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華綻ぶは撫子
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「実は…」
と始まった話は嘘のような話でにわかには信じられない。
話している間に先ほどの震えは治まったのか、少しずついつもの撫子に戻った。でもまだ少し頬を染めて恥ずかしそうにしているさまは庇護欲を掻き立てられる。
「お二人して、わたくしをからかっておられるんじゃないですよね?…まあ、主上がよろしいなら、わたくしは…でも御子さまは生まれないですね…」
それは残念だ。
勿論、姫だからと云って必ず御子を授かるとは限らない。現に後宮に今いる女御さまたちは、あんなに清涼殿にお渡りになっていたのに御子はいない。
「ありがとうございます。それで…お願いと云うのは今から申し上げることなのです」
何やら嫌な予感がする。
「右大臣さまに東宮さまを後見してもらいたいのです。本物のお祖父様にはなれませんが、東宮さまの一番の信頼を得て、お祖父様同様の地位になれますわ」
兄上は曾孫の東宮には見向きもしないし…わたしが後見しても何も云わないだろうか?
撫子が生まれたのは随分遅かった。
女御さまが本当の娘で、今、皇子が生まれても帝に即位されるまでわたしが生きているかはわからない。
今東宮は御歳七歳くらいだったか。他に皇子が生まれなければ、今東宮が何の問題もなく次代の帝だ。
帝を見れば、
「もう皇子は生まれないよ。わたしは撫子がいればいい」
「はい、わかりました。誠心誠意、東宮さまを後見致します」
「良かった。もし、駄目だって云われたら、右大臣さまの恋人のことを持ち出してお願いしなければならないかなって思ってたんです」
「えっ…」
「あっ…」
何か聞いてはいけないことを聞いたような…。嫌な予感はこれのことか?
「…えっと…わたくしは幼い頃から右大臣さまを見知っていました。姫さまのお屋敷の近くでよくお姿を拝見していて…。そのお屋敷に姫は…あの…」
あの綺麗な人の屋敷の近くにわたしの恋人が住んでいた。いや、違う。恋人の屋敷の近くにあの人が住んでいた。恋人の屋敷に行ったのに不在の時があった。その時に訪れたのがあの人の屋敷だった。
琴の音が綺麗だったのだ。
「申し訳ございません。…何かあった時に持ち出して…その…」
まあ、恋人のことを政子に云われたらたまらないし…。
「では、政子には内密にお願いしますよ」
「勿論です。脅す様な物云いをお許し下さい」
そう云えば…恋人の屋敷の近くに可愛らしい子がいたな…もう何年かすれば…と思ったものだ。
あの時の子が撫子…よく見れば似ている。
『娘だ』と思い込んでいたので気づかなかった。
…けれど、このことは帝には絶対に云ってはいけない。
それこそ身の破滅だ。
☆★☆ ★☆★ ☆★☆
と始まった話は嘘のような話でにわかには信じられない。
話している間に先ほどの震えは治まったのか、少しずついつもの撫子に戻った。でもまだ少し頬を染めて恥ずかしそうにしているさまは庇護欲を掻き立てられる。
「お二人して、わたくしをからかっておられるんじゃないですよね?…まあ、主上がよろしいなら、わたくしは…でも御子さまは生まれないですね…」
それは残念だ。
勿論、姫だからと云って必ず御子を授かるとは限らない。現に後宮に今いる女御さまたちは、あんなに清涼殿にお渡りになっていたのに御子はいない。
「ありがとうございます。それで…お願いと云うのは今から申し上げることなのです」
何やら嫌な予感がする。
「右大臣さまに東宮さまを後見してもらいたいのです。本物のお祖父様にはなれませんが、東宮さまの一番の信頼を得て、お祖父様同様の地位になれますわ」
兄上は曾孫の東宮には見向きもしないし…わたしが後見しても何も云わないだろうか?
撫子が生まれたのは随分遅かった。
女御さまが本当の娘で、今、皇子が生まれても帝に即位されるまでわたしが生きているかはわからない。
今東宮は御歳七歳くらいだったか。他に皇子が生まれなければ、今東宮が何の問題もなく次代の帝だ。
帝を見れば、
「もう皇子は生まれないよ。わたしは撫子がいればいい」
「はい、わかりました。誠心誠意、東宮さまを後見致します」
「良かった。もし、駄目だって云われたら、右大臣さまの恋人のことを持ち出してお願いしなければならないかなって思ってたんです」
「えっ…」
「あっ…」
何か聞いてはいけないことを聞いたような…。嫌な予感はこれのことか?
「…えっと…わたくしは幼い頃から右大臣さまを見知っていました。姫さまのお屋敷の近くでよくお姿を拝見していて…。そのお屋敷に姫は…あの…」
あの綺麗な人の屋敷の近くにわたしの恋人が住んでいた。いや、違う。恋人の屋敷の近くにあの人が住んでいた。恋人の屋敷に行ったのに不在の時があった。その時に訪れたのがあの人の屋敷だった。
琴の音が綺麗だったのだ。
「申し訳ございません。…何かあった時に持ち出して…その…」
まあ、恋人のことを政子に云われたらたまらないし…。
「では、政子には内密にお願いしますよ」
「勿論です。脅す様な物云いをお許し下さい」
そう云えば…恋人の屋敷の近くに可愛らしい子がいたな…もう何年かすれば…と思ったものだ。
あの時の子が撫子…よく見れば似ている。
『娘だ』と思い込んでいたので気づかなかった。
…けれど、このことは帝には絶対に云ってはいけない。
それこそ身の破滅だ。
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