撫子の華が咲く

茉莉花 香乃

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恋は苦しいものですか?

02

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朝餉の準備をしていた女房たちの話がふと聞こえた。

「夕べは弘徽殿こきでんの女御さまでしたわ」
「あれほど誰も呼ばれなかったのに、このところ毎日ですわね」
「そうですよ」
「藤壺の女御さまを除いて、順番に」
「悔しいですわ」
「近頃お見舞いにもお見えにならないし」

何の話をしているか直ぐにわかった。

桔梗を呼んで横になる。

すると、日向が「今日は東宮さまたちがいらっしゃいますよ」と云った。

少し前から東宮と二の宮に琴を教えている。東宮付きの女房に日向が頼まれたのだ。もう痛みもなく、いつまでも床に臥せっていてはみんなに心配をかけるので、努めて普段通りに過ごすようにしていた。

気分が優れないからと誰にも会っていなかったその間に何度も、『今日は良い?』と可愛らしく問うて下さる東宮たちの顔も見たくて、会う事を了承したのだった。

「分かったよ。起きる」
「何かありましたか?今朝、一度は穏やかな様子でしたのに」
「うん…何でもないよ」

帝と他の女御のことは知っているだろうけれど、わたしの耳に入れないようにしていたのかもしれない。気にしていると思われたくない。
わたしが帝の事を好きになったとは云えなかった。女房たちの噂話を聞いてしまったことは知らないはずだ。

乱暴にされたことに桔梗も日向も怒っていたけれど、もとより騙しているのはこちらだ。

ましてや帝に文句などは云えない。

翌日から顔を見せて下さり、お帰りの際にはわたしを気遣う言葉や桔梗、日向にまで労う言葉と、「藤壺の女御に何かあればわたしに云うように」と気配りをして下さったらしい。

ますます帝がわからないと思うけれど聞くことはできない。

素直に嬉しい。

しかし、先ほどの女房の話は事実だろう。
覚悟していたとは云え、何もこのタイミングで女御を側に置かなくても良いのに。わたしへの当て付けだろうか?

衛門は相変わらず何も云わないけれどその眼差しは、『大丈夫ですよ』と優しく云ってくれているようで、心は幾分安らかになる。

あの時、衛門が何故『主上が好きですか?』と聞いてきたかはわからない。

答えが出たことを伝えた方が良いだろうか?
母のような衛門に甘えてばかりではいけないだろうか?しかし、答えが出たところでどうすることもできないのなら、この想いは自分の胸に留めておかなければいけないのだろう。

行き場のない想いは切ないし、帝に会えない今となっては後宮に留まることも辛い。しかし、騙されていた帝の方が腹立たしく、心苦しかったに違いない。



「東宮さまと二の宮さまがお見えになりました」
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