sweet!!-short story-

仔犬

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たこ焼きパーティーが似合わない

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「美味しいよぉお」

「泣くなよ……ってうんま!!何これ!!」

秋がたこ焼きだったはずの美味しい何かを宝石みたいに見つめている。那加さんの料理が不味かったことなんて一度もないわけで、たこ焼き改めレストラン級の創作料理は口に入れた瞬間に全身をとろけさせた。

「たこ焼きじゃないけど美味しいネー、たこ焼きじゃないケドーー」

頬張りながらも拗ねる瑠衣先輩に那加さんが苦笑する。

「いや、すみません。スイッチが入って、あはは……」

「実質丸いものをたこ焼き機で焼いているのでほとんど変わりませんよ」

赤羽さんが微笑む。

「ホワイトソースがかかってなきゃな」

「俺は何でも大丈夫です」

亜蘭さんが美味いけどこれ何だと思う?と聞くと静かにさあとミカちゃんは答える。ミカちゃんはほんとに食事に興味がないらしい。

「ミカちゃん、ほんとのたこ焼きはもう少し庶民的なんです」

「はい」

初たこ焼きの認識を間違えて教えてはいけないので、一応教えるけどミカちゃん静かにとりあえずという感じで食べている。那加さんがため息をついた。

「作り甲斐のないのやつだろ」

「と言うか何食べても何も言わないぜこいつ」

亜蘭さんがもぐもぐ頬張りながらそう言うけど、それすらもミカちゃんは我関せず。何というか幹部の人たちも色々だ。

「幹部の人達ではよく一緒に飲むんですか?やっぱり仲良しです?」

「まあなぁ、腹割って話すには上手いもんと酒が必須だろ」

「おいお前と一緒にするな那加。俺は酒に頼らないで話せるぞ」

「とか言ってお前が一番先に潰れてんじゃん」

亜蘭さんと那加さんが言い合う中で双子の神さん才さんはお互いの腕を組ませ飲ませあっている。あんな特殊な飲み方初めて見た、てか瓶一気してるけど?!思わず氷怜先輩の腕を掴むとん?と小首を傾げる。

「氷怜先輩!あれ、大丈夫なんですか……?!」

「ああ、いつもあれだな」

「……うわああ」

水の如く飲み切った2人はゲラゲラ笑っている。世の中の双子にはああいう遊びがあるのかもしれない、そういうことにしよう。こういう未知は見ないふりがいいのだ。いつか来るおれの大人な飲みはきっと穏やかなものだと信じて。



「アーイイネー。久しぶりにー、飲み比べシヨ?」

だけどおれはこの瑠衣先輩の言葉を聞いてこの先の流れを悟ったのだ。危険だ。
秋も優もすでに分かっているらしい、目だけで会話をした彼らはキッチンに向かった。

「那加さんも少しはテーブルに着いてゆっくりしてください。俺たち洗い物できる分だけしちゃうので」

「んー、じゃーちょっと飲んでこよ」

ちょっとと言うがすでに那加さんワインをキッチンで2本空けている。那加さんが座ったので代わりに立とうとすると何故か引っ張られて氷怜先輩の膝の上。

「あ、あれ?せんぱ、おれも片付けに……」

「お前は、社会勉強」

何の?
そして、しまった逃げ遅れた。
良い笑顔の氷怜先輩、悪戯するような顔を久しぶりに見たからそりゃもう可愛いんだけどね!でも流石にこの状況おれでもわかる。

「よ、酔ってますね?酔ってますよね?」

「いや?」

「え、いやこれ絶対氷怜先輩酔ってますよね?」


みんなに聞いても答えは返ってこない。さあどうだろうとか、それは教えられないとか、顔の良い人たちが全員良い笑顔でこちらを見ていると流石に威圧感がすごい。ミカちゃんだけが神妙な顔で黙っている。助けを、と思うが彼は瑠衣先輩たちには決して口出ししない。



「さて、2人は親友を見逃すのかな?」


暮刃先輩のいい笑顔で秋と優が固まった。


「な、何が望みですか……」


警戒気味な2人の問い。あれ、これたこ焼きパーティだよね?そうだよね?物騒な会じゃないよね?


「俺たちがほんとに酔ってるか。全員当てたら開放してあげる」


綺麗で、品のある、誰でも騙せそうな、そんな表情で絶世の美男子が微笑んでいる。


「くっ……当ててやります!速攻で!」


だからおれたちは逃げなかったし、逃げられなかったし。当てられないし、途中から消費されていくお酒を震えながら見ていた。


「もう、良いです!皆酔ってますよ絶対!」

「ダメダメーそんな適当じゃー。唯ちん警戒心ゆるいからこれくらい見破っテー」


見破る対象が規格外すぎるんだ。テンションが高いから酔っているようにも見えるし、かと言って足元がふらつくわけでもない。そして顔色はいつも通りで、もちろん美形のまま。

もう諦めていたおれはせめてお酒と間違わないようにお茶の入ったコップを握りしめる。

多分彼らは一生普通のタコパが出来ないんじゃないだろうか。先輩の足の間で丸くなっていると、もはや眠くなってきた。瓶の山、グラスのタワー、追いやられるたこ焼き機。


「もうわかりませ~ん!うぅ」


夜も更けて、降参を申し出たら流石に苦笑しながら氷怜先輩が開放してくれた。


「はは、わかった。悪い、眠いよな」


くくと喉で笑う氷怜先輩に抱き抱えられるとようやくお開きとなり、あれだけの量を飲んでいた人たちが片付けをテキパキと速攻で終了させる。

勝ったと嬉しそうな神さんと才さんが同じポーズで腰に手を当てた。

「おチビには厳しかったか」

「おチビにはね」

「まあ、時間もいい頃合いですし」


お暇しましょう。赤羽さんの言葉でショボショボの目を擦りながら玄関まで見送ると元気に手を振ってみんなが外に出て行く。ありえない、どこにあんな体力があるのか。

最後にミカちゃんがドアに手をかけたまま、こっそりと話し出した。



「止められなくてすみません。あと、あの量では全員酔いません」



呆然と立ち尽くすおれたちに彼はペコリと頭を下げてドアを閉めた。

「ほら、いい子は寝るヨー」

何もなかったかのように瑠衣先輩が戻って行くと、氷怜先輩がおれの頭を撫でながら後を着いて行く。そして立ち尽くすおれたちを暮刃先輩がリビングに連れて行く。


「お風呂入ろっか」


いつのまにか用意されていたお風呂。片付いている部屋、眠くもなさそうな先輩たちが優雅に微笑んでいる。

ミカちゃんのいう通り、誰ひとり酔っていない。
完全におれたちは遊ばれたのだ。








「たこ焼きパーティってなんだっけ……」

「……今度、うちで3人でやろうな」





もはや泣きそうな2人の言葉におれも大きく頷いたのだった。



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