撫子の華が咲く

茉莉花 香乃

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番外編ー参 藤壺の女御の疑問

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「ああ、撫子すまない。わかっているんだ…けれど、…」
「ふふっ…同じですね」
「何が同じなの?」
「主上とわたくしがです。わたくしも主上が女御や女房に心奪われたのではないかとやきもきしました。きっと主上も…そうなのでしょう?姫さまには会いとうございましたが、また会う機会もございましょう。今は主上とこうして寄り添えることが大切です」

顔を上げて帝を見ると優しく微笑んでくれた。

「あっ、そう云えば…まだ隠しておきたいことって何ですか?」
「大丈夫。きっと喜んでくれるから。決して撫子を悲しませたりしない」

先ほどと同じ台詞でごまかされてしまった。

「それよりも、わたしが気になっているのは…」

帝が身体を起こしてしまわれた。

わたしは帝の肩に凭れているのが好きなのに…。

「主上…嫌です。そのままでいて下さい」
「えっ…ああ。わかったよ」
と云ってわたしを起こし、抱き竦められてしまった。

身動きが取れないので、とんとんと帝の肩の辺りを軽く叩いた。拘束する腕が緩んで少しだけできた隙間をもう一度埋めるようにすぐそこにある頬に口付ける。

「撫子は頭の中将をどう思う?」
「兄上ですか?」

吐息が触れるほど近くにある唇がどこか苦しげに言葉を紡ぐ。

「あの者がいるとわたしは霞んでしまう。お役目がらわたしの側にいることが多いしね。女房もあれがいるとざわざわして、落ち着かないよ」
「そうですね。飛香舎でも人気がありますよ。先日もお断りしたかったのに弁の君に押し切られてしまって」
「断りたかったの?」
「はい」
「会いたくないの?」
「会いたくない訳ではないですが、特別会いたいとは思いませんが?」
「宮中一の美丈夫だよ?」
「そうですね。わたしがお会いした中でも一二を争う格好良さですね」
「ほら…撫子は頭の中将が気になる?あんな人に言い寄られたら、どうする?」
「主上?兄上ですよ?」
「でも一緒に育った訳じゃないだろう?血の繋がりがあるとわかったのは少し前の話だし…」
「まあ、主上。わたくしは主上だけだと……」

帝は…
「わたくしは宮中一の美丈夫は主上だと思っていますよ」

顔を寄せて口付ける。

帝は嫉妬してくれているのだ。
小百合のことはきっと後宮に上がらなければ…と一度云ったことをずっと覚えておいでで、ことあるごとに敏感に反応される。

しかし、兄上のことは…。
女房があんなに騒ぐから、わたしが兄上を気にしているのかと。

「すまない、ありがとう。嬉しいよ」

口付けを深くされて先ほどまで灯っていた火がついてしまいそうだ。

「主上、お許しを…」
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