79 / 98
番外編ー参 藤壺の女御の疑問
10
しおりを挟む
「そうだね。これ以上すると桔梗に怒られる」
「まあ、怒られた事がありますの?」
「あちこちから『撫子を虐めるな』と云われるよ。撫子は皆に大切にされているから」
穏やかな時間は過ぎてゆく。
それから数日、日向は今日から参内している。
東宮から『梨壺にてちょっとした演奏会を開くから、撫子にも是非聞いて貰いたい』と誘われて出かけた。
わたしは飛香舎からあまり出ないので、緊張する。
弘徽殿を通り、麗景殿を通って梨壺へ行く。
文を送るようになってから幾分漂う殺気のようなものは少なくなったけれど、帝の寵愛を一人得ているわたしには敵対せずにはいられないのだろう。
あからさまな言葉はないけれど、女の意地悪な視線は御簾越しでも伝わる。
今まで、臆してただ通り過ぎるだけだったけれど兄上が『一度、檜扇をずらして御簾の向こうに会釈してごらんなさい』と教えて下さった。
意を決して檜扇をずらし、会釈する。
「まあ、可憐な…」
「いいえ、弱々しいだけです」
「本当に、華のようですね」
「…あ、あれしき、十人並みです!」
「天女はかくやあらん…」
敵対する全てのものがなくなったとは云えないけれど、少し雰囲気が和らいだような気がした。
梨壺に近くなるとざわざわとする気配があり、沢山の人が集まるのに、気を引き締めた。
「なでしこ」
二の宮が迎えに来て下さった。
「はい、手を繋いで」
「はい」
「そして、眼をつむってね」
「えっ…?」
「良いから」
云われるままに二の宮の手について行く。部屋の中に入ったのだろうか?
「ここに座って」
「明日香さま、手を…」
片手では心許ない。
すると、明日香さまの小さな手ではない大きな手と嗅ぎ慣れた香の香りがわたしの手を包んだ。
この香りは帝のものだ。
途端に不安は消えて帝に身を委ねて座った。
「もう開けても良いよ」
恐る恐る目を開けると…、
「まあ、ひ、…」
「大きな声はだめだよ」
『…姫さま!』と続くはずの声は帝の手で口を塞がれてくぐもった小さな声になった。
そこには保憲さまの隣にちょこんと、撫子姫が涙を浮かべて座られていた。
その横には父上がいらして、色とりどりの着物、素晴らしい蒔絵の施した筺など数点が置かれていた。
「女御さま、申し訳ございません。主上のご指示とは云え、女御さまに内証にしていることは心苦しかったです」
日向が着物の横に座り頭を垂れている。
「まあ、怒られた事がありますの?」
「あちこちから『撫子を虐めるな』と云われるよ。撫子は皆に大切にされているから」
穏やかな時間は過ぎてゆく。
それから数日、日向は今日から参内している。
東宮から『梨壺にてちょっとした演奏会を開くから、撫子にも是非聞いて貰いたい』と誘われて出かけた。
わたしは飛香舎からあまり出ないので、緊張する。
弘徽殿を通り、麗景殿を通って梨壺へ行く。
文を送るようになってから幾分漂う殺気のようなものは少なくなったけれど、帝の寵愛を一人得ているわたしには敵対せずにはいられないのだろう。
あからさまな言葉はないけれど、女の意地悪な視線は御簾越しでも伝わる。
今まで、臆してただ通り過ぎるだけだったけれど兄上が『一度、檜扇をずらして御簾の向こうに会釈してごらんなさい』と教えて下さった。
意を決して檜扇をずらし、会釈する。
「まあ、可憐な…」
「いいえ、弱々しいだけです」
「本当に、華のようですね」
「…あ、あれしき、十人並みです!」
「天女はかくやあらん…」
敵対する全てのものがなくなったとは云えないけれど、少し雰囲気が和らいだような気がした。
梨壺に近くなるとざわざわとする気配があり、沢山の人が集まるのに、気を引き締めた。
「なでしこ」
二の宮が迎えに来て下さった。
「はい、手を繋いで」
「はい」
「そして、眼をつむってね」
「えっ…?」
「良いから」
云われるままに二の宮の手について行く。部屋の中に入ったのだろうか?
