ケビン・シェロー伯爵の気まぐれな恋

栗皮ゆくり

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心変わりしたとしても

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 ルイから聞かされたミケットの縁談話が、頭から離れなかった。



 ルイには話さ無かったが、無言で立ち去った日以降も途絶えた関係を修復するため、再び僕はミケットに愛を囁いていた。

 「この間は、ごめんなさい」

 ミケットはそう言ってくれたが、次第に連絡が取れなくなり、自然と関係が解消された。



 その後、何度か夜会で顔を合わせたが、軽い挨拶を交わすだけだ。

 でも、僕は見逃さなかった。

 会う度に、ミケットの瞳に魔法……いや、恋の炎が灯るのを。

 ◇

 「百戦錬磨のケビンがそう感じたなら、まだ脈があるかもしれないよ!」

 ルイに背中を押され、ラキーユ伯爵家に縁談の申し込みをした。

 良い印象を持ってもらうため、とびっきりの笑顔の肖像画を送った。

 「ラキーユ伯爵家からまだ返事は来ないのか?」

 日が経つ毎に、苛立ちながら使用人に尋ねたが、答えは決まって同じだった。

 「ケビン様、返事は来ておりませんが……」

 そうしてただ時間だけが過ぎて行った。

 「ケビン! 大変だ! ミケット嬢がレイモン・タイヨ侯爵と婚約したらしいよ!」

 「えっ?」

 何か信じていたものが、ガラガラと崩れる音がした……。

 ◇

 今日も、通りを歩いてエマの元へ急ぐ。

 仕事が忙しいわけではないが、最近は足が遠のいている。

 「ケビン様……私は多くは望みません。お側に置いて頂ければ、それだけで幸せですわ」

 (初めからエマを妾に、正妻を貴族にと考えてはいたが……何だろう? このモヤモヤした感情は……)

 言葉通りエマは多くを望まず、妾という日陰の場所を望んでいるだけだ。

 僕もそう望んでいたはずなのに……なぜかパズルのピースが合うのを拒んでいる気持ちだ。

 その時だった。

 「ミケットの婚約者……タイヨ侯爵の馬車か?」

 侯爵家の爵位に相応しい、豪華で立派な馬車だ。

 タイヨ侯爵は、令嬢からの人気は高いとは言えないが、有能で元老院からも一目置かれている。

 「確か、皇室騎士団の団長の座が決まっていると聞いたな」

 馬車がゆっくりとすれ違う。

 咄嗟に馬車の窓を見たが、ミケットの姿は見えない。

 だけど、笑顔に溢れたタイヨ侯爵の横顔は、ハッキリと見えた。

 「楽しそうだな……ミケットと一緒なのか?」

 たぶんそうだろう。

 馬車の向かう先は、結婚を夢見る令嬢たちが憧れる大聖堂だ。

 「ミケット……」

 僕は大切な愛を間違えたのだろうか。

 アハハハハ!

 通りの人が驚いて、僕を避けている。
 
(違う……ただ心変わりしただけ……だたそれだけさ)

 fin
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