撫子の華が咲く

茉莉花 香乃

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恋は苦しいものですか?

06

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けれど、撫子の気持ちは全てがわたしに向いていると感じた。

痛さに耐えている撫子の腕がわたしに回されないことに何故かがっかりした。

意識を手放す間際に微笑んで手を延べて来た。

撫子が自ら手を延べたのは初めてだった。
思わず掴むと、だらりと力が抜けた。

翌日、どうして良いか分からず、イライラしていたのをどう思ったか女房が、
「女御さまをお召しになられたらいかかですか?」
と云ってきた。

麗景殿から何かしら渡されているのか、「では麗景殿の女御さまを」と云って退出して行く。

わたしは何も云っていないのに、『勝手に』と思ったが、藤壺が出仕してから誰も清涼殿には来ていない。
そろそろ、あちこちから嫌味を云われる。

夜、麗景殿の女御が来たが、抱く気にはなれなかった。
翌日は弘徽殿こきでんの女御が、その次は常寧殿じょうねいでんの女御が来たがやはりどちらも抱く気にはなれなかった。

こうなると止められない。三人の女御たちは新しく来た藤壺の女御にあからさまに敵対している。

わたしがよく行くものだから尚更に撫子に対しては共同戦線をはっているようで、夜まで取られてはと思っているのか、順にやって来て休まることはできない。
ますます肌を合わそうなどと思わなかった。

女御たちはどう思っているのか?
不実をなじるでもなく帰って行く。
女御付きの女房が何か云いたげにこちらを見るが、何も云ってはこなかった。
それぞれが牽制しあっているので、下手なことは云い出せないのか?

それでも、飛香舎に『お見舞い』に行っている間は撫子の様子もわかり良かった。

行かなくなっても、撫子や側仕えの女房は不満を漏らす事もなく、落ち着いた対応だった。
撫子の近くで仕えている女房はおそらく男である事を、衛門同様知っているのだろう。今回の事をどのように思っているかわからないが、そもそも文句は云えないか?

衛門にはあの時去り際に「主上がご自分で解決なさいませ」と云われたきり、撫子の様子を時々知らせてくれる以外は何も云ってこなかった。

しかれども、わたしは云って欲しかったのか?
『藤壺の女御さまにも夜のお渡りを』と。いや、そんな事は…


そんな無駄な時間を過ごしていたわたしとは違い皇子たちは、女御と親交を深め楽しく過ごしていたらしい。

藤壺から何か云ってくることはないのだろう。あるとすれば右大臣か?

「では、今から一緒に飛香舎に行こうか?」

傷が癒えてから一度も訪れていないので、飛香舎に行く口実が欲しかった。

わたしが自由に訪れても誰も文句は言わないだろうが、どうも行きにくかったのだ。


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