7 / 378
escape!!
1
しおりを挟む唯も優もちゃんと逃げれてるかな。唯は頑張って走るけど優は諦めたら止まっちゃいそうで心配だ。ああでも、どちらかと言えばブチ切れたら優の口の悪さで相手を挑発していないかも心配。
とは言え俺も人のことは言えない。心配している暇は本当にあるのかと天使が囁く。
頑張れ野島秋祐、ダンスで鍛えた筋肉見せてやれと叱責してみても足はすでに重い。足には結構自信あるんだけど、筋力が五分五分だった。
ひたすら走り続けて河原まで来ている。ちなみにこのコースはいつもジョギングに使っていてお気に入り。
「うあーきっつーー!!」
叫んだら余計に苦しくなるのはわかっているけれど叫ばないとやっていけない。しつこすぎる赤髪の奴!
俺についてきたのは赤髪の男だった。向こうも苦しそうであるがちらっと見えた表情が楽しんでいるように見え、少々恐ろしかったので絶対捕まりたくない。
仲間を一緒に馬鹿にしていた奴がここまでして俺を追いかけてくる理由はなんなんだろう。
「なー!あんた、なんで!そんなしつこいわけ?!」
「……は!すき、だから!」
「……は?」
なんて言った?すき?スキダカラ?
フォーリンラブのスキダカラ?
俺は返事もせず持てる体力全てで最高速度を出した。絶対捕まりたくない。何をさせられるか分かったもんじゃない。誰かが目の前を横切りそうになったので大きく避けて草むらを少しだけ入りまた元の歩道に戻る。
そしてまた振り返ってみる。うわあ、満面の笑み。
怖い、怖すぎる。何が好きなんだろう、まさか俺?いや、違う。もし恋するの方のスキダカラなのだとしたら、追いかけ回してあんな気持ち悪く笑わない筈だ。いや、ストーカーならありえるかもしれないが今日初めて会った人にストーカーも何もないはず。そうでなければ怖過ぎるじゃないか。
これはおちょくられているのかもしれない、よし詳しく聞いてみよう。
「な、何が?!」
「ボコボコにッ、するのが!趣味!」
こっわ!
なんだあいつ、あんな奴が人間に居るとは。喧嘩が好きって男子としては強いものがカッコいいというのはわかる。
映画でも戦いの美しさとかあるから。でもそれは弱い奴にやっても意味がない、ただの弱いものいじめだ。しかもあいつはボコボコにできればなんでも良いというそういう趣味のやばい奴だ。頭がちょっとあれなんだ。
「ねぇねぇ」
そんな声が横をかすめたがもう真顔でめちゃくちゃ全力で走っていた俺は周りも見えていなくて、誰か近づいたのだけは分かった。ぶつかってはいけないのでまた大きく避けようとするとまた同じ声が聞こえた。
「あれ友達?」
避けようとしたのにその人はなぜか並列して一緒に走り始めたのだ。俺よりも背が高く、横に並ばれた途端に凄い威圧感があった。
「へ?!」
「友達?って」
なんで一緒に走ってるの?に対してのへ?だったのだが、相手は良く聞こえなかったと捉えたようだ。
しかも友達?あの後ろの怖い奴が友達に見えるのだろうか。こんなに嫌がって逃げているのにそんな事を言う人って。
首をぐいっと向けると男の人が一緒に走っていた。なぜ分かったのかと言うと、顔を見たからではなく色味的に同じ高校の男子の制服だったからだ。背が高くて顔を見る余裕がない。他に情報がはいったことと言えば、めっちゃ良い匂いする。
「ねぇ、友達かってきいてるんだけど~」
「ちがいますよ!」
もう限界が近くて語尾全てにびっくりマークがつく。誰だか知らないけどこんな時になんなんだ。俺の妹や弟よりも突拍子もない。
もう、息も上手くできなくて喉も脇腹も痛いのに。
「そっかー」
「というか!一緒に!走ってると!あいつに!ボコられますよ!趣味って言ってて!」
「なになに~オレの心配してんの~?」
けらけら笑い始めたこの人も少し変わった人かもしれない、いやかなり。この人はこんなに必死になっている俺を見てなんとも思わないのだろうか。しかも息ひとつ上がっていない隣の走者があり得ないことを言い始めた。
「でもオレもさあ、ボコるの好きなんだよね」
