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ハルが咲く、向日葵と笑顔カズ知れぬ
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「春彦、まだ一人じゃ不安だと思うの。申し訳ないけど、菜月が帰ってくるまで一緒にいてあげて欲しいんだけど」
「あら、勿論よ」
緑さんは母さんの手前多少丁寧に言ってくれたけど、明らかに俺に向けての言葉だった。けれど、返事したのは母さんで、緑さんは恐縮しながら、仕事に行くからと帰っていった。車も返さなければならない。
菜月さんにはなんて言うのか気になったけど、しばらくは黙っておくらしい。はるちゃんは覚えていないお父さんの暴力を菜月さんは覚えていた。学校の学年では一学年しか違わないけど、五月生まれの菜月さんと三月生まれのはるちゃんではほぼ二年の年の差がある。大人の男の大きな声や暴力には未だに敏感で、攫われたはるちゃんより精神的には菜月さんの方が心配だと緑さんは言う。
小さなはるちゃんと遊んでいた日々。俺がなっちゃんと遊んでなかったのは、お母さんと離れられなかったから。幼稚園に在籍していたけれど、あまり出席できずあのアパートの部屋に籠もりがちだった。俺がはるちゃんを連れ出し一緒に遊ぶことは、なっちゃんにとってお母さんを独り占めできる貴重な時間だったようだ。
「藍川、俺の部屋行こ?」
「えっ?」
「疲れてるだろう?半時間くらい横になったら良い。なあ、母さん」
「そうね…」
母さんの視線が探るように俺とはるちゃんを行き来する。
「三十分経ったら下りてくるから」
「わかったわ」
自分で時間を区切った。
それでも二人きりになりたかった。
どうやら母さんは疑ってる。俺の気遣うような態度や視線が原因か?でも、まさか付き合うとかはないと思っているだろう。それが普通だ。それでも疑っている。何かが引っかかったのだろう。俺たちの雰囲気が友達のそれとは違ったのかもしれない。
今まで直樹と一日中部屋に籠ってゲームしてたって、一緒に風呂入ったって疑うことなんて当たり前だけど微塵もない。
けれど、はるちゃんと部屋に行くと言うだけでこれだ。俺があの時はるちゃんが行方不明だと言えば良かったのか?俺の中ではるちゃんの事をまだ隠しておきたい気持ちが強く、咄嗟に誤魔化した。
匂わす感じでと思っていたけど、ダダ漏れだったみたい。今日はあんなことの後で更にいつもと違ったのかもしれない。ちょっと引き締めないと。
部屋に入りドアを閉めた。この部屋に鍵なんて付いてない。
「はるちゃん…」
手を引いてベッドに座った。そのまま膝の上に抱き上げる。
「ちょっ、ダメだよ」
「少しだけ」
「でも、おばさん…何か」
はるちゃんも母さんの態度がいつもと違っていたことに気付いていた。
「それはゆっくり考えよ?はるちゃん、キスしたい」
「うん、それは僕もしたいけど…」
「怖かったね。俺が守るから、もう怖くないよ」
「うん。怖かった…。でも、こうしてると落ち着く。かずくん、好き」
触れるだけのキスをした。はるちゃんの目からは涙が溢れた。
「どしたの?」
「…わからない。変なの。怖かったの我慢してたからからかな…さっきも泣いたのに…」
涙を吸い取るよに目や頬にキスをした。抱きしめて、頭を優しく撫でる。何度も何度も落ち着くまでキスを繰り返し、撫で続けた。十分もそうしていると落ち着いたのか涙は止まった。
「ごめんね」
「何で謝るんだよ」
「だって、僕のせいでお母さんに変な目で見られたら…、僕…」
「大丈夫だって」
そんなの気休めだってわかってるのか、まだ何か言いたそうだけど言い争いはしたくない。それ以上は何も言わなかった。
母さんのあの探るような視線は今まで見たことないものだった。でも、その中に嫌悪の感情は無いと思った。願望かもしれないけど、それは不安と心配と言う、親なら当たり前の気持ちだと思った。
「少し目を瞑って休んだら?」
「寝られないよ。それにもう直ぐ下りる時間でしよ?」
「眠れなくてもそうすると休まると思うよ」
「…うん。かずくん、抱きしめててね」
「わかってる」
