はるを待ちわび、かずを数える

茉莉花 香乃

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ハルに思う、その全てがカズ限りない気持ちだと

05

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「疲れただろ?」
「疲れてないけど、緊張した」

菜月さんとの約束をまた破った。写真を見せるために部屋に招いたのだ。それに、今までなら友だちが遊びにきて、俺の部屋に入らなかったことはない。これが自然な流れなんだよ。仕方ないだろ。

これからもこうして家に招いた日は俺の部屋で小一時間を過ごすことになるだろう。この少しの楽しみを菜月さんに報告する気はない。

「これがはるちゃんの写真」
「あっ、ありがと。わぁ…かずくん、可愛い」
「はるちゃん、それ、違うから。はるちゃんのが可愛いだろ?」
「違うよ!かずくんの方がカッコ可愛いのに!ほら、見て?」

いやいや、見てるよ。でもまあ、確かに自分の顔なんて見てるようで見てなかった。いつもはるちゃんを見るためだけにこの写真を眺めるのだから。

高校に入ってからは、机から引っ張り出される回数は増えた。今までなら一年に一度か二度だったのに毎日のように引き出しの中から机の上に移動する。そして、突然の侵入者に見つからないように、また引き出しの中にしまわれるのだ。

「これが麻里子の持ってた写真」
「うわー、かずくん、カッコいぃ。麻里ちゃん、小ちゃい」

はるちゃんの頭の中の俺はどうやら相当カッコ良く出来上がってるようだ。嬉しいけど、照れ臭い。

「はるちゃん、こっち」

手を引きベッドに並んで座る。

「かずくん…」
「ダメ…、ちゃんとおねだりして?」
「…無理…」
「じゃあ、はるちゃんから」

俯いて、膝の上の手をギュッと握る。『おねだり』するよりも『自分から』を選んだのか、すっと立ち上がり俺の前に立つと手を取った。頬や耳が真っ赤だ。片膝を俺の足の横につけて乗り上げ、そのまま跨るように俺の膝に座る。

ジッと見つめられて心臓が破裂しそう。一つ一つの動作がゆっくりで、それが更にドキドキを加速させる。俺の肩に両手を置いて徐々に近付く唇から目が離せない。恥ずかしさからかあと少しで触れるという所まで来るとはるちゃんの瞼は閉じられた。震えるまつ毛にキスしたくなる。

そして、触れるだけのキス。

「これで、いぃ?」
「可愛かったよ。もっとキスして良い?」
「うん…、もっと…シテ…」






あの挨拶から約一ヶ月が経った。この頃暑い日が続き制服のブレザーが暑苦しかったけど、今日は着ていて丁度良い感じ。

そんな今日は金曜日。母さんは今週末にもはるちゃんを連れてこいと言う。願ったり叶ったりだ。

今までの週末は部活がない時間にはるちゃん家に遊びに行った。試験勉強も一緒にした。お目付役のように菜月さんも隣で勉強しているので甘さはほぼ無く、ただしなければならないことをした。
塾にはまだ行ってない。そろそろ考えなければと思っている頃にはるちゃんと付き合い始めた。色ボケと自分でも思うけれど、会う時間が減ってしまう。でも、怠けてるわけじゃない。むしろ誰からも文句を言わせないために頑張っている。

今日も駅で待ち合わせ。朝の慌ただしい構内では、学生が一人柱の前で立っていたって誰も気にしない。人々は足早に通り過ぎて行く。珍しくはるちゃんの方が遅い。

あの日、家まで送って行ってはるちゃんのお母さんに挨拶した。俺の母さんははるちゃんのお母さんに渡すためにはるちゃんが写ってる写真をプリントアウトしていた。それを手渡し、お付き合いさせてくださいとお願いした。俺ん家ではできなかった挨拶だけど、二人の事を知られているはるちゃんのお母さんには、きちんと言っておかなければ男がすたる。

はるちゃん家に固定電話はない。お母さんとも電話番号を交換して、俺は藍川家三人全ての連絡先を知っている。因みにお母さんの名は緑子みどりこさんと言う。

「お母さんなんて呼びにくいでしょ?緑で良いわよ」

緑なんて呼び捨てにできない。

「緑、さんで…」
「あら、素敵」
「お母さん!良い加減にしてよ!」
「あらあら、春、ヤキモチ?」

ぷぅっと頬を膨らませたはるちゃんは可愛い。その頬を両手で包み顔を寄せると、一気に赤くなる。

「はるちゃん?」

名を呼ぶと自分の行動が恥ずかしかったのか、頬を持たれているのが恥ずかしいのか手を払いのけて俺の背中に隠れた。



「おはようございます」
『一登くん、おはようございます。どうしたの?』
「えっ?あの、はるちゃんは?」

さっきから何度もはるちゃんの携帯電話に掛けているけれど繋がらない。電源が入ってない、電波が届いてないと無情な声が聞こえるだけ。

『春?春ならいつもの時間に出たわよ。まだ着いてないの?おかしいわね』

待ち合わせの時間を十分も過ぎた。今頃電車は俺たちを乗せないまま定刻通りに発車しているだろう。

『わたしが探すから、一登くんは学校行きなさい』

何かを理解したのか緑さんは落ち着いている。

「そんなの無理です!今から、そちらに向かいます。途中で気分が悪くなって座ってるだけかも…」

そう言いながら、電話に出なかったはるちゃんを思い、激しい動悸に耐えながら走り出した。
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