sweet!!

仔犬

文字の大きさ
329 / 378
rival!!!

2

しおりを挟む


春の驚いた顔、それでも彼は静かに微笑んだ。

「……君がいつも不機嫌だった理由が今分かったよ」

「だろうな」

春はあり得ないほど自分に向けられる好意に鈍感だった。それなのに他人事には察しが良いのは余計に李恩を逆撫でした。その気遣いで自分以外を構う全てが許せなかったから。

椅子に腰掛けると李恩は足を組む。
隣に座れと手で合図すれば春は大人しく横に座った。こう言うところも昔から変わらない。李恩がどんなにわがままを言っても春は穏やかに笑って頷くのだ。

「まさかだったか?」

「……うん、そうだね。君の事、可愛い弟みたいに思っていたから」

「……可愛いねぇ」

今よりも可愛げは無かったような気がする。
当時はもう春をどう独占するか、そんな事しか考えていなかった。微塵も気付かれないこの想いも、春に近寄る女も男も、全て許せなかった李恩は気が狂いそうなほど焦っていたように感じる。

「なんだかほっとけなかったんだ、君の事」

つまりその焦りだけが伝わっていたのだ。春は李恩に深く踏み込もうとはしなかった。なのに絶対と言って良いほど李恩から離れたりしなかった。その春の存在に救われるのに、同時に優しい瞳に恋愛感情がない事に絶望する日々。

蘇る記憶があまりにもどす黒い。組んだ足先を見れば、磨かれた革靴。麗央が靴を綺麗にしろ、まずはそこからだと、とうるさかったからだ。

また黙り込む李恩にお決まりのように春が話し出す。

「李恩、よく怒ってたもんね。誰とでも仲良くする俺の行動、勘違いさせるから止めろって」

「よく覚えてたな」

なんとか返事はしているがこうして話し出してみたものの、春に望む答えは李恩にはなかった。

単純に自分のものになって欲しい、なんて気持ちは通り過ぎていた。

きっと無理やりに命令でもすれば春は頷くかもしれない。それに意味がない事はもう知っていた。そして、今が望んでいた結果なのかもしれない。


「……あんたをこの前見たよ」

何処となく唯斗に似ている女と一緒に。
偶然だった、街中で手を繋いでいたわけでもなく恋人のように寄り添っていた訳でもない、ただ話しているだけの2人を見たのだ。

それでも、その2人を見た瞬間にやはり自分は春の隣ではないと実感した。
あの目は自分に向けられないのだ。

「良い顔してた」

その言葉に春にしては珍しく視線が彷徨う。目尻の皺が少し深くなるとぎこちなく、照れ臭そうに笑った。


「久しぶりに、好きな人が出来たんだ」


この笑顔が自分のものではない。
ああ、良かった。

何を気にしていたんだろう。俺はいつか、こうなるって知っていたんだ。そして見たかった。

完全に自分に希望は無くなったというのにもうスッキリしている。

「くくっ……あのボケっとした春がな」

「俺そんなにボケっとしてるかな……」


やっぱり変わっていない。おかしくてたまらない、この鈍感な男が好きだった自分も可笑しくて堪らない。


「あーあ、なんかバカみてえ。最初っから土俵に上がってねぇのによ」

「え?」

もう意地も張らず、言葉はすんなりと出てくる。


「春。そいつ、幸せにしてやれ」

この優しい男が幸せそうにしていると、どうでも良くなってしまうのだ。
振り返った笑顔が見れたら、もう何でも良くなった。本当はずっと、ただこの笑顔が見たかっただけなのかもしれない。


「ほら早く荷物持ってくぞ」


いくら鈍い春にも李恩の心情は少なからず読み取れた。自分にはただ話を聞くこと、そしてありのままを伝えることしか無いと。李恩の表情が幾分明るくなったのを確認して春はいつも通り微笑んだ。


