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華綻ぶは撫子
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今日は飛香舎で月を愛でている。
先ほどまで雲が出ていたけれど今は満月が綺麗に見える。
撫子と二人で見るならば例え霞に隠れた朔月の闇夜だろうと構わない。深夜にひっそりと下弦の月を眺めるのもいいだろう。
撫子を抱き寄せまなじりに口付ける。
伺うように上目づかいで見つめられて下半身に熱が集まりそうになる。
「どうしたの?」
「だって…」
「恥ずかしがらなくても誰も見てないよ」
今日は二人で過ごしたいと云ったけれどそれは許されない。
庭には篝火が焚かれ衛士が控えている。こちらからは見えないが気配でどこにいるかはわかる。
几帳で隔てられた部屋の隅には一条と衛門が何やらヒソヒソとお喋りしている。声は抑えているつもりだろうが、たまに『ふふっ』と忍笑いが聞こえる。
昼間は基良と明日香が来ていて賑やかだったけれど、今は静けさが戻っている。
近頃の撫子は床に伏すことはなくなった。
後宮に上がって直ぐの頃は秘密に押し潰されないようにと必死だったのだろう。仕えていた姫を守るためにこんなところまで来て…強い人だなと思う。
秘密を共有するようになってからも、『惟忠』と真の名で呼ばれるよりも『撫子』と偽りの名で呼ばれるのを望んでいる。それはわたしの側にいたいと思ってくれている証のようで嬉しい。
勿論いつも呼ぶことはできないけれど真の名で呼ばれ、それを穏やかな気持ちで受け入れられるようになれば、二人きりの時には呼んであげたいと思っている。
それはまだ少し時間がかかるだろう。
もう冷える時季なので手元には火桶がある。
撫子に大袿をかけてあげて腰を抱き寄せると「主上も…」と大袿をわたしの肩にもかけて一緒に入りわたしに凭れかかって落ち着いた。
両手でわたしの手を包み、指先から揉むようにして遊び始めた。
撫子は掌の上でわたしの指を曲げたり伸ばしたりして白く細い指を絡ませる。
顔を覗き込むと楽しそうに目を細めている。
「何してるの?」
「わたしの手はこんなに大きくないので…主上の手はがっしりしていて好きです」
「この手があなたの身体を惚けさせるんだよね」
「主上…しっ…」
撫子の人差し指がわたしの唇に触れた。
頬がほんのりと紅く染まっている。
「恥ずかしい。聞こえてしまいます」
耳元で囁く声と可愛い仕草は雄を刺激する。
火桶は竹とうぐいすの蒔絵が施してあり、撫子が実家より持ってきたものだ。違うな、三条の大臣が持ってきたのだろう。
自分の娘ではないとわかってからも、変わりなく飛香舎に来ている。それは基良と過ごすためでもあるし、撫子のご機嫌伺いでもある。
撫子の変化にも敏感で、まさに舅としてわたしに諫言もする。
近頃は梨壺にも行っている。
基良は撫子に蹴鞠を見て欲しくて梨壺の庭で密かに練習しているようだ。
次は馬にも乗ってみたいと兼道に云っていた。
明日香も負けじと基良の後をついて回っている。
二人には撫子の秘密を何時か云わなければと思っている。元服の時には伝えたいと撫子と相談している。
「月が綺麗ですね」
「あなたの方が綺麗だよ」
「まあ、お戯れを…主上はわたくしに甘いですね。わたくしは幸せです」
わたしの手を触りながら、うっとりと月を眺めている。
月明かりに照らされた綺麗な首筋にしゃぶりつきたくなる。
「撫子…」
呼ぶと視線を下ろして、わたしを見ると綺麗に微笑んだ。
「愛しているよ。ずっと側にいておくれ」
「勿論です。…わたくしも愛してます。こちらこそ、お側にいさせて下さいね。ずっと…」
口付けると撫子の頬が紅く染まった。
幸せだ。
