる。
「アイル!!」
背中を押される。振り返ると、ヨロイさん達が光に飲み込まれる所だった。
手を伸ばそうとした瞬間、光が消える。目の前に、再び真っ暗になった広間が広がった。
そして。
目の前にいたヨロイさんは………跡形も無く消え去っていた。
「ヨロイさん!! ヨロイさん!!」
周囲を見渡してもヨロイさんも、シィーリアも、シンも、タルパちゃんも誰もいない。
「嘘……嘘よ……!!」
イシャルナが私を見下ろす。竜の眼は、憐れみの籠ったような顔で私を見つめた。
「カナシイ、カナシイ」
こんなの、こんなことって……これから帰っていつもの日々に戻るはずだったのに……!! ヨロイさんと、みんなと一緒に……。
「うあ゛あああああああああ!!!!」
杖を向けて炎渦魔法を発動する。イシャルナに放たれた炎の渦。しかしそれは彼女のヒレによって一瞬の内に掻き消されてしまった。
「ヒテイシナイデ」
イシャルナが呟いた瞬間、私の足元に赤い魔法陣が浮かび上がる。
「しまっ──!?」
「キエテ」
全身が真っ白な光に飲み込まれる。
私は……いつもの日々を選んだのに。
なんで、こんな……。
ヨロイさん。
シィーリアが亜空間の門に手をかざす。彼女が魔力を流し込むと、イシャルナが開けた時間魔法を呼び出すための亜空間の門が閉じた。
「……これでよし。イシャルナにも封印魔法を使った。スージニアも助けねばの。彼女が閉じ込められた門が残っておるようじゃが……」
「あ、僕が時壊魔法でこじ開けますよ。きっと巻き戻せば開くはず」
「確かにそれならいけそうじゃの!」
「私も手伝います!」
「ありがとう2人とも。だが、その前にイシャルナを拘束せねば。手伝ってくれるかの?」
タルパちゃんとシンがシィーリアに着いていく。私達も手伝おうとしたけど止められた。2人は大変だったから休めって。
「はぁ~……疲れたぜ~」
ヨロイさんが地面に横になる。その隣に腰を下ろした。
「怪我はもう大丈夫なの? 九条に相当殴られてたけど」
「ん? まぁ痛いけど平気だって」
「ダメ。ちゃんと見せて。さっきはイシャルナのこともあったしそれどころじゃ無かったんだから」
ヨロイさんのヘルムを外す。ヘルムの中のヨロイさんはボロボロで、さっきイシャルナと普通に戦っていたのが嘘みたいだ。
「わ、回復薬でも綺麗には治らないのね……」
「応急処置みたいなもんだったしなぁ。後でちゃんと回復させれば綺麗に治るさ」
ヨロイさんが九条と戦っていた事を思い出して、急に胸が苦しくなる。
俯いていると、ヨロイさんが私の頭を撫でてくれる。素顔の彼が、ボロボロのヨロイさんが優しい顔で微笑んでくれた。
「もう泣くのはいいじゃねぇか。な?」
「うん……」
ヨロイさん……大好き。
私もヨロイさんの隣に居られるように強くならないと。精神的にも……。
「あ」
「なんだよ?」
急にヨロイさんが言っていた事を思い出した。
「そういえばヨロイさん『俺のアイルを泣かせるな』って……言ったわよね?」
ヨロイさんがビシリと固まる。
「え、ああああああいい言ったかなななな……そんな事……ハハハ、必死だったからなぁ……言ったのかも」
ヨロイさんが顔を真っ赤にして目を泳がせる。すごく動揺してる……こんなヨロイさんは初めてだ。こうしてると普通の男の人みたい。
私は、そんなヨロイさんを見ていると胸が──
「きゃああああああああああ!?」
その時、タルパちゃんの悲鳴が聞こえた。
「行くぞアイル!」
ヨロイさんがヘルムを被り直す。私達は急いでみんなの所へ走った。
みんなのところへ着くと、ボロボロになったイシャルナが立ち上がろうとしていた。体をガクガクと震わせながらもゆっくりと立ち上がるイシャルナ。彼女は自分の手を見てポツリと呟いた。
「封印魔法か……力は……使えぬ……か……」
イシャルナが落ちていた漆黒の剣を拾い上げる。ヨロイさんが私を庇うように抜刀の構えを取った。
イシャルナと対峙していたシィーリアが拳を握りしめる。
「諦めろイシャルナ!! お主は負けたのじゃ!!」
「シィーリアよ……おかしいとは、思わなかったのか……? 貴様達に負けるような者が創生神を殺すなどと……どう考えても、力不足であろう……?」
イシャルナが喉元に剣を当てる。
「貴様達は甘い……我を殺さぬとはな……自らの手で下さねば……」
「な、何をやってるのよ!! 自殺する気……!?」
剣を当てたイシャルナが、私を見る。彼女の瞳は、なんだか悲しそうだった。その顔を見た瞬間、イシャルナが私の背中を撫でてくれた事を思い出した。
──あそこに行けば、その苦しみは終わる。
あの時の声、戦っている時からは考えられないほど優しい声だったことを。
「我は……ソナタのように……強くはなれない。ソナタのように……明日へ生きられない」
「イシャルナ……」
「ソナタの純粋な想いを利用してすまなかったな……桜田カナよ」
イシャルナは一瞬だけ微笑んだ後、勢い良く自分の首を掻き切った。私も含めて誰もが固まってしまって動けない。ただ、血を吹き出す彼女を見つめることしかできなかった。
「時の神エモリア……我を……」
イシャルナが膝をつく。彼女は地面に倒れ込み、広間の中心にあった女性の像へと手を伸ばした。
