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仔犬

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「ほら立って唯」


無理ですと叫んだおれの声は誰にも届くことはなく、指名されちゃったら引っ込められなくてごめんねぇと胡蝶さんがおれを引きずっていく。誤っている割にはその表情は楽しげに笑っていた。

せめて心の安らぎに小さめの美容グッズが詰まったシックなポーチを掴む。これくらい許してほしい所だ。

「それは?」

「お守りですぅ……」


情けない声のおれがツボなのか胡蝶さんがまた笑う。なんだろうおれが慌てふためいているのがそんなに楽しいのだろうか。

次に案内されたお客様にはもう完全に開き直ることにした。学校でもカフェでもしてたようにするのだ。氷怜先輩にはもういろんな手で謝ろう。

流石になれない空間に一瞬戸惑いはしたものの、次に案内された席のお客様はなんとも話しやすい方だった。
話をよく聞けばお子さんもすっかり独り立ちし、旦那さんはもう亡くなっているらしい。かなり稼いでいた事もありいまは余生とばかりに遊んでいると言っていた。
そんな年には見えないほど綺麗だったが頭の良さや丁寧な言動が積み重ねてきた経験の差を感じる。

世間話ばかりの穏やかな時間が終われば次の女性3人組のお客様にもう緊張する事なく、いつも通りのおれでいけた。

思えば会話に困ったことないのだからそう言う意味では苦労はない。可愛いものは可愛いと伝えて綺麗なものは綺麗と言う。頑張っていることは褒める。女性を褒めることに限度はない。

「あ、結婚線……もうすぐなんじゃないですか。こんなに可愛くて優しい奥さんもらえた旦那さん幸せ者ですね」

「え、あ、ありがとう」


ちょっと照れたところもかわいいなぁと思っていればお友達まで顔を赤くしていた。次にお友達の手を取って世間話を交えた手相占いをしているところでまた胡蝶さんが呼びにきた。


「唯、指名だよ」


ありがとうございましたとお礼を言って席を立つ。だいぶお互いが知れたのでもうわだかまりもなく、手を振ってお別れをした。

それにしてもと、こちらも見ずに胡蝶さんが楽しげに笑う。

「驚いた。君手相まで見れるなんて」

「派生して色々と調べるうち……」


元いた席ではすっかりお酒を呑んでブーストがかかったアゲハさん達にさっすが唯ちゃん頑張れ~!とご機嫌に手を振られる。

笑顔で手を振り返すが次に後ろに振り返った時にはもうボトル5本目に突入。飲み方も動きも完璧に綺麗なのに、いつのまにかお酒が減っているという魔法だ。

ついに助けはもうない……と涙を飲んで次の席に移動していたおれに胡蝶さんがこっそり教えてくた。


「唯、さっきのお客様と今のお客様シャンパンタワー入れてくれたよ」

「…………へ?」


それが高いことはおれの少ないホスト情報でも分かった。なんて事おれなんかのためにそんな大金を……つまりおれは頑張らなくてはいけないことになる。

それにいつだったかテレビで見たホストクラブはシャンパンタワーが入ったらもうぶちあげ~みたいなコールを歌い出し総出でお祝いみたいな感じだった。


「あれ?でもそういう時って一緒に居て盛り上げなくて大丈夫なんですか?」

「そこ心配するの?」


くすくす笑った胡蝶さんはやっぱり君変わってるよと小さく言った。おれを一瞬通路の傍まで連れていくとネクタイを直してくれるふりをしながら甘い顔で微笑む。


「うちはそういうのしないんだ。落ち着いた上質空間が売りでね……唯、俺はちょっと嬉しいよ君の実力が見れて」

「実力って……何もないですよおれ」

「いい勝負してると思うなぁ」


今度は悪戯に笑った胡蝶さん。この人の余裕な感じ暮刃先輩にどこか似ていると思ったら、試すように相手を見ているところだ。どちらも愛があるのでいいのだが今回ばかりは厳しい勝負である。


「ああ、次の人もすごい柔らかい人だったから大丈夫。君のいつも通りで大丈夫だよ。おれもフォローするから、ね?」

胡蝶さんホストモードになっているせいか決められたウィンクが星となって目をチカチカさせる。その隙に次の人に紹介されてしまった。


「お待たせしました。唯、こちらレイラさん」

「初めまして唯です」

「はじめまして」

小さな唇が微笑んだ。
手入れの行き届いた長い髪をハーフアップ。綺麗に揃えて膝に乗せられた手に上品に顔を傾ける仕草。どれも素晴らしいのに、笑ってくれたレイラさんの眉が下がってすぐに顔も下に向いてしまった。一言二言話すも上がった顔は元に戻ってしまう。

これ隣に座るのなんてまだ早い気すらしてくる。

思わずおれはしゃがみこむと胡蝶さんが驚いたのが横にいて伝わった。
すみません、カフェで働いている時こういう時は必ずしゃがむんです。話す目線が下がり気味な人にはおれが下がれば良いと発見したのだ。


「レイラさん、手をお借りしても良いですか?」

「え?……ええ」


 笑ったおれにレイラさんは手を出してくれたのでポーチからハンドクリームを取り出した。細い手はやっぱり冷えている。せめて体調悪くないといいな。

「これ温効果があるクリームなんです……それともあったかい飲み物の方が暖まりますか?」


心か体か、どちらか少しでもあったまれば。


きょとんとした顔の後に、やっと砕けた笑顔が帰ってきた。

「……クリーム、使ってみてもいいかな」

「もちろん」


胡蝶さんがついでに温まるものも持ってくるよと笑ったが立ち去る時に何かを言っていたがよく聞き取れなかった。


「今回ばかりは俺の負け」









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