撫子の華が咲く

茉莉花 香乃

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初めて恋を知りました

02

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右大臣も内に葛藤があるのだろう。

皇子を生んで欲しいが女御が病弱では健やかな子が望めないと。
わたしが身体の弱さを、床に伏してばかりの女御には無理だと思っていると勘違いしているに違いない。

藤壺の女御が参内してから、三人の女御たちが牽制しあって、歓迎もしていないのに『宴を催しますので、是非藤壺さまにもお越し下さい』『絵合せをしましょう』と誘って、藤壺もお返しに宴を催して招いたりしている。

わたしはなるべく行きたくはないが、撫子が虐められていないか気になるので偶に顔を見せる。

参内している若い者たちがこぞって挨拶に行っているらしいが、何かと理由をつけて断っていると聞いた。

飛香舎を訪れた者も姿は勿論、声も女房の取り次ぎで、聞くことはできない。

ところが、最近になって、
「お声を掛けて頂きました」
と云う者が現れた。

しかし、誰にでも声を掛けているのではないらしい。

それでも、わたしにだけ声を聞かせてくれていたのに…思わず不機嫌になってしまう。あの者が撫子をどうにかする訳もなく、撫子もあの者とどうにかなりたいがために声をかけたのではないことは重々承知している。

けれど、腹立たしいのは仕方ない。

それからも、若い者たちとの話には度々藤壺の女御の話題が出る。

「近頃、藤壺の女御さまは以前よりお元気なご様子で、次の機会にわたくしの笛を聞きたいと仰って、『楽しみにしています』とお声を掛けて下さいました。それはそれは可愛らしいお声でした。光栄なことにございます」

笛の名手と名高い右近の少将が語るのを忌々しく聞いていた。

そう云えば、三条邸の宴の折にも笛を演奏すると云っていた。あの時に何かあったのか?
いや、右大臣がそのようなこと、許すはずが無いし、あれは男だ。間違いなど起こるはずもない。

あの宴で後宮に上がる噂が広まったと聞いた。

分かっているのだ。あれは男なのだから笛に親しんでいたのだろう。笛の名手の奏でる音を近くで聞きたいと思ったのだろう。


もはや何に怒っているのかわからなくなる。

男の身で後宮に入りわたしを騙したことか?

わたし以外と言葉を交わしたことか?

飛香舎を訪れる、わたしではない誰かを待ち侘びていることにか?


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