「それにしても本当に大きくなったね。前なんかこれくらいだったのに」

確かに李恩は成長が少し遅かったせいで昔は春の方が身長がだいぶ高かった。だが春が言うこれくらいは明らかに1メートルもない。


「園児かよ……」


相変わらず、気の抜ける事ばかり言うところも変わらない。でもこれが彼の良いところでもあると李恩は思わず笑ってしまう。


「あれ?もっと大きかったかな、でも君はそれくらい可愛かったから……さてと、これで良いかな」

やはり春には家族愛のようなものしかなかったのだ。それはそれで今の李恩には心地良い。
車から荷物を持った春が戻ろうと背中を向けると李恩はふと声をかけた。

「つーか春。お前が好きな女、唯斗に似てねぇか?」

春はん?と首をかしげると上を向いた。おそらく上にいる唯斗を思い描いているのだろう。

いつも通りの気の抜ける笑顔から、李恩にとってはとんでもない言葉が飛び出した。



「そりゃあ、お母さんだからね」

「……はあ?!」





恋の戦に負けた事よりも息子の誘拐犯としては1番会いたくない相手だ。

しおりを挟む
感想 182

あなたにおすすめの小説

アイドルくん、俺の前では生活能力ゼロの甘えん坊でした。~俺の住み込みバイト先は後輩の高校生アイドルくんでした。

天音ねる(旧:えんとっぷ)
BL
家計を助けるため、住み込み家政婦バイトを始めた高校生・桜井智也。豪邸の家主は、寝癖頭によれよれTシャツの青年…と思いきや、その正体は学校の後輩でキラキラ王子様アイドル・橘圭吾だった!? 学校では完璧、家では生活能力ゼロ。そんな圭吾のギャップに振り回されながらも、世話を焼く日々にやりがいを感じる智也。 ステージの上では完璧な王子様なのに、家ではカップ麺すら作れない究極のポンコツ男子。 智也の作る温かい手料理に胃袋を掴まれた圭吾は、次第に心を許し、子犬のように懐いてくる。 「先輩、お腹すいた」「どこにも行かないで」 無防備な素顔と時折見せる寂しげな表情に、智也の心は絆されていく。 住む世界が違うはずの二人。秘密の契約から始まる、甘くて美味しい青春ラブストーリー!

【完結】ハーレムラブコメの主人公が最後に選んだのは友人キャラのオレだった。

或波夏
BL
ハーレムラブコメが大好きな男子高校生、有真 瑛。 自分は、主人公の背中を押す友人キャラになって、特等席で恋模様を見たい! そんな瑛には、様々なラブコメテンプレ展開に巻き込まれている酒神 昴という友人がいる。 瑛は昴に《友人》として、自分を取り巻く恋愛事情について相談を持ちかけられる。 圧倒的主人公感を持つ昴からの提案に、『友人キャラになれるチャンス』を見出した瑛は、二つ返事で承諾するが、昴には別の思惑があって…… ̶ラ̶ブ̶コ̶メ̶の̶主̶人̶公̶×̶友̶人̶キ̶ャ̶ラ̶ 【一途な不器用オタク×ラブコメ大好き陽キャ】が織り成す勘違いすれ違いラブ 番外編、牛歩更新です🙇‍♀️ ※物語の特性上、女性キャラクターが数人出てきますが、主CPに挟まることはありません。 少しですが百合要素があります。 ☆第1回 青春BLカップ30位、応援ありがとうございました! 第13回BL大賞にエントリーさせていただいています!もし良ければ投票していただけると大変嬉しいです!

今日もBL営業カフェで働いています!?

卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ ※ 不定期更新です。

実は俺、悪役なんだけど周りの人達から溺愛されている件について…

彩ノ華
BL
あのぅ、、おれ一応悪役なんですけど〜?? ひょんな事からこの世界に転生したオレは、自分が悪役だと思い出した。そんな俺は…!!ヒロイン(男)と攻略対象者達の恋愛を全力で応援します!断罪されない程度に悪役としての責務を全うします_。 みんなから嫌われるはずの悪役。  そ・れ・な・の・に… どうしてみんなから構われるの?!溺愛されるの?! もしもーし・・・ヒロインあっちだよ?!どうぞヒロインとイチャついちゃってくださいよぉ…(泣) そんなオレの物語が今始まる___。 ちょっとアレなやつには✾←このマークを付けておきます。読む際にお気を付けください☺️

イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした

天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです! 元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。 持ち主は、顔面国宝の一年生。 なんで俺の写真? なんでロック画? 問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。 頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ! ☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

とある金持ち学園に通う脇役の日常~フラグより飯をくれ~

無月陸兎
BL
山奥にある全寮制男子校、桜白峰学園。食べ物目当てで入学した主人公は、学園の権力者『REGAL4』の一人、一条貴春の不興を買い、学園中からハブられることに。美味しい食事さえ楽しめれば問題ないと気にせず過ごしてたが、転入生の扇谷時雨がやってきたことで、彼の日常は波乱に満ちたものとなる──。 自分の親友となった時雨が学園の人気者たちに迫られるのを横目で見つつ、主人公は巻き込まれて恋人のフリをしたり、ゆるく立ちそうな恋愛フラグを避けようと奮闘する物語です。

王様のナミダ

白雨あめ
BL
全寮制男子高校、箱夢学園。 そこで風紀副委員長を努める桜庭篠は、ある夜久しぶりの夢をみた。 端正に整った顔を歪め、大粒の涙を流す綺麗な男。俺様生徒会長が泣いていたのだ。 驚くまもなく、学園に転入してくる王道転校生。彼のはた迷惑な行動から、俺様会長と風紀副委員長の距離は近づいていく。 ※会長受けです。 駄文でも大丈夫と言ってくれる方、楽しんでいただけたら嬉しいです。

処理中です...