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その隣を歩くのは
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しおりを挟むピシッと手を挙げた唯斗にまた固まる4人。たしかに系統は似ているなとは思ったが、完璧なまでに可愛らしい女の子の姿や仕草が別人と決め付けさせたのだから、その変容は恐ろしいものである。
「え、え、ゆ、唯斗姫……?」
「ひめ……?あ、これ実はメイク教えてたらいつのまにかおれまで大変身コーナーが始まっちゃって、着せ替え終わった頃に氷怜先輩が迎えに来てくれたのでそのまま帰って来ちゃって……あはは」
そう真実を伝えられたところでやっぱり見た目が男には見えない。もともと可愛すぎる顔立ちだと言うのに頭から足先まで完璧にされては打つ手は無い。
「な、なんか声まで違ったような……」
「声?違いますかね、いつもと」
唯斗が見上げる先で氷怜は首を横に振った。
「ですよね?なんでだろ」
「まあ、自然と仕草が変わるからいつもより大人しめに見えるかもな」
「なるほど!それはあるかもですね」
納得したように微笑む唯斗の指が口元に当てられる。全く違うのだ。いつもの元気さがお淑やかさに全て変換されている。だがとにかく可愛い。もう一度言う、とにかく可愛い。
唯斗がまた気付いてしまったと慌て出した。
「と言うかいきなりごめんなさい、見つけて思わずこっちに来てしまった……」
「こいつらも嬉しいんじゃねえのか」
氷怜にそう言われて首が壊れるほど縦に振る4人。
「ほんとですか?……やった!」
唯斗が嬉しそうにニコッと笑っところでようやくいつもの姿が垣間見えた。この感じはいつもの唯斗だ。そう確信してようやく深く呼吸が吸えた。嘘も隠し事も必要が無くなれば残りは賞賛しかない。
「ほ、本当に女の子にしか見えません……!」
「すごいっす!!」
「しかも、可愛いってかレベルが違うっていうか!!なんかもう!!」
「マジでお似合いです!!」
勢いが凄すぎて唯斗が目をパチクリさせる。氷怜と見つめ合うと嬉しそうに笑った。
「すごい褒められてます!!氷怜先輩!!」
「よかったな……まあ、お前この格好じゃ無くても間違えられてるけど」
「それはもう椎名のせいですねぇ」
「し、椎名さん?とは……」
知らぬ名前に思わずワクが反応する。
「おれの母親です!今日の格好も見たいって言うから仕事帰りに合流することになってそろそろ……」
「唯斗姫お母様似だったんですね……それはもう可愛い人なんですね」
「うーん、息子が言うのもあれだけど自慢の母親です。あはは」
もはや姫呼びは唯斗の気に留まらないらしい。
母親を褒めるとようやく唯斗が男の子だとわかる顔つきになって、こう言うところも魅力の一つだなと4人はさらに唯斗への好感度を上げていく。
そしてこの後ちょうど合流した椎名の若さとあまりにもそっくりな可愛さに仰天するのだ。
「やっぱり氷怜くんのチームの人かっこいい~。でも氷怜くんが1番かっこいい!」
「そう!氷怜先輩はかっこいい!!でもさあ椎名ー?椎名のためにこの格好着替えずにいるおれには一言ないの~?」
「ママでしょ?もう!でも唯斗は世界一可愛いわよ~」
母親に可愛いと言われて喜ぶと息子も珍しいがその姿が本当に美少女なのだから余計に不思議な会話だ。母と子よりも姉妹にしか見えない。
氷怜はもう慣れているのか特に気にする様子もなく、楽しげに聞いている。
そして美少女が突然大人のように椎名を褒めるのだ。
「椎名も可愛いよ」
「ありがとう。でもそう言う事他の女の子にも言ってるんでしょ……ごめんね氷怜くん、この子のこう言うところ手を焼かせてない?悪気もないし本心だけどそれが厄介なのよね……本当変なところまであの人にそっくり……」
唯斗の微笑みは大人びて色気すら出るが椎名にもちろんそれは効かない。自分の彼氏の前でそんな発言をする唯斗にデコピンをしながら呆れたように氷怜に謝る。氷怜は微笑んで気にしていないとだけ伝えると呆然とする4人に声をかけた。
「悪かったな邪魔して」
「わ、そうだごめんなさい!クラブ以外で会えて嬉しかったです~」
「息子のこと宜しくおねがいします」
そっくりな可愛い顔で微笑んだ2人が手を振り、氷怜の腕を組んで歩いていく。その光景は両手に花。それが親子だとは誰も思わないだろう。
「なんか、すごいもん見た気分……」
「すごいしか言えない……」
このエピソードはのちに唯斗の伝説のように受け継がれ、椎名も伝説に加わっていくのだが。それを知るのはまだ先のことである。
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