蜃気楼に向かう群れの中で

常二常二

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十五年前

会食

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 グフマン大佐にブロア准将から使者を通して会食の打診があったのは、先のカルロス少尉を招集した会議の一ヵ月前だった。
 元々は、グフマンが提出したいくつか各省庁をまたいだ資料への閲覧請求、あるいは開示請求についての処理状況についてお伺いを立てたことへの返答だった。
 役所仕事の返答が遅いことはグフマンにも分かっていた。それも込みで報連相をもらうために細かく問い合わせを入れていたことが功を奏す。
 大規模な小競り合いからレジスタンスが消息を断って早三ヶ月経ち、調査に滞りを感じていたグフマンにとって、軍事予算決裁の一翼を担う企画庁長官へプレゼンの機会を得た事はまさに僥倖だ。
 グフマンはこれに対して。
「スケジュールを調整して返答させていただきます」
 と勿体ぶらせて、使者が兵舎から去るのを見届けるなり、秘書官に筆をとらせる。快諾の文を書簡にしたためた秘書官に明日の夕方頃にブロア准将へ直接渡すよう釘を刺して、深く椅子に身を沈めた。どのような話は運びをすればより効果的にプレゼンできるかシミュレーションをするために目を強く閉じた。
 会食がなったのは、その週末のこと。場は発案者であるブロア家の邸宅だった。
 ブロア家邸宅は、一般に貴族街と呼ばれる貴族の屋敷が並ぶ一画に存する。その中でも一際立派な家屋だ。ブロア家の力の大きさを際立たせていた。
 地方にあれば城と呼ばれても遜色のない建屋を前にグフマンは文字通り襟を正してから、戸を叩いた。
 当たり前ではあるが、顔を出したのが使用人でグフマンは安堵した。それほどまでに緊張していることを、挨拶をするために開いた拳に汗がついていることを知覚するのととも自覚した。
 敏腕で知られる私がこのざまか。
 そう、心の中で嘲笑した。
 グフマンが使用人に先導された、准将の待つ食堂までの長い廊下には美術品が並ぶ。その各々が蒐集家にとって垂涎ものであることは芸術に疎いグフマンにもわかる。そのせいか、少しでも興味を惹かれようものなら使用人がその解説を始めようとするため都度辞退した。
 品々の展覧が途切れた先、廊下の突き当りの部屋の前で使用人が立ち止まり、グフマンもそれに倣う。
「主人はこちらです」
 と食堂の扉をノックし、客人の到着を告げた。
「お待ちしておりましたグフマン殿!どうぞ中へ!」
 扉を開けたのは、他ではない准将だった。
「この度は御誘いいただきましてありがとうございます。以前お会いした時は教皇様の生誕祭の席でしたかな。その後も変わらずご息災なようで何よりです」
 グフマンは差し出された准将の手を取り、厚い握手を交わした。
「本日は、公務ではありませんので、無礼講でかまいません」
 30そこそこで准将に置かれ、もう幾年年を重ねると還暦と呼ばれる年になるグフマンから見てまだ若造と言っても過言ではない。准将と大佐。ただ一つ階級が違うとは言えぬほど、ブロア家とグフマン家には明確な家格な差がある。
「お伝えしておりませんでしたが、本日はもう一人お誘いしております」
 握手の手をほどき、准将が掌で誘導した相手を見て、グフマンは目を見開いた。
 グフマンより頭一つ高い偉丈夫で、長細い三白眼。頭髪は短く黒い。だが、どんな身体的特徴よりもグフマンの目を奪ったのは、こめかみから口元に大きな百足が這っているような縫合痕だった。もちろん、これだけ強烈な印象持つ人物を知らないわけがない。
「ショー・アンドウ。商人ギルドの会長です」
 准将の紹介に併せた、アンドウのお辞儀は礼儀正しく、綺麗に整ってはいたが、その顔に笑みはない。
  問題はなぜ貴族の会合に庶民がいるのか。
 グフマンから抗議の視線を受けて。
「公務ではありませんので」
 と、念を押すように再度笑いかけた。
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