俺の脇の下に腕を回し抱きついてくる可愛いはるちゃん。
母さんのあの探るような視線を見てからは笑顔を見せてくれなくなった。
「あら、勿論よ」
緑さんは母さんの手前多少丁寧に言ってくれたけど、明らかに俺に向けての言葉だった。けれど、返事したのは母さんで、緑さんは恐縮しながら、仕事に行くからと帰っていった。車も返さなければならない。
菜月さんにはなんて言うのか気になったけど、しばらくは黙っておくらしい。はるちゃんは覚えていないお父さんの暴力を菜月さんは覚えていた。学校の学年では一学年しか違わないけど、五月生まれの菜月さんと三月生まれのはるちゃんではほぼ二年の年の差がある。大人の男の大きな声や暴力には未だに敏感で、攫われたはるちゃんより精神的には菜月さんの方が心配だと緑さんは言う。
小さなはるちゃんと遊んでいた日々。俺がなっちゃんと遊んでなかったのは、お母さんと離れられなかったから。幼稚園に在籍していたけれど、あまり出席できずあのアパートの部屋に籠もりがちだった。俺がはるちゃんを連れ出し一緒に遊ぶことは、なっちゃんにとってお母さんを独り占めできる貴重な時間だったようだ。
「藍川、俺の部屋行こ?」
「えっ?」
「疲れてるだろう?半時間くらい横になったら良い。なあ、母さん」
「そうね…」
母さんの視線が探るように俺とはるちゃんを行き来する。
「三十分経ったら下りてくるから」
「わかったわ」
自分で時間を区切った。
それでも二人きりになりたかった。
どうやら母さんは疑ってる。俺の気遣うような態度や視線が原因か?でも、まさか付き合うとかはないと思っているだろう。それが普通だ。それでも疑っている。何かが引っかかったのだろう。俺たちの雰囲気が友達のそれとは違ったのかもしれない。
今まで直樹と一日中部屋に籠ってゲームしてたって、一緒に風呂入ったって疑うことなんて当たり前だけど微塵もない。
けれど、はるちゃんと部屋に行くと言うだけでこれだ。俺があの時はるちゃんが行方不明だと言えば良かったのか?俺の中ではるちゃんの事をまだ隠しておきたい気持ちが強く、咄嗟に誤魔化した。
匂わす感じでと思っていたけど、ダダ漏れだったみたい。今日はあんなことの後で更にいつもと違ったのかもしれない。ちょっと引き締めないと。
部屋に入りドアを閉めた。この部屋に鍵なんて付いてない。
「はるちゃん…」
手を引いてベッドに座った。そのまま膝の上に抱き上げる。
「ちょっ、ダメだよ」
「少しだけ」
「でも、おばさん…何か」
はるちゃんも母さんの態度がいつもと違っていたことに気付いていた。
「それはゆっくり考えよ?はるちゃん、キスしたい」
「うん、それは僕もしたいけど…」
「怖かったね。俺が守るから、もう怖くないよ」
「うん。怖かった…。でも、こうしてると落ち着く。かずくん、好き」
触れるだけのキスをした。はるちゃんの目からは涙が溢れた。
「どしたの?」
「…わからない。変なの。怖かったの我慢してたからからかな…さっきも泣いたのに…」
涙を吸い取るよに目や頬にキスをした。抱きしめて、頭を優しく撫でる。何度も何度も落ち着くまでキスを繰り返し、撫で続けた。十分もそうしていると落ち着いたのか涙は止まった。
「ごめんね」
「何で謝るんだよ」
「だって、僕のせいでお母さんに変な目で見られたら…、僕…」
「大丈夫だって」
そんなの気休めだってわかってるのか、まだ何か言いたそうだけど言い争いはしたくない。それ以上は何も言わなかった。
母さんのあの探るような視線は今まで見たことないものだった。でも、その中に嫌悪の感情は無いと思った。願望かもしれないけど、それは不安と心配と言う、親なら当たり前の気持ちだと思った。
「少し目を瞑って休んだら?」
「寝られないよ。それにもう直ぐ下りる時間でしよ?」
「眠れなくてもそうすると休まると思うよ」
「…うん。かずくん、抱きしめててね」
「わかってる」
俺の脇の下に腕を回し抱きついてくる可愛いはるちゃん。
母さんのあの探るような視線を見てからは笑顔を見せてくれなくなった。
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