撫子の華が咲く

茉莉花 香乃

文字の大きさ
28 / 98
恋は苦しいものですか?

01

しおりを挟む
驚いたことに、わたしはまだ生きている。
そして、後宮を追い出されることもなかった。

帝も、もうこちらにはいらっしゃらないと思っていたのに、次の日から毎日必ず飛香舎ひぎょうしゃ(藤壺)にいらっしゃる。

起き上がれずに床に臥せっているわたしの『お見舞い』と称していらして下さるのだ。

人払いをして二人きりになると「そこに寝ていれば良い」と仰って、慌てるわたしの着物に手をかけられた。

前夜の乱暴な手ではない。

優しい言葉はないけれど、態度や眼差しは、それまでの帝のもので、激昂に任せたものではなかった。傷ついた秘部に軟膏を塗り、着物を整えて「寝ていなさい」とお帰りになられた。

桔梗や日向が今度は何をされたのかと聞いてくれるけれど、恥ずかしくて「軟膏を塗られた」などとは云えなかった。

衛門は何も云わなかった。

ただ、『せっか……わたく……渡し……どうし……本当に…』とぶつぶつ呟くように何かを云って一人で怒っているので、その怒りが自分に向かないように女房はみんな遠巻きに見ていた。

『主上を信じて差し上げて』と云った真意はわからないけれど、『わたくしが付いております』と云ってくれたのは、何があっても衛門が味方でいてくれるのだと思い心強かった。

桔梗も勿論側仕えの女房としてではなく、姉としてわたしの心配をしてくれているのにこそばゆいような嬉しさがある。

次の日もわたしのところへおいで下さり、言葉少なくただ薬を塗って帰られる。

それは傷が癒えるまで続いた。

思えば嵐の次の日に起きた時も、乱暴にされたにもかかわらず帝の大袿がかけられていた。

手当もされていた。

衛門がしてくれたのだろうか?
まさか、その時から帝が…?

どうしてそんなことをして下さるのかは判らないけれど、恥ずかしさより嬉しさが増してくる。

抱き締めて下さることは勿論ないけれど、薬を塗る時は手を握って下さる。

初めて薬を塗って下さった時にびっくりして着物を握り締めて震えてしまった。
帝が怖かったのではないけれど、痛さの記憶はまざまざと思い出されて反射的に拒絶してしまった。

恐る恐る帝を見ると、情けなさそうなお顔が初めて見る幼げな表情で、思わず笑みが溢れた。
しかし、強張った身体はそのままで、手を握り締めて、背中をさすって下さりようやく落ち着くことができた。





けれど、その嬉しさはやはり長くは続かない。わかっていても、胸が締め付けられる。

それは、傷が癒えて帝が飛香舎へお越しにならなくなった頃だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

発情薬

寺蔵
BL
【完結!漫画もUPしてます】攻めの匂いをかぐだけで発情して動けなくなってしまう受けの話です。  製薬会社で開発された、通称『発情薬』。  業務として治験に選ばれ、投薬を受けた新人社員が、先輩の匂いをかぐだけで発情して動けなくなったりします。  社会人。腹黒30歳×寂しがりわんこ系23歳。

王子殿下が恋した人は誰ですか

月齢
BL
イルギアス王国のリーリウス王子は、老若男女を虜にする無敵のイケメン。誰もが彼に夢中になるが、自由気ままな情事を楽しむ彼は、結婚適齢期に至るも本気で恋をしたことがなかった。 ――仮装舞踏会の夜、運命の出会いをするまでは。 「私の結婚相手は、彼しかいない」 一夜の情事ののち消えたその人を、リーリウスは捜す。 仮面を付けていたから顔もわからず、手がかりは「抱けばわかる、それのみ」というトンデモ案件だが、親友たちに協力を頼むと(一部強制すると)、優秀な心の友たちは候補者を五人に絞り込んでくれた。そこにリーリウスが求める人はいるのだろうか。 「当たりが出るまで、抱いてみる」 優雅な笑顔でとんでもないことをヤらかす王子の、彼なりに真剣な花嫁さがし。 ※性モラルのゆるい世界観。主人公は複数人とあれこれヤりますので、苦手な方はご遠慮ください。何でもありの大人の童話とご理解いただける方向け。

