蜃気楼に向かう群れの中で

常二常二

文字の大きさ
1 / 6
十五年前

緊急招集

しおりを挟む
 いきなりの召集命令に対して、将校とはいえ、制服に着られているような学校を出たばかりの青年に、緊張するなというのは無理な話である。カルロス・エンリケウス少尉も例外ではなかった。
  長机をコの字に並べた会議室内において、各機関から派遣されただろう一部を除き、将校らの間には階級からくるような溝は感じられず、むしろ結束が感じられる。
  そういった空気であったから、末席に座ってるにも関わらず、カルロス少尉の緊張は顕わとなった。
  緊急対策司令部長ホセ・グフマン大佐は、体を強張らせ、口を一文に結ぶカルロス少尉を。
「まるで悪戯がばれて、折檻されるのを待つ子供のようだ」
 とからかったが、カルロス少尉はその裏に隠された優しさに気付かず固く返事をして、会議室内にいた上長官らの失笑を誘った。
 これほどの階級差を無視して、直に話しかけられることはあまりないことであったから、カルロス少尉の反応は致し方ないことであった。
「じゃあ始めようか。お願いするよ。カベーロ少佐」
 グフマン大佐の一言を待っていたかのように、グフマン大佐の左に座っていた曹長から少佐までの階級章をつけた男が力強く立ち上がった。
「レジスタンスは長らく我々教団を愚弄し。彼らによって惜しくらむも多く偉大な魔術師がその歯牙にかかり命を落とし散っていった。そしてその状況を打破すべく、教皇陛下から拝命を預かり、ホセ・グフマン大佐以下二十名でこの特別司令部を設立し、策を講じてきた。我々を闇討ちせんと姑息な手を使うレジスタンスに騙され加担する者や、情を移す者が後を絶たず、捜査は難航し、幾度となく辛酸をなめさせられた」
  カルロス少尉もその苦節の日々を共有してきた気になるほど。カベーロ少佐は力を入れて演説をする。
 またカベーロ少佐の視線はよく動いた。節を移るたび、関係を確かめ、また説得するような目を会議室内の一人一人と交えた。
「しかしこの度その小汚い狐どもを聖都からの放逐、またその根城の捕捉に成功した。場所は、ガリエラ家領西部カザ山山腹。木こりギルド本拠地。予想数は五百。敵の大半は脱走奴隷であることが予測され、練度は極めて低いものと思われる。そこで企画庁長官ブロワ准将からのご提案を頂戴し、まず山麗に連隊が展開。レジスタンスらどもがこちらを警戒している隙をつき、山頂にて別動隊である中隊が布陣する。そして前もって放っておいた間者によって組織を瓦解させ、混乱に乗じて乗り込む運びとなった。まるで己らが正しいかのように騙るならず者どもを下し、教徒のかくあるべき姿を市民に示そうではないか」
 カベーロ少佐が満足そうに会議室内を見渡す。グフマン大佐へ補足やら質問やらの確認をする目配せをして、グフマン大佐が目で答えたことを確認した後、ゆっくりと座った。 
 会議室は押し黙った。グフマン大佐の一挙手一投足から目を離さずに皆次の言葉を待っている。
 グフマン大佐は、カルロス少尉に目を向け、多少表情をやわらげた。
「カルロス・エンリケウス少尉はあのあたりの土地には詳しいと聞く」
 カルロス少尉は、椅子を倒さんばかりに勢いよく立ち上がる
「いえ、自分は子供の頃にガリエラ家に遊びに行っただけでありまして。ましてや山中となれば、無知と言って過言ではありません」
 けして謙遜ではなかった。母の実家であるガリエラ家には、士官学校に入る、おおよそ八年前十二の時に訪れたばかりで、しかも主だった城下町以外は遊覧として回った程度の記憶しか、カルロス少尉は持ち得ていなかった。
「久しぶりに母方の実家に顔を出したいとは思わんかね」
「はっ。機会があればぜひ参上したく思います」
 そう答えて、カルロス少尉は自分が間違った回答をしたことに気が付いた。緊張のため、脊髄反射で答えてしまったのだ。
  すぐに取り繕うように。
「ですが、自分程度の者が役に立てるかどうか」
 と付け加えた。
「カザ山は、連山に属する山だ」
 グフマン大佐の回答は見当はずれであるように思われた。その場にいるほとんどの者がその真意をわからずにいた。
  グフマン大佐は席から離れ、壁に貼ってある地形図の前に立った。
「相手もバカではない。その上相手に高地を取られてるともなれば、付け焼刃で勾配の緩やかな場所から部隊を迂回させても相手に読まれるだけだ。だからと言って崖を大勢で登るなんてそれこそ愚策である。ならば残された方法は連山の逆側から進軍させることだ」
 グフマン大佐は、予測したであろう進行ルートを地形図に書き込み、それぞれの上に×印を重ねていく。そして地形図外から引っ張ってきた線に丸を付け、再度カルロス少尉に向き合った。
「連なる山々の尾根を渡り、渓谷を超えるためには、普段から山働きをし、土地勘のある現地民らの協力が不可欠である。しかし、ガリエラ家に出兵を要請したところ、拒否をしてきた。十中八九加担しているだろう。ガリエラ家が出兵を拒否してきた以上、現地民らの力を借りるためにガリエラ家の血脈を継ぎ、そしてガリエラ家よりも家格の高い君ではなくてはならないのだ」
 グフマン大佐の目は、ただイエスの返事だけを求めていた。それが分かってカルロス少尉は言葉を詰まらせた。
  しばらくの沈黙の後にグフマン大佐の。
「答えを聞きたいのだが」
 という押しの一言に、カルロス少尉は折れ。
「その任、喜んでお受けいたします」
 と苦虫を噛み潰したような顔で、小さく返事をした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

側妃に追放された王太子

基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」 正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。 そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。 王の代理が側妃など異例の出来事だ。 「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」 王太子は息を吐いた。 「それが国のためなら」 貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。 無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

処理中です...