「ここに座って」
「明日香さま、手を…」
片手では心許ない。
すると、明日香さまの小さな手ではない大きな手と嗅ぎ慣れた香の香りがわたしの手を包んだ。
この香りは帝のものだ。
途端に不安は消えて帝に身を委ねて座った。
「もう開けても良いよ」
恐る恐る目を開けると…、
「まあ、ひ、…」
「大きな声はだめだよ」
『…姫さま!』と続くはずの声は帝の手で口を塞がれてくぐもった小さな声になった。
そこには保憲さまの隣にちょこんと、撫子姫が涙を浮かべて座られていた。
その横には父上がいらして、色とりどりの着物、素晴らしい蒔絵の施した筺など数点が置かれていた。
「女御さま、申し訳ございません。主上のご指示とは云え、女御さまに内証にしていることは心苦しかったです」
日向が着物の横に座り頭を垂れている。
11
あなたにおすすめの小説
発情薬
寺蔵
BL
【完結!漫画もUPしてます】攻めの匂いをかぐだけで発情して動けなくなってしまう受けの話です。
製薬会社で開発された、通称『発情薬』。
業務として治験に選ばれ、投薬を受けた新人社員が、先輩の匂いをかぐだけで発情して動けなくなったりします。
社会人。腹黒30歳×寂しがりわんこ系23歳。
特等席は、もういらない
香野ジャスミン
BL
好きな人の横で笑うことができる。
恋心を抱いたまま、隣に入れる特等席。
誰もがその場所を羨んでいた。
時期外れの転校生で事態は変わる。
※エブリスタ、ムーンライトノベルズでも同時公開してます
僕の居場所も、彼の気持ちも...。
距離を置くことになってしまった主人公に近付いてきたのは...。
転生エルフの天才エンジニア、静かに暮らしたいのに騎士団長に捕まる〜俺の鉄壁理論は彼の溺愛パッチでバグだらけです〜
たら昆布
BL
転生したらエルフだった社畜エンジニアがのんびり森で暮らす話
騎士団長とのじれったい不器用BL
人気作家は売り専男子を抱き枕として独占したい
白妙スイ@1/9新刊発売
BL
八架 深都は好奇心から売り専のバイトをしている大学生。
ある日、不眠症の小説家・秋木 晴士から指名が入る。
秋木の家で深都はもこもこの部屋着を着せられて、抱きもせず添い寝させられる。
戸惑った深都だったが、秋木は気に入ったと何度も指名してくるようになって……。
●八架 深都(はちか みと)
20歳、大学2年生
好奇心旺盛な性格
●秋木 晴士(あきぎ せいじ)
26歳、小説家
重度の不眠症らしいが……?
※性的描写が含まれます
完結いたしました!
王子殿下が恋した人は誰ですか
月齢
BL
イルギアス王国のリーリウス王子は、老若男女を虜にする無敵のイケメン。誰もが彼に夢中になるが、自由気ままな情事を楽しむ彼は、結婚適齢期に至るも本気で恋をしたことがなかった。
――仮装舞踏会の夜、運命の出会いをするまでは。
「私の結婚相手は、彼しかいない」
一夜の情事ののち消えたその人を、リーリウスは捜す。
仮面を付けていたから顔もわからず、手がかりは「抱けばわかる、それのみ」というトンデモ案件だが、親友たちに協力を頼むと(一部強制すると)、優秀な心の友たちは候補者を五人に絞り込んでくれた。そこにリーリウスが求める人はいるのだろうか。
「当たりが出るまで、抱いてみる」
優雅な笑顔でとんでもないことをヤらかす王子の、彼なりに真剣な花嫁さがし。
※性モラルのゆるい世界観。主人公は複数人とあれこれヤりますので、苦手な方はご遠慮ください。何でもありの大人の童話とご理解いただける方向け。
【短編】抱けない騎士と抱かれたい男娼
cyan
BL
戦地で奮闘する騎士のキースは疲れ果てていた。仲間に連れられて行った戦場の娼館で男娼であるテオに優しい言葉をかけられて好きになってしまったが、テオの特別になりたいと思えば思うほどテオのことを抱けなくなる。
純愛とちょっとのユーモアでほのぼのと読んでほしい。
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
産卵おじさんと大食いおじさんのなんでもない日常
丸井まー(旧:まー)
BL
余剰な魔力を卵として毎朝産むおじさんと大食らいのおじさんの二人のなんでもない日常。
飄々とした魔導具技師✕厳つい警邏学校の教官。
※ムーンライトノベルズさんでも公開しております。全15話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる