撫子の華が咲く

茉莉花 香乃

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恋の駆け引きなんて知りません

02

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野心家…と云えば…。
左大臣の兄上も何を考えておられるか分からない。

曾孫の東宮を見向きもしないで、撫子が皇子を産むのを待っている。
昔、亡くなられた中宮の母君と父君との間で何事かあったと聞いたけれど、それが原因か?
いや、兄上のところは子どもが少ない。健やかに成人できたのは帝の母である皇太后とその弟だけだった。
また、その息子のところにも姫は生まれてこなかった。

兄上も物思いが深いご様子だ。


それから幾日が過ぎただろうか飛香舎に行くと、
「……お父さま、何も聞かずに里下がりをお許し下さい。わたくしを三条邸へ連れて帰って下さい…」
「何を…」
「…辛いのです。苦しいのです」

床に臥すことはないけれど、幾分やつれて妖艶に見える。
いけない…また娘相手に何を考えているのか?

「何があったのだ?」
「……」

何も云えない撫子の代わりに「お殿さま、僭越ながら…」と桔梗がこちらを向いていた。確か撫子の乳姉妹だったか。

「主上のことでございます」
「ああ、女御さまもやはり気にされていたのですね。それはわたしから主上に申し上げますよ」

それは気になるだろう。
いくら女御さまの耳に入れないように気を付けていても、どこからか噂は届くものだ。

「いいえ、そのようなことは良いのです。わたくしなど…いえ、主上には仰らないで下さいませ。…どうか里下がりをお許しになって…」

要領を得ない撫子の話は、ただ「帰りたい」だった。女房に詳しく聞こうとしてもこちらも歯切れが悪い。

衛門は宿下がりでしばらくこちらにはいない。

「では、殿舎を淑景舎しげいしゃ(桐壺)に変えて頂けませんか?」
「何を云っている?何故、清涼殿から一番遠い淑景舎なのだい?」
「里下がりが許されないなら東宮さまたちの近くで過ごしたいのです」

東宮たちが懐かれているのは見知っている。淑景舎(桐壺)は東宮たちのお住まいの梨壺に近い。

「主上に伺ってみるよ」と飛香舎を後にした。

ただ、一度賜った殿舎はそうそう変えては貰えないだろう。こんな様子の撫子に直ぐにその事は云えなかった。

まだ何か云いたげだったけれど撫子はそれ以上何も云わなかった。


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