撫子の華が咲く

茉莉花 香乃

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それは突然のことでした

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厄介な事になってしまった。

先帝である父上が身体を壊されて、わたしにその座を譲ったのは数年前のこと。
わたしの父上よりも年上の貴族たちには強くは云えない。

新たな姫に興味など無いのだ。
わたしには東宮のころより仕えてくれた中宮がいた。しかし、身体が弱く年若くして亡くなってしまった。
わたしが帝に即位して直ぐのことだった。幼い皇子たちを遺し、さぞ心残りだったろう。

中宮はわたしより三つばかり年上で、華やかさはなかったが、優しく見守ってくれた穏やかな人だった。
その人との間に二人の皇子がいて、今東宮だ。

その後、後宮に次々にやって来た女御たちは、我先に皇子を生んで覇権を握りたいと思っているのだろう。

実家の威勢を後ろ盾に今東宮をないがしろにし、それぞれの女御、そして仕えている女房たちはお互いをライバル視して後宮は殺伐としており、足も遠退いてしまう。

だからこそ、『新しく女御の入内を』とみんなが躍起になるのかもしれないが、東宮がいないならそれも分かる。

でも仕えるべき東宮がいるのに、何故今東宮に仕えてはくれないのかと云いたくなる。だから、欲なく仕えてくれる右大臣に東宮の後見を頼みたかっただけなのだ。右大臣は外戚である。

しかし、この場で言う事は憚られる。

『えっ!姫がいるのか?……聞いていた話と違うぞ…後見を頼む事は出来ないのか?…』
と云う驚きを、
『綺麗な姫が居るのならば、是非入内して側に…』
と歪曲されてもおかしくない。

あれよあれよと話しは進み、正式な発表は後日に行われるが、女御として入内することになってしまった。

大叔父に当たる右大臣の姫を否定などできるはずもない。

ましてやその姫を押したのは我が祖父なのだ。

今東宮を守るためには『他に皇子を作らない』と云う消極的な対抗しか出来ないのである。


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