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それは突然のことでした
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☆★☆ ★☆★ ☆★☆
わたしには五人の子どもがいる。
息子二人に娘が三人。
いやもう一人。
北の方(奥さん)として迎えたのはわたしの若い時にたった一人通っていた人だった。名を政子と云う。
特に美人と云う訳でもないけれど歌才があるとの噂通り、わたしと趣味も合った。若い時はおとなしく、控えめな人だった。
次々と子どもを産んで、それ程女に興味があった訳では無かったので、政子一人だった。
でも、ある日琴の音色につられて訪れた屋敷に綺麗な姫がいた。
その人は欲が無く、屋敷に呼んでくれとも、生活が厳しいとも云わなかった。
しかし、生活は見れば分かる。
私はこの綺麗な人の生活の手助けをした。
やがて姫を産んだが、政子に知れてしまった。
他に通っている人もなく、屋敷に呼ぶと云っている訳でも無いのに、『一人くらい良いではないか』と思ったが、姫を産んだのがいけなかったのか…。
年とともに嫉妬深くなった政子は、わたしの行動を監視しているところもあり、やがて足は遠のいたが偶にふらりと訪れたし、生活の援助はしていた。
やがて身体が弱かったその綺麗な人は亡くなってしまった。
ある日、帝の御前で貴族たちと午後のひと時を過ごしている時に、東宮(皇太子)の話しになった。
東宮は居るには居る。
東宮の母君は身分が高いと云うだけで入内した中宮(天皇の妻)だった。その母君が亡くなり、東宮には後ろ盾が無かった。
わたしの娘は当今さま(帝=主上)よりも九つばかり年上で諦めていた。
今、後宮には三人の女御さまがいらっしゃるが帝はどなたにも関心がなく、貴族たちは自分の娘を後宮に上げて東宮の座を奪おうと考えているのだ。
そんな時ライバルの貴族が自分の娘はどうかと云う。
お前のとこは確かうちの娘より年上で貰い手が無かったのではないか?
帝は興味が無いのかどこか生返事だ。
御帳台の中でいらっしゃるのかどうか分からない。
その時、兄の左大臣が不意に云った。
「兼道の所には確か外に姫が居るとか?綺麗と評判だと噂に聞きましたぞ」
ああ、そう云えば、綺麗なあの人が亡くなって、最近はとんと訪れていない。
すると帝が「姫が居るのか…」と興味を持たれた。
「そなたのところは皆、結婚していると聞いていたけれど」
ずっとほったらかしでも娘は娘。
今の身分が安泰ならと、それ以上を望まないわたしに帝は何時も信頼を寄せてくれている。
今も、年頃の姫が居れば、いや、年頃じゃない姫でも、隙あらばと中宮、或いは女御にと躍起になるものだ。
そうだ、あの姫を忘れていた。
帝がどこぞの姫に興味を持たれるなど、今までになかったことなので皆が『ああ、兼道がこれ以上出世するのか…』と思っているに違いない。
今なら呼び寄せて、後宮に上げられるか?
野望はそんなに無いが、最後の華を咲かせたい。
次代の帝の祖父さまになれるかも。
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わたしには五人の子どもがいる。
息子二人に娘が三人。
いやもう一人。
北の方(奥さん)として迎えたのはわたしの若い時にたった一人通っていた人だった。名を政子と云う。
特に美人と云う訳でもないけれど歌才があるとの噂通り、わたしと趣味も合った。若い時はおとなしく、控えめな人だった。
次々と子どもを産んで、それ程女に興味があった訳では無かったので、政子一人だった。
でも、ある日琴の音色につられて訪れた屋敷に綺麗な姫がいた。
その人は欲が無く、屋敷に呼んでくれとも、生活が厳しいとも云わなかった。
しかし、生活は見れば分かる。
私はこの綺麗な人の生活の手助けをした。
やがて姫を産んだが、政子に知れてしまった。
他に通っている人もなく、屋敷に呼ぶと云っている訳でも無いのに、『一人くらい良いではないか』と思ったが、姫を産んだのがいけなかったのか…。
年とともに嫉妬深くなった政子は、わたしの行動を監視しているところもあり、やがて足は遠のいたが偶にふらりと訪れたし、生活の援助はしていた。
やがて身体が弱かったその綺麗な人は亡くなってしまった。
ある日、帝の御前で貴族たちと午後のひと時を過ごしている時に、東宮(皇太子)の話しになった。
東宮は居るには居る。
東宮の母君は身分が高いと云うだけで入内した中宮(天皇の妻)だった。その母君が亡くなり、東宮には後ろ盾が無かった。
わたしの娘は当今さま(帝=主上)よりも九つばかり年上で諦めていた。
今、後宮には三人の女御さまがいらっしゃるが帝はどなたにも関心がなく、貴族たちは自分の娘を後宮に上げて東宮の座を奪おうと考えているのだ。
そんな時ライバルの貴族が自分の娘はどうかと云う。
お前のとこは確かうちの娘より年上で貰い手が無かったのではないか?
帝は興味が無いのかどこか生返事だ。
御帳台の中でいらっしゃるのかどうか分からない。
その時、兄の左大臣が不意に云った。
「兼道の所には確か外に姫が居るとか?綺麗と評判だと噂に聞きましたぞ」
ああ、そう云えば、綺麗なあの人が亡くなって、最近はとんと訪れていない。
すると帝が「姫が居るのか…」と興味を持たれた。
「そなたのところは皆、結婚していると聞いていたけれど」
ずっとほったらかしでも娘は娘。
今の身分が安泰ならと、それ以上を望まないわたしに帝は何時も信頼を寄せてくれている。
今も、年頃の姫が居れば、いや、年頃じゃない姫でも、隙あらばと中宮、或いは女御にと躍起になるものだ。
そうだ、あの姫を忘れていた。
帝がどこぞの姫に興味を持たれるなど、今までになかったことなので皆が『ああ、兼道がこれ以上出世するのか…』と思っているに違いない。
今なら呼び寄せて、後宮に上げられるか?
野望はそんなに無いが、最後の華を咲かせたい。
次代の帝の祖父さまになれるかも。
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