はるを待ちわび、かずを数える

茉莉花 香乃

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ハルに思う、その全てがカズ限りない気持ちだと

08

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「あの…俺たち別の部屋、行ってましょうか?」

二人で言い合い始めた会話は、息子に聞かせるようなたぐいの話じゃないんじゃないかな?過去の話だしはるちゃんには関係ないけど、母親の女の部分は息子としては聞きたくない。

「緑子、こいつ誰?」
「春の彼」
「彼?恋人って事か?最近いつも春彦と一緒に通学してたな。お前、許したの?」
「そうよ」
「おいおい!そうよって!春彦は男だぞ?そんなのおかしいだろ?」
「あんたは変わんないわね。昔から世間体に振り回されて」
「あっ!」

思い出した!

「な、何よ!急に大きな声で!びっくりするじゃない」
「はるちゃん、言ってたよな。『駅でも通学途中でも視線を感じる』って。こいつに見られてたのか!」
「まあ、そうなんでしょ」
「緑さん!」
「落ち着きなさいって」
「何だよ、緑子。緑さんなんて呼ばれて…。お前、随分懐かれてんな……。えっと…悪い」

緑さんに睨まれて、男は口をつぐんだ。

「叔父さん…なんだよね?僕はどうしてここに連れてこられたの?」

今まで黙って三人の会話を聞いていたはるちゃんは、右手首を前に突き出し、怪我をしたんだぞと男を睨む。

たまに見せる俺に対する睨みは可愛くて、上目遣いのちょっと細められた瞳なんかゾクゾクするだけなんだけど、今のはるちゃんは違う。

「殺されるんじゃないかって凄く怖かったんだから!」

隣に座る俺にははるちゃんの震えが伝わる。ソファーに座ってからは膝が触れるくらいの近さだったけど、本当は俺に抱きつきたいんじゃないかな?玄関先で男に会った時にパッと離れ、それから手も握っていない。恋人だと知られたからもう良いだろ。

「はるちゃん…」

突き出していた右手を俺の両手で包む。男が嫌そうな顔をするけど、お前には関係ない。

「わたしも知りたいわ。どうして今ごろ顔を出したのよ。それに、どうしてわたしじゃなく春彦なの?お門違いだけど、わたしに恨みがあるんなら直接来なさいよ。大体、あんたに傷つけられたのはわたしなんだからね!」

はるちゃんは説明しろと男を睨んだけれど、俺が手を握った途端泣き出した。そして、泣き疲れて抱きついたまま寝てしまった。

ずっと緊張していたんだろう。俺の膝に頭を乗せて丸まって寝ている恋人に、緑さんに借りたパーカーを脱いで掛けてやる。サラサラの髪に指を絡め撫で続けた。

男はそんな俺たちを軽蔑の目で見る。
緑さんは俺に話し始めた。

「春彦にはあまり聞かせたくないから、ちょうど良いわ」

緑さんと男…宮下たかしははるちゃんたちの父親と付き合う前に半年ほど付き合ったことがあった。

「最初、わたしはきよしさんが好きだった」

潔とは二人の父親の名前だ。

「まだ誰とも付き合う前よ。潔さんにデートに誘われて、喜んで出掛けたらそこには隆が来ていた」

隆は緑さんに、兄貴がイヤイヤ誘ったデートで本当は行きたくないからお前が代わりに行ってくれと頼まれたと言う。緑さんは傷つくよな。そんな時に隆に優しくされて、おまけに潔に彼女が出来たなんて聞かされたら…余計に心の隙を埋めて欲しいって思ってしまう。

隆はそこにつけ込んだんだ。男として最低な野郎だ。付き合い始めた隆と緑さんは、始まりがそんなだからか隆がいい加減すぎたのか上手くいかない。半年ほど付き合って隆の浮気が原因で敢え無く破局。隆は直ぐに資産家の娘と結婚したそうだ。

偶然緑さんと潔が再会した。
そして、隆の嘘が明るみになる。

潔は緑さんが好きだった。玉砕覚悟でデートを申し込んだ。ただ、そのデートの日に熱が出た。その当時携帯電話は今ほど普及していなくて二人は持っていなかったから連絡の取りようがなかった。だから隆に理由を説明して断ってきて欲しいとお願いした。緑さんは下宿していて、その部屋にも電話はなかった。

「それでどうして、こんなことになったんですか?」

はるちゃんの両親の馴れ初めはわかった。けど、今回のことは話が違う。

「おかしくなり始めたのは、菜月が生まれて半年ほど経ってからだったかな」

菜月さんを抱く弟を見た潔は娘が隆に似ていると思い、ポツリとそれを口にした。それに他意はなく叔父と姪の微笑ましい情景のはずだった。

しかし、隆がここでも冗談で済まされない嘘を言う。

「だって俺の子だから」
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