はるを待ちわび、かずを数える

茉莉花 香乃

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ハルを待ちわび、カズを数える

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「大きくなったら、僕のお嫁さんになってね」
「えっ、お嫁さん?」
「そうだよ。はるちゃんは可愛いお嫁さんになるよ。僕のお嫁さんになって?」
「はるでいいの?」
「当たり前だよ。はるちゃんがいい。好きだよ。僕、明日引っ越すけど、毎日遊びに来るから」

そして、俺は引越した。
約束通り、毎日通った。はるちゃんのお母さんは帽子を目深に被り、マスクをしたら俺の家に行っても良いと言ってくれた。相変わらず外では遊ばないでと言われたけれど、アパートの部屋より俺の家の方が広い。新しい家で隠れんぼしたりゲームしたり、楽しい時間だった。

ところが、突然はるちゃんが引っ越した。俺には何も告げずに。

泣きながら母さんにどうしてと聞いた。

「はるちゃんのお姉ちゃんが小学校に上がるから、受け入れてもらえる学校の近くに引っ越したんだって」

俺の家の近くにも勿論小学校はある。理解できない大人の事情は幼い俺を混乱させた。

「お嫁さんになってくれるって言ったのに」

母さんに抱きつき、泣きながら叫んだ。

「一登、はるちゃんと結婚するの?」
「そうだよ!お母さん知らないの?結婚したら、お嫁さんになるんだよ」
かず、はるちゃん、男の子だよ?」
「へっ?」

涙が引っ込み、今の言葉を頭の中で繰り返す。はるちゃんは男の子?

「嘘だ!あんなに可愛いのに!」
「でも、はるちゃんのお母さんに聞いたからね、本当だよ。一登が勘違いしてるかなって思ってたけど、まさか、お嫁さんとは…」

顔は見てないけど、きっと笑ってた。絶対に笑ってたと思う。

俺は引き下がらなかった。

「だって、スカートはいてたじゃない!」
「嫌がってたでしょ?お姉ちゃんのお下がりだから、どうしても女の子の服になるのよ。一登の着られなくなった服もあげたけど、かずと遊ぶ時は着てなかったんでしょ」


……そして、俺の初恋はあっけなく終わった。



◆◆◆◆◆



「一登、ぼけっとしてないで準備はできてるの?」

意識を過去に…苦い思い出にタイムスリップさせていた。頭を現実に引き戻す。

「ああ、バッチリ。あとは母さんの厚塗…イッテーな、暴力反対」
「あんたが余計なこと言うからよ」

今日は高校の入学式だ。同じ中学の奴が十人くらいいるから特に緊張とかはしない。

…いや、多少のドキドキはある。中学に入る時も感じたこのドキドキははるちゃんがいたらどうしよう…と言う緊張だ。

男に告るって…俺の汚点でしかない。実は苗字もちゃんとした名前も知らない。『はるき』なのか『つぐはる』なのか。そもそも『はる』と名前に入っているのか?十年以上会わないのに顔を見てわかるわけないだろ?

名前もわからないのなら調べる術はない。俺の名前は知られている。はるちゃんが覚えていればの話だけど…。

なんか、モヤモヤする。覚えてるなよ!お前俺の事好きだったよな?なんてみんなの前で言われてみろ、いい恥さらしだ。あの可愛かったはるちゃんがどんな十年を過ごしたか知らないけど、どうかイケイケの兄ちゃんになってませんように。

…まあ、同じ高校の可能性の方が低い。DVなら父親から逃げて遠くに行ってるだろう。あの時は幼過ぎて理解できなかったけど、外で遊ぶことができなかったり、いつもスカートだったのは父親から逃げるためだ。もし、見つかれば…そう考えると、一歩も外に出したくなかったはずだ。だから、同じところには来ないだろう。


「一登、同じクラスなんてラッキーだな」
「俺はヤダね」

怒る坂口直樹に冗談だよと返しながら、前の席に座る小さい背中を見つめた。俺が一番じゃなかったことは今までない。相沢って苗字は『あ』から始まる苗字の奴がいても『荒木』や『青田』、『浅井』では俺の前にはきてくれない。全国的にみるとあるだろうけど、同じ学校で見たことない。

だから、初めてなんだ、二番。廊下に張り出されていた名簿の一番最初は『藍川 晴彦』…そんなわけないよな。

朝、母さんの一言で思い出してしまったから敏感になってるだけ。
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