撫子の華が咲く

茉莉花 香乃

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恋は苦しいものですか?

01

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驚いたことに、わたしはまだ生きている。
そして、後宮を追い出されることもなかった。

帝も、もうこちらにはいらっしゃらないと思っていたのに、次の日から毎日必ず飛香舎ひぎょうしゃ(藤壺)にいらっしゃる。

起き上がれずに床に臥せっているわたしの『お見舞い』と称していらして下さるのだ。

人払いをして二人きりになると「そこに寝ていれば良い」と仰って、慌てるわたしの着物に手をかけられた。

前夜の乱暴な手ではない。

優しい言葉はないけれど、態度や眼差しは、それまでの帝のもので、激昂に任せたものではなかった。傷ついた秘部に軟膏を塗り、着物を整えて「寝ていなさい」とお帰りになられた。

桔梗や日向が今度は何をされたのかと聞いてくれるけれど、恥ずかしくて「軟膏を塗られた」などとは云えなかった。

衛門は何も云わなかった。

ただ、『せっか……わたく……渡し……どうし……本当に…』とぶつぶつ呟くように何かを云って一人で怒っているので、その怒りが自分に向かないように女房はみんな遠巻きに見ていた。

『主上を信じて差し上げて』と云った真意はわからないけれど、『わたくしが付いております』と云ってくれたのは、何があっても衛門が味方でいてくれるのだと思い心強かった。

桔梗も勿論側仕えの女房としてではなく、姉としてわたしの心配をしてくれているのにこそばゆいような嬉しさがある。

次の日もわたしのところへおいで下さり、言葉少なくただ薬を塗って帰られる。

それは傷が癒えるまで続いた。

思えば嵐の次の日に起きた時も、乱暴にされたにもかかわらず帝の大袿がかけられていた。

手当もされていた。

衛門がしてくれたのだろうか?
まさか、その時から帝が…?

どうしてそんなことをして下さるのかは判らないけれど、恥ずかしさより嬉しさが増してくる。

抱き締めて下さることは勿論ないけれど、薬を塗る時は手を握って下さる。

初めて薬を塗って下さった時にびっくりして着物を握り締めて震えてしまった。
帝が怖かったのではないけれど、痛さの記憶はまざまざと思い出されて反射的に拒絶してしまった。

恐る恐る帝を見ると、情けなさそうなお顔が初めて見る幼げな表情で、思わず笑みが溢れた。
しかし、強張った身体はそのままで、手を握り締めて、背中をさすって下さりようやく落ち着くことができた。





けれど、その嬉しさはやはり長くは続かない。わかっていても、胸が締め付けられる。

それは、傷が癒えて帝が飛香舎へお越しにならなくなった頃だった。
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