撫子の華が咲く

茉莉花 香乃

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それは突然のことでした

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高い身分の父を持ち、皇族の血を引き身分こそ高いが生活がやっとの母から生まれた。

気まぐれな父は偶にふらりと訪れては半年来ないのは何時もの事だった。

ーーーこの時代の結婚は夫が妻の元に通う『通い婚』が普通でありました。(夫は妻の親が「我が家の婿君」と大事にもてなし、孫を養育します)

かあさまはそれでも明るくて、大人の事情など知らずにわたしは大きくなった。

困ったのはかあさまが亡くなって、しばらく経った時だ。
だんだんと召使いを雇い続ける事が出来なくなってきた。

元からわたしに仕えてくれていたのは数人だったけれど今では、乳姉妹の女房にょうぼう侍女じじょ)の桔梗ききょうとその弟の惟忠これただ、どこにも行くところがないから置いてくれと云う女童めのわらわ(召使いの少女)の小百合を残すのみとなってしまった。

桔梗は今までしていなかった台所の仕事を多少…嫌な顔をしながらもわたしに不自由がないように仕えてくれている。

とうさまからは文も何もない。
忘れているのに違いない。別に期待はしていないけれど。

そんな時、綺麗と評判のわたしの元に通ってくれる殿方が現れた。

ーーーその噂は家族や側近の女房などがせっせと流すのだ。
若い人たちは、「どこぞの姫が美人だ」「歌才がある」「慎ましやか」と流される噂に、まだ見ぬ姫に恋心を抱き文を贈るのである。だから、ようやく結婚できても朝を迎えて、「びっくり」と云う事もあると聞く。

けれど、わたしのかあさまも綺麗と評判だったため、本当に噂だけではないのではないかと信憑性があったのかもしれない。

その人の名は源保憲みなもとのやすのりと云う。ちょっと歳上だけど、優しくて、会ってみると顔も好みだった。誠実に毎日のように文をくれて、『大切にする』と約束してくれた。

次の国司に任命されていて経済的にも支援してくれると云う。暇を出していた召使いの他、新しく数人を雇い、明日のご飯の心配をしていたのに急展開に一番喜んだのは乳姉妹の桔梗だった。
そう、一番苦労をかけた。


そんなある日、とうさまから文が来た。

とうさまは、今は右大臣であり今上帝の覚えもめでたいと、前に嫌味のように惟忠が云っていた。

桔梗と午後のひと時を保憲さまから頂いた唐菓子をお供に、お茶を飲んで過ごしていた時だった。

「失礼します」

小百合だ。

「どうしたの?」
「右大臣さまのお屋敷からお使者が来られました。惟忠さんは出かけてますので、どのようにいたしましょう」

「それならば、わたくしが出ます」

迎えたのは桔梗だった。

本来なら雑務他一切を任せている桔梗の弟惟忠が出るのだが、諸用で外出していた。惟忠は若いがしっかりしていて、仕事も抜かりなくしてくれる。
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