【短編】抱けない騎士と抱かれたい男娼

cyan
BL
戦地で奮闘する騎士のキースは疲れ果てていた。仲間に連れられて行った戦場の娼館で男娼であるテオに優しい言葉をかけられて好きになってしまったが、テオの特別になりたいと思えば思うほどテオのことを抱けなくなる。 純愛とちょっとのユーモアでほのぼのと読んでほしい。

異世界転生したと思ったら、悪役令嬢(男)だった

カイリ
BL
16年間公爵令息として何不自由ない生活を送ってきたヴィンセント。 ある日突然、前世の記憶がよみがえってきて、ここがゲームの世界であると知る。 俺、いつ死んだの?! 死んだことにも驚きが隠せないが、何より自分が転生してしまったのは悪役令嬢だった。 男なのに悪役令嬢ってどういうこと? 乙女げーのキャラクターが男女逆転してしまった世界の話です。 ゆっくり更新していく予定です。 設定等甘いかもしれませんがご容赦ください。

吸血鬼公爵の籠の鳥

江多之折(エタノール)
BL
両親を早くに失い、身内に食い潰されるように支配され続けた半生。何度も死にかけ、何度も自尊心は踏みにじられた。こんな人生なら、もういらない。そう思って最後に「悪い子」になってみようと母に何度も言い聞かされた「夜に外を出歩いてはいけない」約束を破ってみることにしたレナードは、吸血鬼と遭遇する。 血を吸い殺されるところだったが、レナードには特殊な事情があり殺されることはなく…気が付けば熱心に看病され、囲われていた。 吸血鬼公爵×薄幸侯爵の溺愛もの。小説家になろうから改行を増やしまくって掲載し直したもの。

百戦錬磨は好きすぎて押せない

紗々
BL
なんと!HOTランキングに載せていただいておりました!!(12/18現在23位)ありがとうございます~!!*******超大手企業で働くエリート営業マンの相良響(28)。ある取引先の会社との食事会で出会った、自分の好みドンピシャの可愛い男の子(22)に心を奪われる。上手いこといつものように落として可愛がってやろうと思っていたのに…………序盤で大失態をしてしまい、相手に怯えられ、嫌われる寸前に。どうにか謝りまくって友人関係を続けることには成功するものの、それ以来ビビり倒して全然押せなくなってしまった……!*******百戦錬磨の超イケメンモテ男が純粋で鈍感な男の子にメロメロになって翻弄され悶えまくる話が書きたくて書きました。いろんな胸キュンシーンを詰め込んでいく……つもりではありますが、ラブラブになるまでにはちょっと時間がかかります。※80000字ぐらいの予定でとりあえず短編としていましたが、後日談を含めると100000字超えそうなので長編に変更いたします。すみません。

人気作家は売り専男子を抱き枕として独占したい

白妙スイ@1/9新刊発売
BL
八架 深都は好奇心から売り専のバイトをしている大学生。 ある日、不眠症の小説家・秋木 晴士から指名が入る。 秋木の家で深都はもこもこの部屋着を着せられて、抱きもせず添い寝させられる。 戸惑った深都だったが、秋木は気に入ったと何度も指名してくるようになって……。 ●八架 深都(はちか みと) 20歳、大学2年生 好奇心旺盛な性格 ●秋木 晴士(あきぎ せいじ) 26歳、小説家 重度の不眠症らしいが……? ※性的描写が含まれます 完結いたしました!

騎士と狩人

みけねこ
BL
小さい頃から狩人として父親に鍛えられてきた主人公。その甲斐あって同郷の同年代に比べてしっかりしていたが、ところが狩人という生業のせいか心なしか同年代から遠巻きにされているような……しっかりと交流してくれているのは幼馴染二人。 一方で常に周りに囲まれている村一番の三歳年下の美少年。自分とは正反対で今後関わることはないだろうなと思いながら狩人としての日々を過ごす中で、変化が訪れる。

処理中です...