撫子の華が咲く

茉莉花 香乃

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番外編ー参 藤壺の女御の疑問

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桔梗を見ると、
「日向が主上の命を受けて、お殿さまや自分の父君や保憲さまに文を出して用意していたのでございます」

そして耳元で、
「姫さまのことは、こちらの女房たちにはお殿さまの所縁ゆかりの姫でお前も良く知っているので会わせたい、と云ってあるからね。主上が『会わせたい』と仰って、急に決まったんだよ」

姫さまの前まで行くと「お久しぶりでございます」と挨拶された。

驚いたけれど、事情を知らない梨壺の女房がいるので仕方ない。

姫さまの前に座る。

「久しぶりですね。お元気にされていましたか?」

姫さまは言葉が続かない様子で、わたしの手を握りしめ涙を流した。

姫さまとは三条の屋敷に移った時から会っていなかった。

「お元気そうで何よりです」

そして、小さな小さな声で囁かれた。

「ごめんね。ありがとうね。わがままだったわ…でも、惟忠が幸せそうで良かった。また、会えるわよね?今度は六条の屋敷で…ね?」

やはり姫さまは姫さまだ。

「はい、必ず」

それにしても立派な調度や着物に驚く。

「これは?…日向が?」

先ほどの桔梗の話は姫さまの存在が衝撃すぎて飛んでしまいそうになった。

「主上が女御さまのために用意された品でございます。日向が主上の希望を聞いて取り計らってくれたのです」

衛門が日向を労わるように告げた。

みんな知っていたのか?

まさかわたしが日向のことを…帝と日向のことを疑っていたとは思わなくて、ただ、帝の『女御には内緒で!』と仰った事を守っていただけだったのか…。

兄上は…きっと帝は兄上にはわざと何も仰らなかったのかもしれない。可愛い嫉妬心に笑みが漏れる。

あの噂はほとんどか本当だったのだ。

わたしが変に誤解をしていただけで。

螺鈿細工の小筐、撫子の華の蒔絵が施してある文箱…他にもたくさんの品が並べてある。

「主上…」

わたしの側で顔を覗き込み、伺うようにご覧になられる顔は、
『ほら、嬉しいだろう?喜んで。こんな準備をしたわたしを褒めて』
と仰っているようで…眼に涙を溜めながら、必死に笑顔を作った。

「…あ、ありがとうございます。嬉しいです」

帝の手を取って、甲に口付けた。


☆★☆  ★☆★  ☆★☆

おわり
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