ナチュラルサイコパス2人に囲われていたが、どうやら俺のメンヘラもいい勝負らしい。

仔犬

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死生契闊

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英羅はしばらく入院しその間、毎日時間が許す限り知秋と来夏は英羅の見舞いに向かい話しかけた。
吹っ切れたようにいつも通りに話す2人に英羅はほとんど反応することはなかったが、病院側からすれば2人がいる事が微笑ましい光景にしか見えなかったし、安心して任せられるとそんな風にさえ見ていた。

それからも数年、何かを起こしては入退院を繰り返した頃にはあの冷たい目の静かな英羅になっていた。
昔の太陽のような明るい笑顔など一度も無い。問題が起きるたびに駆けつけては残酷な言葉を英羅に聴かせた知秋も来夏も昔のような柔らかい笑顔は少なくなった。それでも英羅が生きて、隣に居れさえすれば問題ないのだ。

今回の退院を期に珍しく知秋と来夏が嬉しそうに英羅を連れてきたのは豪華なマンションの一室だった。

「……何ここ」

「お前のための家だよ」

「これでもっと一緒に居られるでしょう。何でもあるし何でもする。英羅は何もしなくていい」


英羅は黙って部屋を見ていた。
親友だった2人も英羅同様、時間が経ち変化していった。遠慮など無くなりこうして勝手に行動する。

用意したと言う部屋を見渡した英羅は瞳を動かしただけですぐに嫌そうに眉をひそめた。随分綺麗な牢獄だ。

「……帰る」

「どこに?俺たちの家ならもう無い。それとも……お前のあの家にか」


2人に背を向けた英羅は知秋の言葉にぴたりと動きを止めた。ここ数年で知秋の物言いは随分と意地悪になったものだ。
一度だって英羅は自分の家に帰った事がない。帰れないのか、帰りたくないのかは本人ですら定かではなかった。

これまではずっと知秋と来夏の家を行き来していたが英羅を1人にする時間で大抵英羅の感情に波が起きる。
本当は来夏も知秋も3人で住みたい訳はないが、かと言って自分達以外に英羅を1人の時に任せられる人間も居なかった。信用出来ない、そもそも会わせたく無い。

「英羅すぐどこかに行こうとしちゃうから、これつけようと思って」

英羅の足元でしゃがんだ来夏がにこりと笑う。綺麗で残酷な笑顔で細い英羅の足首に鎖をつけた。


「……ここから、出さないつもりか?」

「どうせ基本はベッドから出ねぇじゃねえか。そのくせ不機嫌起こすと消えるお前の為だよ。毎回傷だらけで帰ってくるお前を守るためにここまでしても、神は怒らねえだろ」


吐き捨てて言う知秋に英羅の瞳が嫌悪と怒りで炎を燃やした。でもそれも一瞬でアーモンド色の瞳は暗闇になり、何も映さず全てを諦める。

「……どうせ、神様は居ないだろ」

暴れる訳でもなく、英羅はゆっくりとリビングを歩きベランダに出た。夏の夕方のぬるい風はベタついて気持ちが悪い。


「これがついてたら、死ねないな……」


足のワイヤーを引き摺りながらベランダの柵にもたれ掛かり上半身を投げ出した。


「……英羅やめて」

「どうせ外までこれ届かないだろ」

「見たくない」


来夏も随分と口調が変わったなと、英羅はぼんやりと思った。夕日が眩しくて視線を下げると米粒のように小さな街の景色。ああ、このまま飛び込めたら綺麗な景色がスローモーションに見えるのだろうか。


「安心しろよ、もしそれが外れてここからお前が落ちたら俺もこうする」


英羅の横で一瞬でベランダの柵に足をかけた知秋が笑った。すぐに来夏が睨む。


「知秋も、やめて」

「……相変わらず最低だな」


今度こそ本当に憎しみを込め知秋を睨み、英羅はようやくベランダからリビングに戻った。ホッとした来夏は英羅の手をそっと握る。


「何もしなくて良い、英羅はここに居て」

「それは……」


英羅の表情がぎこちなく歪んでいく。
2人がここまでする理由ならもう分かっている。散々、歪んだ形で体を重ねてしまった。朦朧とする意識の中、その度に呟かれる「愛してる」が耳の奥でさざ波のように残っていた。たまにそれが呪いの言葉に聞こえると言ったら、2人は泣くのだろうか。



「お前らまで、どんどん地獄に行こうとするんだな……」



その愛に応えられない。
それよりも死の方が甘いのだ。


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