もうなにをいったら良いのかわからず、ついに首をあげてその顔を見た俺は息が止まる。
「……てか、え、豹原先輩?」
「ご名答~!」
にんまり悪戯っ子のように笑ったこの人は俺の先輩だった。とは言え、俺を追いかけている不良とは比べものにならない程の不良オブ不良と言われるような有名人だ。一度だって話した事もないのにたくさんの噂が勝手に流れてくるような人。
そんな人が楽しそうに俺と走っている。
猫っぽい顔つきがセクシーで、派手な格好なのに綺麗だと思わせる。遠目で見た俺の先輩に対する印象だった。
「な、なんで!貴方みたいな有名人が!俺と走ってるんすか!」
「ん~後ろのやつ知ってるんだけど~嬉しそうに追いかけてたから気になって?」
そんな理由でこの競争に参加する心意気さすが。息も絶え絶えなのに、びっくりしすぎていろんな気持ちが交差する。ボコるの趣味なんだーとか、俺の最大速度が足のリーチで先輩には余裕そうだなーとかやっぱりカッケェなーとか。それでもなんとか意志だけは叫べた。
「俺は!あの人にボコられ!たくないから!はしってます!ゲホッ!てゆーか!先輩!走っててもイケメンですね!」
あ、最後のは余計だった。
「え……今?…………なに、馬鹿なの?!プフー!!!アハハハ!」
走りながらも腹を叩いて爆笑し始めた先輩を気遣う余裕はもうない。俺も馬鹿な一言を付け加えてしまった反省はある。だからもう黙って逃げ切りたいのに足は限界だった。
ついにがくんと本当に音がしそうなほど膝から崩れ落ちる瞬間、全てがスローモーションに見えた。止まって見えるほどこ景色は夕焼けに照らされた川が綺麗で、ボコられても仕方ないと思ってしまえる。
「はーあ、笑った笑った。面白かったし赤いのトモダチじゃないらしいから助けてアゲル」
「……え?」
気持ちだけは痛みに備えていた身体は地面につく前に先輩の腕が俺を支えていた。すとんと地面に降ろされると、にんまり笑って後ろに疾走していった。
「はえぇ……」
あとはもう一瞬で相手は地面にひれ伏していた。瞬足からの蹴り一発でKO。赤髪さんは先輩の顔見えたのかな。あの動き、速くて重いって喧嘩では最強なんじゃない。
「本当に同じ趣味?にわかじゃないの~」
どっこいしょ~と穏やかな会話だが失神している人の横で言うセリフではない。赤髪さんを道端の横に転がすと先輩は俺のところに戻ってきた。
「ダイジョウブー?」
「あー大丈夫です」
河川横の芝生で伸びきった俺。先輩は俺の脇腹をつついているが全部の体力使い切って何もできない。
「ありがとうございます先輩」
「いーえ?予定が今日になっただけだから」
「え?」
倒す予定でもあったのだろうか。どちらにせよ本当に助かった。先輩にはワンパンでも俺には35パンくらいかなぁ。
「うー走りすぎて気持ち悪い……」
唸りながらも何とか立ち上がれた。豹原先輩が不思議そうに俺を見ていた。
「友達も追われてると思うんで行かないといけないんすけど、もう走れねー……」
「そんなヘロヘロで~?」
しゃがんだまま先輩は両手でアゴを支えていた。あんなに背が高いのに今は小さく見えて、動きが子供っぽいせいか可愛く見える。これが顔面格差故の特権か。
「でも心配で……」
「ふーん」
あまり興味は無さそう。
そりゃそうだ、見たこともない人間が心配だからといって慌てふためく方が稀だ。
ポッケから取り出したスマホに連絡はない、どこに向かうのが1番確実だろうか。あまり良い状況ではない、俺がラッキーで助かっただけ。
心配で胸が痛む中、後ろから呑気な声が響いた。
55
あなたにおすすめの小説
アイドルくん、俺の前では生活能力ゼロの甘えん坊でした。~俺の住み込みバイト先は後輩の高校生アイドルくんでした。
天音ねる(旧:えんとっぷ)
BL
家計を助けるため、住み込み家政婦バイトを始めた高校生・桜井智也。豪邸の家主は、寝癖頭によれよれTシャツの青年…と思いきや、その正体は学校の後輩でキラキラ王子様アイドル・橘圭吾だった!?
学校では完璧、家では生活能力ゼロ。そんな圭吾のギャップに振り回されながらも、世話を焼く日々にやりがいを感じる智也。
ステージの上では完璧な王子様なのに、家ではカップ麺すら作れない究極のポンコツ男子。
智也の作る温かい手料理に胃袋を掴まれた圭吾は、次第に心を許し、子犬のように懐いてくる。
「先輩、お腹すいた」「どこにも行かないで」
無防備な素顔と時折見せる寂しげな表情に、智也の心は絆されていく。
住む世界が違うはずの二人。秘密の契約から始まる、甘くて美味しい青春ラブストーリー!
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
実は俺、悪役なんだけど周りの人達から溺愛されている件について…
彩ノ華
BL
あのぅ、、おれ一応悪役なんですけど〜??
ひょんな事からこの世界に転生したオレは、自分が悪役だと思い出した。そんな俺は…!!ヒロイン(男)と攻略対象者達の恋愛を全力で応援します!断罪されない程度に悪役としての責務を全うします_。
みんなから嫌われるはずの悪役。
そ・れ・な・の・に…
どうしてみんなから構われるの?!溺愛されるの?!
もしもーし・・・ヒロインあっちだよ?!どうぞヒロインとイチャついちゃってくださいよぉ…(泣)
そんなオレの物語が今始まる___。
ちょっとアレなやつには✾←このマークを付けておきます。読む際にお気を付けください☺️
【完結】ハーレムラブコメの主人公が最後に選んだのは友人キャラのオレだった。
或波夏
BL
ハーレムラブコメが大好きな男子高校生、有真 瑛。
自分は、主人公の背中を押す友人キャラになって、特等席で恋模様を見たい!
そんな瑛には、様々なラブコメテンプレ展開に巻き込まれている酒神 昴という友人がいる。
瑛は昴に《友人》として、自分を取り巻く恋愛事情について相談を持ちかけられる。
圧倒的主人公感を持つ昴からの提案に、『友人キャラになれるチャンス』を見出した瑛は、二つ返事で承諾するが、昴には別の思惑があって……
̶ラ̶ブ̶コ̶メ̶の̶主̶人̶公̶×̶友̶人̶キ̶ャ̶ラ̶
【一途な不器用オタク×ラブコメ大好き陽キャ】が織り成す勘違いすれ違いラブ
番外編、牛歩更新です🙇♀️
※物語の特性上、女性キャラクターが数人出てきますが、主CPに挟まることはありません。
少しですが百合要素があります。
☆第1回 青春BLカップ30位、応援ありがとうございました!
第13回BL大賞にエントリーさせていただいています!もし良ければ投票していただけると大変嬉しいです!
とある金持ち学園に通う脇役の日常~フラグより飯をくれ~
無月陸兎
BL
山奥にある全寮制男子校、桜白峰学園。食べ物目当てで入学した主人公は、学園の権力者『REGAL4』の一人、一条貴春の不興を買い、学園中からハブられることに。美味しい食事さえ楽しめれば問題ないと気にせず過ごしてたが、転入生の扇谷時雨がやってきたことで、彼の日常は波乱に満ちたものとなる──。
自分の親友となった時雨が学園の人気者たちに迫られるのを横目で見つつ、主人公は巻き込まれて恋人のフリをしたり、ゆるく立ちそうな恋愛フラグを避けようと奮闘する物語です。
今日もBL営業カフェで働いています!?
卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ
※ 不定期更新です。
王様のナミダ
白雨あめ
BL
全寮制男子高校、箱夢学園。 そこで風紀副委員長を努める桜庭篠は、ある夜久しぶりの夢をみた。
端正に整った顔を歪め、大粒の涙を流す綺麗な男。俺様生徒会長が泣いていたのだ。
驚くまもなく、学園に転入してくる王道転校生。彼のはた迷惑な行動から、俺様会長と風紀副委員長の距離は近づいていく。
※会長受けです。
駄文でも大丈夫と言ってくれる方、楽しんでいただけたら嬉しいです。
イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした
天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです!
元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。
持ち主は、顔面国宝の一年生。
なんで俺の写真? なんでロック画?
問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。
頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ!
☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる