彼氏未満

茉莉花 香乃

文字の大きさ
2 / 40
幸せだった日々

01

しおりを挟む
◇◇◇◇◇


出会いは高校の入学式だった。

桜がチラチラと舞う校門までの坂道を、友だちと談笑しながら歩く姿に目が離せなかった。

少し大きな真新しい制服のブレザーが、一年生だと教えてくれる。
スラリと背が高く、勝気な目と通った鼻筋、整った顔立ちは見られることに慣れた笑顔。

モテるだろうことは一目でわかる。
僕も一瞬で恋に落ちたのだから。

自分の性的指向が同性に向かうことに気付いたのは、実は最近。

中学の卒業式が終わり、帰り際にクラスメイトの女子から告白された。断ると、思い出にするからキスして欲しいと頼まれた。キスをすることに、少しもドキドキしない。体育の授業の方がよほど胸を高鳴らせた。ああそう言うことか、と人ごとのように理解した。
同じくらいの身長のその子の頬に触れるか触れないかのキスをした。頬を染め、ありがとうと走り去る背中は振られた直後にも関わらず、どこか嬉しそうだった。

名前も知らない一目惚れの相手は、座った場所から同じクラスだとわかった。僕のテンションは一気に上がる。かと言って僕から告白なんか、勿論しない。そんな冒険するわけないでしょ。

入学から一週間が経った頃、その一目惚れくん…馬渕直輝が昼休みに「ちょっと良い?」と話しかけてきた。

中庭の背の高い木の横にあるベンチ。ここは校舎からは見えにくく、後で聞いた話では告白とかによく使われるらしい。

「な、何?」

その日、先客はいなくて中庭に二人きり。個人的に話したことがないのに、何か文句でも言われるのだろうか?
存在がウザいとか、消えてくれとかイジメに繋がる何かを言われたらどうしよう…。

「お前さ、俺の事、好きなの?」
「えっ?な、何で…?」
「ずっと、チラチラ見てたじゃん、俺の事」
「ご、ごめん…あっ、いや、そうじゃなくて…」

ずっと見てたの認めたらダメじゃん…。ああ、何て言って誤魔化そう…。そんなにあからさまに見てたかな?言い訳も、謝ることもできない。もう見ないと言えば、今まで見てたことを認め、気持ち悪がられる。目の前の男の取り巻きにボコられる自分の姿を想像してぶるっと震えた。

そんな僕を優しく見つめる馬渕。

えっと…殴られたりしないのかな?

「あのさ、俺の事、好きなら、付き合わない?」
「ご、ごめ…、えっ?嘘…」
「ホント」
「気持ち悪く…」
「…ないよ?」
「彼女は…?」
「今はいない」

今は…。
それは、いずれ出来るってことなのだろう。

「じゃあ、よろしく」

爽やかに笑われて、サラリとそんなセリフを言われ、思考が付いていかない。

「早速、今日一緒に帰ろうか?」
「あの…」
「ん?」
「クラスのみんなには内緒にしないの?」

あまりにあっけらかんとした馬渕に心配になって聞いてみると、不思議そうな顔をする。

「言ったら嫌なのか?」
「う、うん」
「じゃあ、内緒で」

ええっ!僕が言っても良いって言えば男同士の付き合いをみんなに言っちゃうの?

「学校では今で通りで…」
「ええっ!それじゃ、学校ではしゃべれないじゃん」

彼女が出来るまでの繋ぎの付き合いなら、あまりみんなの前で近寄らない方が、別れた時のダメージが少ないと思うんだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

不倫の片棒を担がせるなんてあり得ないだろ

雨宮里玖
BL
イケメン常務×平凡リーマン 《あらすじ》 恋人の日夏と福岡で仲睦まじく過ごしていた空木。日夏が東京本社に戻ることになり「一緒に東京で暮らそう」という誘いを望んでいたのに、日夏から「お前とはもう会わない。俺には東京に妻子がいる」とまさかの言葉。自分の存在が恋人ではなくただの期間限定の不倫相手だったとわかり、空木は激怒する——。 秋元秀一郎(30)商社常務。 空木(26)看護師 日夏(30)商社係長。

伯爵家次男は、女遊びの激しい(?)幼なじみ王子のことがずっと好き

メグエム
BL
 伯爵家次男のユリウス・ツェプラリトは、ずっと恋焦がれている人がいる。その相手は、幼なじみであり、王位継承権第三位の王子のレオン・ヴィルバードである。貴族と王族であるため、家や国が決めた相手と結婚しなければならない。しかも、レオンは女関係での噂が絶えず、女好きで有名だ。男の自分の想いなんて、叶うわけがない。この想いは、心の奥底にしまって、諦めるしかない。そう思っていた。

勇者様への片思いを拗らせていた僕は勇者様から溺愛される

八朔バニラ
BL
蓮とリアムは共に孤児院育ちの幼馴染。 蓮とリアムは切磋琢磨しながら成長し、リアムは村の勇者として祭り上げられた。 リアムは勇者として村に入ってくる魔物退治をしていたが、だんだんと疲れが見えてきた。 ある日、蓮は何者かに誘拐されてしまい…… スパダリ勇者×ツンデレ陰陽師(忘却の術熟練者)

【完結】恋人になりたかった

ivy
BL
初めてのキスは、 すべてが始まった合図だと思っていた。 優しい大地と過ごす時間は、 律にとって特別で、 手放したくないものになっていく。 けれど……

永久糖度

すずかけあおい
BL
幼い頃、幼馴染の叶はままごとが好きだった。パパはもちろん叶でママはなぜか恵吾。恵吾のことが大好きな叶の気持ちは、高校二年になった今でも変わっていない。でも、これでいいのか。 〔攻め〕長沼 叶 〔受け〕岸井 恵吾 外部サイトでも同作品を投稿しています。

『聖クロノア学院恋愛譚 』記憶を失ったベータと王族アルファ、封印された過去が愛を試すまで

るみ乃。
BL
聖クロノア学院で、記憶と感情が静かに交差する。 「君の中の、まだ知らない“俺”に、触れたかった」 記憶を失ったベータの少年・ユリス。 彼の前に現れたのは、王族の血を引くアルファ・レオンだった。 封じられた記憶。 拭いきれない心の傷。 噛み合わない言葉と、すれ違う想い。 謎に包まれた聖クロノア学院のなかで、 ふたりの距離は、近づいては揺れ、また離れていく。 触れたいのに、触れられない。 心を開けば、過去が崩れてしまう。 それでも彼らは、確かめずにはいられなかった。 ――やがて、学院の奥底に眠る真実が、静かに目を覚ます。 過去と向き合い、誰かと繋がることでしか見えない未来がある。 許し、選びなおし、そしてささやかな祈り。 孤独だった少年たちは、いつしか「願い」を知っていく。 これは、ふたりの愛の物語であると同時に、 誰かの傷が、誰かの救いへと変わっていく物語。 運命に抗うのは、誰か。 未来を選ぶのは、誰なのか。 優しさと痛みが交差する場所で、物語は紡がれる。

無愛想な氷の貴公子は臆病な僕だけを逃さない~十年の片想いが溶かされるまで~

たら昆布
BL
執着ヤンデレ攻め×一途受け

処理中です...