「ウルダリウス……愛しい子……同じ姿で生まれることができなかった……姉を……どうか……許して……」
パタリと落ちる手、息絶えた表情。イシャルナは……死んでしまった。
広間の中が静まり返る。しばらくみんな警戒していたけど何も起こらなかった。
事切れたイシャルナの前にシィーリアがしゃがみ込む。
「イシャルナ……様」
シィーリアが悲しそうな顔で、イシャルナの目を閉じた。
「彼女はツノが無いことで貴族達から虐げられていた……それを今の地位へ登用したのが彼女の弟、魔王ウルダリウス様じゃ。仲睦まじい姉弟であったが……このような苦しみを抱えておったとは……」
「イシャルナは何を言っていたんだ?」
ヨロイさんが尋ねると、シィーリアは静かに首を振った。
「我ら魔族は創生神エリオンより生まれた。創生神が我らの始祖たる存在、アクゥを3つの種族に分けたのじゃ。魔族、神族、人族へと……だが、時折そこに収まらぬ姿をした者が生まれる。それが彼女達、ツノ無しじゃ」
「イシャルナは、創生神を殺すと言っていたわ」
「そうじゃ。過去へ戻って創生神を殺せば、種族は分けられぬ。彼女は己が運命を、そして同じツノ無し達の運命を変えたかったのかもしれぬの」
みんなが沈黙する。彼女の壮絶な最後にみんな何も言うことができなくなっていた。
「帰ろう。これから大変じゃが……魔王様に全て話すつもりじゃ」
「そうだな。まずは帰って──」
ヨロイさんが言いかけたその時。
広間の中央で私達を見下ろしていた女性の像。その周辺の空間がバリバリと割れ、その中から光の球体が現れた。それに呼応するようにダンジョン中の異世界文字がチカチカと明滅を始め、轟音が時の迷宮内へ響き渡る。
「な、なんですかあれ!?」
「文字が、鼓動みたいに光ってる……」
シンとタルパちゃんが周囲を見渡す。石像が放った光球がイシャルナの方へユラユラと近付いて行く。
──ネガイ……ネガイ……エリオンノコヨ……アワレナモノヨ……ソノネガイ、トキノカミ、エモリアガ……キキトドケヨウ……。
響き渡る女性の声。光の球がイシャルナを包み込み、広間を眩いまでに照らした。
「イシャルナから離れろ!」
ヨロイさんに言われて、みんなイシャルナから距離を取る。彼女の光が激しさを増す。目が開けてられないと思った時、急に周囲が暗くなった。
「何この光……? みんな大丈夫?」
声をかけても、みんな呆然としたように上を見上げていた。私もつられて見上げてしまう。
そこには……見た事のないモンスターがいた。
天井に届くほどの大きさ。全身プラチナのような色をしていて、ドラゴンみたいな姿だけど、翼がない。代わりに虹色のヒレが6枚。それがユラユラと漂っていた。竜に似た顔。その額にはイシャルナの上半身が埋め込まれていた。
「カナシイ」
ポツリと呟いて、モンスターが周囲を見渡す。額のイシャルナは水銀のような物に覆われて、像のようになってしまった。
あまりに異様な姿。それはモンスターというより……。
「あ、あれは……古の書物で見た時の神エモリアにそっくりじゃ……」
「し、知ってるのシィーリア?」
「時間魔法を使う神じゃ……イシャルナは時間魔法を求めておった。時間魔法は神の力、それを取り込めばどうなる? もしかして……」
シィーリアが見上げたままブツブツと独り言を言う。そして、何かが繋がったように呟いた。
「イシャルナの目的は、時の神そのものになることじゃったのか……己の命を差し出してまで……」
「時の神そのもの? じゃあアイツは神になってるって事かよ?」
ヨロイさんがアスカルオを引き抜く。その視線の先には変わってしまったイシャルナがいた。彼女はただ静かにこちらを見ていた。
「……時の神は創生神と対を成す原初の神。妾達に勝てるのか? だが、やるしか……」
シィーリアが呟いた時、イシャルナがそのヒレを開いた。
「カナシイ。ケシタイ」
部屋を埋め尽くすほどの大きなヒレ。それが虹色に光る。それは、周囲から光の粒を吸収し始めた。
「マズイ!! マナを吸い出したぞ!? 時間魔法を使う気じゃ!!」
ヨロイさんがみんなの方を見た。
「タルパ! 不死鳥を先行させろ! アイルは氷結晶魔法! シンは時壊魔法でヤツの動きを少しでも妨害してくれ! シィーリアは俺と突撃するぞ!!」
「キュオオオオオオオオオ!!!」
ヨロイさんの指示とほぼ同時に不死鳥が舞い上がる。不死鳥が氷結ブレスを発射しようとした瞬間、イシャルナのヒレが不死鳥を薙ぎ払った。
「ギュオア゛ッ!?」
「不死鳥が!?」
壁に叩き付けられる不死鳥。タルパちゃんの驚いたような顔。私達が走り出そうとした瞬間、目の前に巨大な尻尾が叩き付けられる。響く轟音。シィーリアは、その顔を青くした。
「こ、行動が読まれておる……伝説通りなら、この場に漂う思念を読んでおるのか……」
思念?
「あの触角を見るのじゃ。アレは周囲の思念を読む器官。アレがある限り、ヤツに行動が見透かされる」
「そ、そんなのアリなんですか……!?」
シンがイシャルナの顔を見上げる。竜の目元には10本の触角があって、ユラユラと漂っていた。
「……ヒテイシナイデ」
ポツリと呟いたイシャルナ。龍の口から光が放たれる。それが石像に向かい、そのふもと……紫電の剣に直撃した。紫電の剣を中心に赤い魔法陣が浮かび上がる。それは部屋全体に広がり、私達の方へ向かって来た。
