撫子の華が咲く

茉莉花 香乃

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番外編ー四 誰の疑問?

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気がつくとここにいた。

ここはどこだろう?

わたしの側にあった温もりはどこかに行ってしまって、風が吹くと寒さが増す。

そろそろと暗闇から出てみると、立派な屋敷のようだ。見事な白砂が敷き詰められた、これまた立派な庭に出た。

ここはどこだろう?

わたしはどこかの屋敷の軒下に隠れるように居たようだ。

カサカサと音のする白砂の上を歩く。

とても立派なお屋敷で、奥の、奥のそのまた奥まで屋敷が続く。
誰か人は居ないだろうか?
お腹が空いて歩くのも難儀だ。

カサカサと軽い音を立てて、綺麗に掃除の行き届いた白砂の上を歩いていると、渡殿の向こうから見知った人が歩いて来る。

ここは三条邸なのだろうか?

『兼道さま』

んっ?
何か耳から入ってくるのは違う音だった。

会いたいと思っていたので、わたしは幻でも見ているのか?兼道さまにはわたしの声は届いていないようだ。
もう一度呼んでも良いだろうか?先ほどよりも大きい声で呼んでみる。

『兼道さま!』

やはりわたしの声は届かないようで、止まって下さることもなかった。

「右大臣さま…何か聞こえませんでしたか?」
「ああ…確かに」
『ここです!ここにいます』
「まあ、可愛い。お殿さま猫ですわ!」

えっ…猫?

「誰か!そこに可愛い猫がいますの!こちらへ」

わたしは誰か、女房だろうか…に抱き抱えられて、どこかの部屋に入った。
外で見た時にも思ったけれど、部屋の中も贅を凝らした素晴らしい調度で、きらびやかだった。

几帳には螺鈿の細かな細工がしてあり、火桶も蒔絵の素晴らしいものだ。
温かい部屋の中は居心地が良い。

「藤式部さん、この猫こちらで飼ってもよろしいかしら?」
「そうねえ…宮さま方が嫌がられなければよろしいかと思いますよ?」

宮さま?
ここの主人は兼道さまではないのか?
できれば兼道さまに連れて行ってもらいたい。

『わたしは、兼道さまが良いんです』

試しにわたしを抱いている女房に云ってみるもやはり通じないようだ。

もう、認めようか…。

わたしは猫として生まれ変わったのだろう。

わたしの名は……思い出せない。

「東宮さま!二の宮さま!猫ですよ」

ええっ!東宮さま?
ではここは内裏なのか?

「わあ!可愛い」

女房の手から幼い手へ。
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