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恋の魔法が解けたら
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「もうこんな時間か……。ここからシュマン通りはすぐだな」
ルイから聞いたカフェの下見にでも行こうと、通りを歩き出した。
(ん? あれは……確かミケット・ラキーユ伯爵令嬢?)
強風に煽られたのか、立ち止まって耐えている姿が目に入った。
夜会で何度か見掛けたが、話したことは無い。
「やぁ、どうしたの? こんな賑やかな通りで、キレイな人が泣いているのは見過ごせないな」
ほんの出来心で声を掛けた。
エマを愛しながらも、正妻にできない苛立ちや葛藤を紛らわせたかったのかもしれない。
(他の令嬢だったら声は掛けなかったかもな……)
いつも一緒にいるレナ嬢とは違って、ミケット嬢は他の貴族令嬢とどこか異なる雰囲気を醸し出していた。
物静かで知的、いつも背筋を伸ばして凛としている姿は近寄りがたいと感じていた。
(どうしてレナ嬢と仲がいいのか分からないな……)
しかし、この出会いがきっかけでミケット嬢と付き合うことになった。
しばらく経ったある日、ミケットに聞いたことがある。
「どうして僕と付き合おうって思ったの?」
「……ケビン、何故そんな事を聞くの?」
「僕の社交界での振る舞いを知ってるだろ」
「ええ、社交界でも指折りの浮気者でしょ。アハハハ、それが恋に落ちない理由になるの?」
「ルイの言葉を借りると、普通の、しかも君みたいな真面目なタイプからは敬遠されるらしい……」
「普通ねぇ……そんな何でも論理的に答えが出せたら、誰も苦労しないんじゃない?」
僕が一番愛している人はエマだ。
だけど、二番目……いや、正妻にするならミケットが一番だと思った。
どんな時もミケットは、僕を遠ざけるわけでも問い詰めるわけでもない。
他の人とは違う……そう、僕を肯定してくれている感じが心地良かった。
◇
そうして、エマとミケットの愛情を往復する日々を送っていたが、ある日、突然それは終わりを告げた。
エマとお揃いのブレスレットをミケットが見咎めたのだ。
「そのブレスレットが欲しいの!」
いつもと違うミケットの昂りに動揺し、傷付けるように言い放ってしまった。
「ダメだ」
僕は、ミケットに落胆してしまったのだろうか……いつも令嬢たちを切捨てる時のように無言でその場を後にした。
◇
「それは……完全にケビンが悪いと思うよ。ミケット嬢は今までよく我慢したよ」
経緯を聞いたルイが呆れたように言う。
「いや、だけど……」
「いいや、ケビンが悪い。女性の勘を甘く見ない方がいい……ミケット嬢は今まで気付かないように、心に蓋をしていたんだよ。きっと」
「そんなの今さら咎められたって……僕の振る舞いを知ってて、付き合い始めたって言うのにさ」
「あのねぇ……もう、いいや、ミケット嬢は恋の魔法が解けたんだよ。でも、いいの?」
「恋の魔法って……それより、何の事だ?」
「この間、紳士クラブで耳にした話だけど、ラキーユ伯爵が娘のミケット嬢の縁談相手を探し始めたらしい」
ルイから聞いたカフェの下見にでも行こうと、通りを歩き出した。
(ん? あれは……確かミケット・ラキーユ伯爵令嬢?)
強風に煽られたのか、立ち止まって耐えている姿が目に入った。
夜会で何度か見掛けたが、話したことは無い。
「やぁ、どうしたの? こんな賑やかな通りで、キレイな人が泣いているのは見過ごせないな」
ほんの出来心で声を掛けた。
エマを愛しながらも、正妻にできない苛立ちや葛藤を紛らわせたかったのかもしれない。
(他の令嬢だったら声は掛けなかったかもな……)
いつも一緒にいるレナ嬢とは違って、ミケット嬢は他の貴族令嬢とどこか異なる雰囲気を醸し出していた。
物静かで知的、いつも背筋を伸ばして凛としている姿は近寄りがたいと感じていた。
(どうしてレナ嬢と仲がいいのか分からないな……)
しかし、この出会いがきっかけでミケット嬢と付き合うことになった。
しばらく経ったある日、ミケットに聞いたことがある。
「どうして僕と付き合おうって思ったの?」
「……ケビン、何故そんな事を聞くの?」
「僕の社交界での振る舞いを知ってるだろ」
「ええ、社交界でも指折りの浮気者でしょ。アハハハ、それが恋に落ちない理由になるの?」
「ルイの言葉を借りると、普通の、しかも君みたいな真面目なタイプからは敬遠されるらしい……」
「普通ねぇ……そんな何でも論理的に答えが出せたら、誰も苦労しないんじゃない?」
僕が一番愛している人はエマだ。
だけど、二番目……いや、正妻にするならミケットが一番だと思った。
どんな時もミケットは、僕を遠ざけるわけでも問い詰めるわけでもない。
他の人とは違う……そう、僕を肯定してくれている感じが心地良かった。
◇
そうして、エマとミケットの愛情を往復する日々を送っていたが、ある日、突然それは終わりを告げた。
エマとお揃いのブレスレットをミケットが見咎めたのだ。
「そのブレスレットが欲しいの!」
いつもと違うミケットの昂りに動揺し、傷付けるように言い放ってしまった。
「ダメだ」
僕は、ミケットに落胆してしまったのだろうか……いつも令嬢たちを切捨てる時のように無言でその場を後にした。
◇
「それは……完全にケビンが悪いと思うよ。ミケット嬢は今までよく我慢したよ」
経緯を聞いたルイが呆れたように言う。
「いや、だけど……」
「いいや、ケビンが悪い。女性の勘を甘く見ない方がいい……ミケット嬢は今まで気付かないように、心に蓋をしていたんだよ。きっと」
「そんなの今さら咎められたって……僕の振る舞いを知ってて、付き合い始めたって言うのにさ」
「あのねぇ……もう、いいや、ミケット嬢は恋の魔法が解けたんだよ。でも、いいの?」
「恋の魔法って……それより、何の事だ?」
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