「時間魔法じゃ!! アレに飲まれてはいかん!!」
シィーリアが部屋の入り口にある通路を指した。そこに向かって全力で走る。私達のすぐ後ろまで赤い魔法陣は迫っていた。
「キエテ」
イシャルナの声が響いた直後、昼間のように周囲が明るくなる。
「アイル!!」
背中を押される。振り返ると、ヨロイさん達が光に飲み込まれる所だった。
手を伸ばそうとした瞬間、光が消える。目の前に、再び真っ暗になった広間が広がった。
そして。
目の前にいたヨロイさんは………跡形も無く消え去っていた。
「ヨロイさん!! ヨロイさん!!」
周囲を見渡してもヨロイさんも、シィーリアも、シンも、タルパちゃんも誰もいない。
「嘘……嘘よ……!!」
イシャルナが私を見下ろす。竜の眼は、憐れみの籠ったような顔で私を見つめた。
「カナシイ、カナシイ」
こんなの、こんなことって……これから帰っていつもの日々に戻るはずだったのに……!! ヨロイさんと、みんなと一緒に……。
「うあ゛あああああああああ!!!!」
杖を向けて炎渦魔法を発動する。イシャルナに放たれた炎の渦。しかしそれは彼女のヒレによって一瞬の内に掻き消されてしまった。
「ヒテイシナイデ」
イシャルナが呟いた瞬間、私の足元に赤い魔法陣が浮かび上がる。
「しまっ──!?」
「キエテ」
全身が真っ白な光に飲み込まれる。
私は……いつもの日々を選んだのに。
なんで、こんな……。
ヨロイさん。
10
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件
こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】
山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。
失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。
そんな彼が交通事故にあった。
ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。
「どうしたものかな」
入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。
今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。
たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。
そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。
『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』
である。
50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。
ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。
俺もそちら側の人間だった。
年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。
「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」
これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。
注意事項
50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。
あらかじめご了承の上読み進めてください。
注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。
注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。
貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~
喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。
庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。
そして18年。
おっさんの実力が白日の下に。
FランクダンジョンはSSSランクだった。
最初のザコ敵はアイアンスライム。
特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。
追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。
そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。
世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる