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しおりを挟むなんとなく、集会は聞かれたくはないのかな、といつも思う。別段それについて話したことはないけど、話し合いの時はおれたち3人お得意のVIPルームでお留守番だ。
でも今日はサクラ姉さんがいるおかげで大まかな話を聞く事ができた。
「クリスマスの日にね、何人か引き抜きにあってるの」
「引き抜き……」
「もちろんうちにその話に乗るような人はいなかったけど、随分と美味しい話を持ちかけるそうなのよ」
きらりと輝く指輪がはまる手でサクラ姉さんは頰に手を当てる。そのまま首を傾げ赤い唇で話を続けた。
「その人に合った条件、お金も地位も名声までニーズに合わせると言うのよ。しかも相手の容姿を確認させたら同じ人間に話しかけられているのによ」
いつのまにか用意してくれていたアフタヌーンティーセットは多分赤羽さんのおかげかな。
ティーカップにアールグレイを注いでサクラ姉さんに渡すと微笑んで受け取ってくれる。
あの色のルージュはたぶんティントじゃないから、フチが赤いやつにしてみた。こんなに上品に飲んでくれてティーカップも喜んで柄が輝いて見えるな。
おれがおもてなす横で優が話し出すので優にはミルクティを。サクラ姉さんの言葉をじっくりと考えいろんな可能性を導き出していくのは優らしい。
「このチームは有名で素人の俺たちから見ても凄い人たちばかりですし、そう言う話無かったわけじゃ無いですよね?引き抜きにも気合を入れて情報を調べていてもおかしくはないし……」
「そうね、でもあまりにも知られすぎているのよ。家族構成や、お財布事情、通っている学校、よく行く場所なんかも」
2人の会話を今度は秋が拾い出す。おれはやっぱりおもてなしに回り、秋が好きなレモンティを入れたティーカップを渡す。
「ここの人たちって表に出る人と出ない人いるじゃないですか。その両方ですか」
「ええ、そうね……優夜くんも秋くんも相変わらず冷静で感心しちゃう」
手を合わせたサクラ姉さん。おれはうんうんと頷いてサクラ姉さんに同意した。
「ですよねぇ、おれが紅茶入れてる間に」
「唯斗くんはおもてなしが本業のそれよりも完璧よ!私の口紅が目立たないようにこのティーカップ渡してたでしょう……はあ、3人とも本当にうちに欲しいわ……」
切なげに言われるがおれたちは微笑みを返すことしかできない。下手に返事をしたら先輩達にいつかお尻でも叩かれそうだ。
「なんかそれ聞くとあの榊李恩のサイト思い出すな」
ああ、秋のその一言で優様の眉間にシワが。思わず爆笑した秋がつんつんと眉間を押していく。
「しわ!残るぞー」
むくれながらも自分で眉間を確認してなんとかいつものクールを取り戻した優様。ひと口飲み直して口を開いた。
「……あれ間違いだらけだったよ」
「そうだけど、俺達の事載せるあたり何も知らない訳じゃないだろうし。こんな大規模なチームからあれだけの人数を載せたのは凄いと思うけど」
秋の言葉にまあ確かにと優が頷いた。そうなんだよね、相変わらずあの人のやりたいことは分からないし、おれたちだけでは知らべるにも限界がある。先輩達は何かを掴んでいるのだろうか。
そこまで考え、前提を聞いていないことに気づく。
「あれ、そもそも引き抜きって何に引き抜くんですか?勝手に他のチームにって考えてたんですけどここより有名なチームなんて……」
「そこが1番不思議なのよ。引き抜き先は全て大企業で、通信メーカーからファッション業界、芸能、とにかく欲しいものは全て与えると。優秀な人材がいるのは胸を張って言えるけど、何故このクラブでそんな誘いをうちの子達にするのか……」
「公にしすぎですし、条件美味しすぎますね……」
「不思議よねぇ……あ、唯斗くん私もそれひと口頂戴?」
「もちろん」
おれは初めて見る紅茶に挑戦してみたのだ。香りはフルーツ系、少し酸味が強めでも苦味が無いから美味しい。一定数のファンはつきそうなので春さんに教えてあげよう。
「さっぱりしてますよ。どうぞ」
「香りが良いわね」
少しティーカップを揺らして口をつける前に、サクラ姉さんがでも……と話を続けた。
「今回の件とは関係は無いとは思うけど、私たちから見て強大なチームと言うものは存在するわ」
「え?」
そんなに有名ならおれたちだって知らないはずがない。だって先輩達があれほど世間で騒がれているのに。
「でもまったく表には出ないし、あなた達が知らないのも当然。数もね、うちよりも少ないのだけど実力が人間では無い集まりがいるのよねぇ」
先輩達だってあまりに人らしいとは思えないがサクラ姉さんの口ぶりでふざけている様子はなかった。
「上には上がいるってまさしくそうなのよ。それがいつ逆転するかは分からないけどね」
先輩達でさえ認めるような相手なんて、想像するだけでワクワクする。そんな凄い人たちにいつか出会うのだろうか。
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