2 / 6
十五年前
手柄の行方
しおりを挟む
カルロス少尉の退出後、会議室は静まり返った。普段であれば、まずグフマン大佐が決起、激励、労い等の言葉を簡単に述べ、退室し、階級ごとに各々解散するのが常であった。
が、グフマン大佐は拳を作った右手を、左の掌で包み、顔の高さになるよう肘ごと机の上に置いたまま目を閉じ微動だにしなかった。
グフマン大佐はカルロス少尉という外部者を前に、一切表面にしなかった司令部構成員の動揺を理解していた。が説明も弁明もするつもりもないらしい。
会議室は、瞑想をする最高司令官と、それを視線のみで問い詰める部下によってただ静寂だった。
しばらくの無言の腕押しにしびれを切らしたカベーロ少佐が席を立ち、コの字に並んだ机の内側へ回り込んだ。
グフマン大佐の席の前まで歩を進め、最後の一歩で、
「失礼します」
と直立の敬礼し立ち止まった。
あえて机を隔てることで、司令部の総意を代弁するカベーロ少佐と独断専行するグフマン大佐という対立構造を視覚化した。
「グフマン大佐、発言よろしいでしょうか」
グフマン大佐は、5秒ほどもったいぶって
「許す」
と右手を外側に振って、短くはっきりカベーロ少佐の瞳を見ながら応答した。
「ありがとうございます」
カベーロ少佐は顔をあげ、両手を背に回し、肩幅ほどに足を広げた。
「エンリケウス家およびガリエラ家対する出兵要求についてですが、グフマン大佐はどのようにお考えでしょうか」
「会議中の発言のままだが」
「それではまるで…」
カベーロ少佐は言い淀む。
消えた語句も、カベーロ少佐の気持ちも理解しながらグフマン大佐は、継ぐことはしなかった。
「本日はエンリケウス家五男の招集を行うとはお伺いしておりましたが、作戦の要に添えるなど一度もおっしゃられていなかったではありませんか」
第三者の招集自体は珍しいことでもなかった。
近年、主に土地を持たない官庁役職持ち貴族で構成される中央集権派と、地方領主によって組織される地方分権派の政争が、教皇の高齢になるにつれて激化していた。
今回の成功は政治利用できる。
特に中立派の継承権下位に位置する者は、与させやすい。特にエンリケウス家は兵器研究に一家言を持つ家柄であり、カルロス少尉個人についても、昨年度の学年主席だ。まず圧をかけることに適している人間であると言えるだろう。しかし…。
いくつか展開する論理の破綻したカベーロ少佐の陳情にグフマン大佐の表情変わらない。
その手ごたえの無さにカベーロ少佐の感情はさらに前のめる。が、やはり会議室の誰も止めはしなかった。
「犠牲になった者に申し訳が立ちません」
感情を昂らせながらもその一言がグフマン大佐の瞳の奥が揺らぐのをカベーロ少佐は見逃さなかった。
「我々は、始まりはただ教皇の勅命により集められた、急繕いの寄せ集めに過ぎませんでした。しかし同じ目標を共にし頭を抱えることで仲間になり、いくつもの修羅場を抜けて同士となった」
カベーロ少佐は気が付けば、瞳に涙を、胸に拳を掲げていた。もはや、グフマン大佐のみへ向けた演説でなかった。
「目標。夢。夢が我々の中にあります。我々とは今ここにいる者だけを指す言葉ではありません。結束時から協力を惜しまず夢を託してくれた同士への手向けとして、せめてこの『緊急対策司令部』に一番の功を与えるべきではありませんか!」
畳みかけるカベーロ少佐の口上にグフマン大佐を除いた会議室の誰もが熱い支持を送った。それは視線であったり、小さな感嘆の声であたり、力強いうなずきであったり様々だ。
「手柄か」
グフマン大佐は小さくつぶやいた。
グフマン大佐は、席から立つとその他一切に一瞥もせず。グフマン大佐の後に備え付けられている南向きの窓に向かった。
「成功が約束された今、我々はただ料理人であるのみだ」
真上に上がった日のまぶしさに目を細めながら、ブロワ准将との会食を思い出していた。
が、グフマン大佐は拳を作った右手を、左の掌で包み、顔の高さになるよう肘ごと机の上に置いたまま目を閉じ微動だにしなかった。
グフマン大佐はカルロス少尉という外部者を前に、一切表面にしなかった司令部構成員の動揺を理解していた。が説明も弁明もするつもりもないらしい。
会議室は、瞑想をする最高司令官と、それを視線のみで問い詰める部下によってただ静寂だった。
しばらくの無言の腕押しにしびれを切らしたカベーロ少佐が席を立ち、コの字に並んだ机の内側へ回り込んだ。
グフマン大佐の席の前まで歩を進め、最後の一歩で、
「失礼します」
と直立の敬礼し立ち止まった。
あえて机を隔てることで、司令部の総意を代弁するカベーロ少佐と独断専行するグフマン大佐という対立構造を視覚化した。
「グフマン大佐、発言よろしいでしょうか」
グフマン大佐は、5秒ほどもったいぶって
「許す」
と右手を外側に振って、短くはっきりカベーロ少佐の瞳を見ながら応答した。
「ありがとうございます」
カベーロ少佐は顔をあげ、両手を背に回し、肩幅ほどに足を広げた。
「エンリケウス家およびガリエラ家対する出兵要求についてですが、グフマン大佐はどのようにお考えでしょうか」
「会議中の発言のままだが」
「それではまるで…」
カベーロ少佐は言い淀む。
消えた語句も、カベーロ少佐の気持ちも理解しながらグフマン大佐は、継ぐことはしなかった。
「本日はエンリケウス家五男の招集を行うとはお伺いしておりましたが、作戦の要に添えるなど一度もおっしゃられていなかったではありませんか」
第三者の招集自体は珍しいことでもなかった。
近年、主に土地を持たない官庁役職持ち貴族で構成される中央集権派と、地方領主によって組織される地方分権派の政争が、教皇の高齢になるにつれて激化していた。
今回の成功は政治利用できる。
特に中立派の継承権下位に位置する者は、与させやすい。特にエンリケウス家は兵器研究に一家言を持つ家柄であり、カルロス少尉個人についても、昨年度の学年主席だ。まず圧をかけることに適している人間であると言えるだろう。しかし…。
いくつか展開する論理の破綻したカベーロ少佐の陳情にグフマン大佐の表情変わらない。
その手ごたえの無さにカベーロ少佐の感情はさらに前のめる。が、やはり会議室の誰も止めはしなかった。
「犠牲になった者に申し訳が立ちません」
感情を昂らせながらもその一言がグフマン大佐の瞳の奥が揺らぐのをカベーロ少佐は見逃さなかった。
「我々は、始まりはただ教皇の勅命により集められた、急繕いの寄せ集めに過ぎませんでした。しかし同じ目標を共にし頭を抱えることで仲間になり、いくつもの修羅場を抜けて同士となった」
カベーロ少佐は気が付けば、瞳に涙を、胸に拳を掲げていた。もはや、グフマン大佐のみへ向けた演説でなかった。
「目標。夢。夢が我々の中にあります。我々とは今ここにいる者だけを指す言葉ではありません。結束時から協力を惜しまず夢を託してくれた同士への手向けとして、せめてこの『緊急対策司令部』に一番の功を与えるべきではありませんか!」
畳みかけるカベーロ少佐の口上にグフマン大佐を除いた会議室の誰もが熱い支持を送った。それは視線であったり、小さな感嘆の声であたり、力強いうなずきであったり様々だ。
「手柄か」
グフマン大佐は小さくつぶやいた。
グフマン大佐は、席から立つとその他一切に一瞥もせず。グフマン大佐の後に備え付けられている南向きの窓に向かった。
「成功が約束された今、我々はただ料理人であるのみだ」
真上に上がった日のまぶしさに目を細めながら、ブロワ准将との会食を思い出していた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
側妃に追放された王太子
基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」
正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。
そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。
王の代理が側妃など異例の出来事だ。
「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」
王太子は息を吐いた。
「それが国のためなら」
貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。
無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる