33 / 98
恋は苦しいものですか?
06
しおりを挟む
けれど、撫子の気持ちは全てがわたしに向いていると感じた。
痛さに耐えている撫子の腕がわたしに回されないことに何故かがっかりした。
意識を手放す間際に微笑んで手を延べて来た。
撫子が自ら手を延べたのは初めてだった。
思わず掴むと、だらりと力が抜けた。
翌日、どうして良いか分からず、イライラしていたのをどう思ったか女房が、
「女御さまをお召しになられたらいかかですか?」
と云ってきた。
麗景殿から何かしら渡されているのか、「では麗景殿の女御さまを」と云って退出して行く。
わたしは何も云っていないのに、『勝手に』と思ったが、藤壺が出仕してから誰も清涼殿には来ていない。
そろそろ、あちこちから嫌味を云われる。
夜、麗景殿の女御が来たが、抱く気にはなれなかった。
翌日は弘徽殿の女御が、その次は常寧殿の女御が来たがやはりどちらも抱く気にはなれなかった。
こうなると止められない。三人の女御たちは新しく来た藤壺の女御にあからさまに敵対している。
わたしがよく行くものだから尚更に撫子に対しては共同戦線をはっているようで、夜まで取られてはと思っているのか、順にやって来て休まることはできない。
ますます肌を合わそうなどと思わなかった。
女御たちはどう思っているのか?
不実を詰るでもなく帰って行く。
女御付きの女房が何か云いたげにこちらを見るが、何も云ってはこなかった。
それぞれが牽制しあっているので、下手なことは云い出せないのか?
それでも、飛香舎に『お見舞い』に行っている間は撫子の様子もわかり良かった。
行かなくなっても、撫子や側仕えの女房は不満を漏らす事もなく、落ち着いた対応だった。
撫子の近くで仕えている女房はおそらく男である事を、衛門同様知っているのだろう。今回の事をどのように思っているかわからないが、そもそも文句は云えないか?
衛門にはあの時去り際に「主上がご自分で解決なさいませ」と云われたきり、撫子の様子を時々知らせてくれる以外は何も云ってこなかった。
しかれども、わたしは云って欲しかったのか?
『藤壺の女御さまにも夜のお渡りを』と。いや、そんな事は…
そんな無駄な時間を過ごしていたわたしとは違い皇子たちは、女御と親交を深め楽しく過ごしていたらしい。
藤壺から何か云ってくることはないのだろう。あるとすれば右大臣か?
「では、今から一緒に飛香舎に行こうか?」
傷が癒えてから一度も訪れていないので、飛香舎に行く口実が欲しかった。
わたしが自由に訪れても誰も文句は言わないだろうが、どうも行きにくかったのだ。
☆★☆ ★☆★ ☆★☆
痛さに耐えている撫子の腕がわたしに回されないことに何故かがっかりした。
意識を手放す間際に微笑んで手を延べて来た。
撫子が自ら手を延べたのは初めてだった。
思わず掴むと、だらりと力が抜けた。
翌日、どうして良いか分からず、イライラしていたのをどう思ったか女房が、
「女御さまをお召しになられたらいかかですか?」
と云ってきた。
麗景殿から何かしら渡されているのか、「では麗景殿の女御さまを」と云って退出して行く。
わたしは何も云っていないのに、『勝手に』と思ったが、藤壺が出仕してから誰も清涼殿には来ていない。
そろそろ、あちこちから嫌味を云われる。
夜、麗景殿の女御が来たが、抱く気にはなれなかった。
翌日は弘徽殿の女御が、その次は常寧殿の女御が来たがやはりどちらも抱く気にはなれなかった。
こうなると止められない。三人の女御たちは新しく来た藤壺の女御にあからさまに敵対している。
わたしがよく行くものだから尚更に撫子に対しては共同戦線をはっているようで、夜まで取られてはと思っているのか、順にやって来て休まることはできない。
ますます肌を合わそうなどと思わなかった。
女御たちはどう思っているのか?
不実を詰るでもなく帰って行く。
女御付きの女房が何か云いたげにこちらを見るが、何も云ってはこなかった。
それぞれが牽制しあっているので、下手なことは云い出せないのか?
それでも、飛香舎に『お見舞い』に行っている間は撫子の様子もわかり良かった。
行かなくなっても、撫子や側仕えの女房は不満を漏らす事もなく、落ち着いた対応だった。
撫子の近くで仕えている女房はおそらく男である事を、衛門同様知っているのだろう。今回の事をどのように思っているかわからないが、そもそも文句は云えないか?
衛門にはあの時去り際に「主上がご自分で解決なさいませ」と云われたきり、撫子の様子を時々知らせてくれる以外は何も云ってこなかった。
しかれども、わたしは云って欲しかったのか?
『藤壺の女御さまにも夜のお渡りを』と。いや、そんな事は…
そんな無駄な時間を過ごしていたわたしとは違い皇子たちは、女御と親交を深め楽しく過ごしていたらしい。
藤壺から何か云ってくることはないのだろう。あるとすれば右大臣か?
「では、今から一緒に飛香舎に行こうか?」
傷が癒えてから一度も訪れていないので、飛香舎に行く口実が欲しかった。
わたしが自由に訪れても誰も文句は言わないだろうが、どうも行きにくかったのだ。
☆★☆ ★☆★ ☆★☆
13
あなたにおすすめの小説
バイト先に元カレがいるんだが、どうすりゃいい?
cheeery
BL
サークルに一人暮らしと、完璧なキャンパスライフが始まった俺……広瀬 陽(ひろせ あき)
ひとつ問題があるとすれば金欠であるということだけ。
「そうだ、バイトをしよう!」
一人暮らしをしている近くのカフェでバイトをすることが決まり、初めてのバイトの日。
教育係として現れたのは……なんと高二の冬に俺を振った元カレ、三上 隼人(みかみ はやと)だった!
なんで元カレがここにいるんだよ!
俺の気持ちを弄んでフッた最低な元カレだったのに……。
「あんまり隙見せない方がいいよ。遠慮なくつけこむから」
「ねぇ、今どっちにドキドキしてる?」
なんか、俺……ずっと心臓が落ち着かねぇ!
もう一度期待したら、また傷つく?
あの時、俺たちが別れた本当の理由は──?
「そろそろ我慢の限界かも」
彼はオタサーの姫
穂祥 舞
BL
東京の芸術大学の大学院声楽専攻科に合格した片山三喜雄は、初めて故郷の北海道から出て、東京に引っ越して来た。
高校生の頃からつき合いのある塚山天音を筆頭に、ちょっと癖のある音楽家の卵たちとの学生生活が始まる……。
魅力的な声を持つバリトン歌手と、彼の周りの音楽男子大学院生たちの、たまに距離感がおかしいあれこれを描いた連作短編(中編もあり)。音楽もてんこ盛りです。
☆表紙はtwnkiさま https://coconala.com/users/4287942 にお願いしました!
BLというよりは、ブロマンスに近いです(ラブシーン皆無です)。登場人物のほとんどが自覚としては異性愛者なので、女性との関係を匂わせる描写があります。
大学・大学院は実在します(舞台が2013年のため、一部過去の学部名を使っています)が、物語はフィクションであり、各学校と登場人物は何ら関係ございません。また、筆者は音楽系の大学・大学院卒ではありませんので、事実とかけ離れた表現もあると思います。
高校生の三喜雄の物語『あいみるのときはなかろう』もよろしければどうぞ。もちろん、お読みでなくても楽しんでいただけます。
握るのはおにぎりだけじゃない
箱月 透
BL
完結済みです。
芝崎康介は大学の入学試験のとき、落とした参考書を拾ってくれた男子生徒に一目惚れをした。想いを募らせつつ迎えた春休み、新居となるアパートに引っ越した康介が隣人を訪ねると、そこにいたのは一目惚れした彼だった。
彼こと高倉涼は「仲良くしてくれる?」と康介に言う。けれど涼はどこか訳アリな雰囲気で……。
少しずつ距離が縮まるたび、ふわりと膨れていく想い。こんなに知りたいと思うのは、近づきたいと思うのは、全部ぜんぶ────。
もどかしくてあたたかい、純粋な愛の物語。
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。
僕の恋人は、超イケメン!!
刃
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?
雪解けを待つ森で ―スヴェル森の鎮魂歌(レクイエム)―
なの
BL
百年に一度、森の魔物へ生贄を捧げる村。
その年の供物に選ばれたのは、誰にも必要とされなかった孤児のアシェルだった。
死を覚悟して踏み入れた森の奥で、彼は古の守護者である獣人・ヴァルと出会う。
かつて人に裏切られ、心を閉ざしたヴァル。
そして、孤独だったアシェル。
凍てつく森での暮らしは、二人の運命を少しずつ溶かしていく。
だが、古い呪いは再び動き出し、燃え盛る炎が森と二人を飲み込もうとしていた。
生贄の少年と孤独な獣が紡ぐ、絶望の果てにある再生と愛のファンタジー
雪を溶かすように
春野ひつじ
BL
人間と獣人の争いが終わった。
和平の条件で人間の国へ人質としていった獣人国の第八王子、薫(ゆき)。そして、薫を助けた人間国の第一王子、悠(はる)。二人の距離は次第に近づいていくが、実は薫が人間国に行くことになったのには理由があった……。
溺愛・甘々です。
*物語の進み方がゆっくりです。エブリスタにも掲載しています
リンドグレーン大佐の提案
高菜あやめ
BL
軍事国家ロイシュベルタの下級士官テオドアは、軍司令部のカリスマ軍師リンドグレーン大佐から持ちかけられた『ある提案』に応じ、一晩その身をゆだねる。
一夜限りの関係かと思いきや、大佐はそれ以降も執拗に彼に構い続け、次第に独占欲をあらわにしていく。
叩き上げの下士官と、支配欲を隠さない上官。上下関係から始まる、甘くて苛烈な攻防戦。
【支配系美形攻×出世欲強めな流され系受】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる