ケビン・シェロー伯爵の気まぐれな恋

栗皮ゆくり

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恋が楽しければ苦労しない

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 ――ケビン・シェロー伯爵は、今日も不毛な恋愛に時間を捧げていた。


 「僕は、この通りを何回歩いただろう。人はこれを愛と呼ぶんだろうな」

 ひとり呟きながら、手首に着けたブレスレットの存在を確かめた。

 自慢じゃないが、恵まれた容姿と優雅な身のこなし以外、これと言って取り柄はない。

 しかし、自分でも驚くほど令嬢たちにもてはやされた。

 (ああ、伯爵位もあったな)

 「ハァー、だからって僕が幸せなわけじゃない」

 親友のルイからは、贅沢な悩みだといつも呆れられるが……。

 ◇

 「本当にケビンが羨ましいよ。僕もそんな容姿に生まれたい!」

 突然、ルイが大きな声で叫んだ。

 僕の親友ルイ・ワイス男爵は、最近熱を上げていたレナ・ジュラン令嬢に振られたらしい。

(あの騒がしい令嬢のどこに惹かれたのやら……)

 「ハァー……ルイが考えるほど、幸せでもないぞ」

 「恵まれすぎて分からないだけだ! そんな風に思うのは、平民の女と恋愛してるからだろ」

 書類を読む手を止め、ジッとルイを見つめた。

 「ご、ごめん……」

 「だいたい恋愛に貴族も平民もないだろ」

 「だ、だけど結婚はどうするつもり? いつまでも独身ってわけには……」

 「僕だってそれぐらい分かってるさ!」

 (愛する人が貴族だったらって、何度思ったか……)

 「そ、そうだよな、一番辛いのはケビンだよな。悪かったよ」

 ルイはいつも空気を読む性格だ。

 最後まで人を追い詰めない、だから友情が続いているのかもしれない。

 ルイのことを他人に流されやすいと揶揄する人もいるが、僕は心根の優しい男だと思っている。

 それにそういう性格のほうが一緒に居てホッとする……。

 「そうだ! シュマン通りに新しいカフェができたらいいよ」

 少し重くなった空気を変えるように、ルイが明るい口調で言った。

 「へぇー、今度エマを連れて行ってあげようかな……」

 最近、伯爵としての仕事が忙しく、エマと一週間ほど会えていない。

 文句ひとつ言わないエマを喜ばせようと思った。
 
 ◇

 エマは腕の良いジュエリー職人だが、優しい性格のせいで商人に買い叩かれ、いつまでも貧しかった。

 出会いは、注文に訪れたことがきっかけだ。

 (まったく面倒な令嬢だ。店で買えないジュエリーを贈れだと? 何が誠意だよ)

 当時付き合っていた公爵令嬢に娼館へ行ったことがバレて、罪滅ぼしにせがまれたのだ。

 彼女の父が公爵でなければ、ここまで言いなりにはならないのだが……仕方がない。

 腕利きと噂を聞いて、エマの元を訪れたのだった。

 (なんて真剣な眼差しなんだ)

 静かに耳を傾け、僕の言葉に頷きながら、一生懸命デザインを考えてくれている。

 今回は運が悪かったと嘆いていたのに、全てはエマに出会うためだったのかと思えるほど、エマに心を掴まれた。

 ほどなくして恋愛関係になり、幸せな日々が続いた。

 しかし、お互いの恋心が純粋であればあるほど、閉塞感を感じるようになっていった。
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