隣に座る愛しい人を抱きしめ、わたしの腕に閉じ込めた。
☆★☆ ★☆★ ☆★☆
おわり
先ほどまで雲が出ていたけれど今は満月が綺麗に見える。
撫子と二人で見るならば例え霞に隠れた朔月の闇夜だろうと構わない。深夜にひっそりと下弦の月を眺めるのもいいだろう。
撫子を抱き寄せまなじりに口付ける。
伺うように上目づかいで見つめられて下半身に熱が集まりそうになる。
「どうしたの?」
「だって…」
「恥ずかしがらなくても誰も見てないよ」
今日は二人で過ごしたいと云ったけれどそれは許されない。
庭には篝火が焚かれ衛士が控えている。こちらからは見えないが気配でどこにいるかはわかる。
几帳で隔てられた部屋の隅には一条と衛門が何やらヒソヒソとお喋りしている。声は抑えているつもりだろうが、たまに『ふふっ』と忍笑いが聞こえる。
昼間は基良と明日香が来ていて賑やかだったけれど、今は静けさが戻っている。
近頃の撫子は床に伏すことはなくなった。
後宮に上がって直ぐの頃は秘密に押し潰されないようにと必死だったのだろう。仕えていた姫を守るためにこんなところまで来て…強い人だなと思う。
秘密を共有するようになってからも、『惟忠』と真の名で呼ばれるよりも『撫子』と偽りの名で呼ばれるのを望んでいる。それはわたしの側にいたいと思ってくれている証のようで嬉しい。
勿論いつも呼ぶことはできないけれど真の名で呼ばれ、それを穏やかな気持ちで受け入れられるようになれば、二人きりの時には呼んであげたいと思っている。
それはまだ少し時間がかかるだろう。
もう冷える時季なので手元には火桶がある。
撫子に大袿をかけてあげて腰を抱き寄せると「主上も…」と大袿をわたしの肩にもかけて一緒に入りわたしに凭れかかって落ち着いた。
両手でわたしの手を包み、指先から揉むようにして遊び始めた。
撫子は掌の上でわたしの指を曲げたり伸ばしたりして白く細い指を絡ませる。
顔を覗き込むと楽しそうに目を細めている。
「何してるの?」
「わたしの手はこんなに大きくないので…主上の手はがっしりしていて好きです」
「この手があなたの身体を惚けさせるんだよね」
「主上…しっ…」
撫子の人差し指がわたしの唇に触れた。
頬がほんのりと紅く染まっている。
「恥ずかしい。聞こえてしまいます」
耳元で囁く声と可愛い仕草は雄を刺激する。
火桶は竹とうぐいすの蒔絵が施してあり、撫子が実家より持ってきたものだ。違うな、三条の大臣が持ってきたのだろう。
自分の娘ではないとわかってからも、変わりなく飛香舎に来ている。それは基良と過ごすためでもあるし、撫子のご機嫌伺いでもある。
撫子の変化にも敏感で、まさに舅としてわたしに諫言もする。
近頃は梨壺にも行っている。
基良は撫子に蹴鞠を見て欲しくて梨壺の庭で密かに練習しているようだ。
次は馬にも乗ってみたいと兼道に云っていた。
明日香も負けじと基良の後をついて回っている。
二人には撫子の秘密を何時か云わなければと思っている。元服の時には伝えたいと撫子と相談している。
「月が綺麗ですね」
「あなたの方が綺麗だよ」
「まあ、お戯れを…主上はわたくしに甘いですね。わたくしは幸せです」
わたしの手を触りながら、うっとりと月を眺めている。
月明かりに照らされた綺麗な首筋にしゃぶりつきたくなる。
「撫子…」
呼ぶと視線を下ろして、わたしを見ると綺麗に微笑んだ。
「愛しているよ。ずっと側にいておくれ」
「勿論です。…わたくしも愛してます。こちらこそ、お側にいさせて下さいね。ずっと…」
口付けると撫子の頬が紅く染まった。
幸せだ。
隣に座る愛しい人を抱きしめ、わたしの腕に閉じ込めた。
☆★☆ ★☆★ ☆★☆
おわり
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