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十五年前
地の利 人の和
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腑に落ちないグフマン大佐を他所に、ブロア准将に促されるまま、各々用意されていた席について会食は始まった。
「グフマン殿は美術品に興味はございますか?」
「恥ずかしながら何分戦働きばかりでからっきしでございまして。ただ機会があればとは常々思っております」
「それはいい!」
飾られてる芸術品の数に劣らず、ブロア准将の美術品を語る口は止まらない。室内に留まらず、廊下に並ぶ先ほどグフマン大佐が説明を断った品までもその愛情の対象だった。
その話の中でグフマン大佐は、ブロア准将とアンドウの関係について当たりをつけた。
どうやらアンドウは、ブロア家御用の美術商としてその懐にもぐりこんだようだ。
ブロア准将が美術品の持ついわくを語る合間合間に、アンドウへの称賛が交じる。
自分の話題になり、あまつさえ賛美の言葉を向けられようとも謙遜も愛想笑いすら浮かべずに短く返事をするだけのアンドウを、グフマン大佐の持つ商人のイメージとはかけ離れ過ぎていて気味悪く思う。
「そうだ!この間面白いものを入手いたしまして。大佐にもぜひご覧いただきたい」
グフマン大佐の前に出されたのは一挺の銃だった。
弾は込めてませんので自由にご観察ください、という執事の言葉に従い、銃口を見て驚く。ライフリング構造がない。
いわゆる滑口式と呼ばれる銃器の製造は五十年ほど前に終わったはずだ。こんな骨董品を…。いや、武具も収集対象とする物好きもいる。
「マスケット銃とは驚きました。私も軍部が長いですが何度か勤め初めに反乱軍が携えていたものを見たきりでございます。武具収集もされているのですかな?」
グフマン大佐からの質問に、ブロア准将は灰色の返事をした。本題は違うらしい。
「この銃が五百挺あったとしてどのような用兵をされますか」
いかにも素人、それも上澄みだけ見て知った気になっている似非専門家らしい質問だとグフマン大佐は思った。地図や時刻、天候等の周辺環境。自軍敵軍双方の士気、練度、規模、装備。攻守の是非。戦端を開く目的。そういった前提条件の提示がなければ明確な答えは出来ない。
それにしてもブロア准将が相手を試すような質問をするという話をついぞ聞いたことがない。買われたのか疑われているのか。珍しい武具が手に入った興奮か。いずれかにせよ適当な返答は出来ない。
「先ほど申し上げたように、何分運用された場面を見たことが有りませんので、外聞や持ちうる知識によってのみの想定となりますが。この銃を有効化するためにまず、地形を選ぶことが肝要です。このマスケット銃は弾の軌道を制御出来ません。よって命中精度が著しく悪く、点ではなく面での攻撃、つまり戦列を敷けるだけの開けた戦場が必要です。森林や山地は論外。市街戦については攻め手であれば言うまでも有りませんが、防御側であれば、広場等を殺し間のように活用出来れば効果的であるかもしれません。いずれにせよ一斉射撃を可能にする高い練度と統制を必要とします」
「つまり並大抵には脅威にはなりえないという認識で差し支えないでしょうか?」
「ええ」
グフマン大佐の力強い肯定を聞いて、ブロア准将は満足そうに笑った。
「続いてこちらもご覧いただきたい」
差し出されたのは一枚の地図。グフマン大佐は極度に緊張した。
地図は製作の意図や場所によって管轄が異なるが、いずれにせよ機密図書に該当する。
「こちらはガリエラ領にあるきこりギルドの本拠地です」
二つの山の山あいからほぼ等間隔に等高線が扇状に広がる。いわゆる扇状地と言われる地形だ。扇頂分にはおそらくギルド本拠地及びギルド長の居宅等建物。扇央部にはいくつかの道路によって畑や果樹が区画され、扇端に小作人の集落。横に伸びる河川と集落の間には水田が広がっている。
五百という数字。部外秘の地図の提示。そしてグフマン自身の存在。
グフマンは確定ではない嫌な憶測を抱いて何とかブロア准将に向く。
「十中八九レジスタンスはそこにいます」
密会というていにしているのは、情報の提供はなく取引ということだ。
情報において遅れを取った事実はひどくグフマンを失望させた。感覚が乖離していく。机に肘をついて頭を抱えたくなった。
「アンドウ氏から、きこりギルド近域で相場のインフレがあると投資を持ちかけられた時にもしやと思いまして、内偵をお願いしていたんです。そうしましたらやはりというか何というか。耳は広くしとくものですね」
失意から立ち直った次はブロア准将や機関についての怒りが芽生えた。
要請に対応する機構ではなく、ブロア准将という頭を持った手駒に他ならない。これは裏切りだ。初めから我々の手札の見えているポーカーなど勝ちようがない。もし遅滞戦術なぞを使われたとしても何も分からないまま負ける。いや負けたことにすら気が付けない。
「しかし、地形を見てこれはもしかしたらゲリラ戦術が厄介ではないかと思いましたが、丁度いいところにアンドウ氏がマスケット銃を用意できると言うじゃないですか。これは渡りに船と思いまして。しかも凄いんですよ調達方法が!ね。ショーさん」
「凄いも何も、お取り潰しになった貴族の館から倉庫の整理をお願いされた時いくらかの美術品と共に買い取って欲しいと言われたのですが、こんな骨董品処分の方が金かかると処分費を請求しただけです」
「それを売りつけて双方から金を取るなんて、商売上手ですよねぇ。おかげで私は散兵の心配をしなくてすみますが」
いや、怒る道理はないか。企画庁長という立場を私益に使えるよう組織を作り、自身の懐を痛まない方法で権益に一枚かめるように持ち込む。
影響力の増し方、行使の仕方は、流石老舗名門の老獪さとでも言うべきか。
確かに同僚部下は血を流した。しかし私はどうだ。血を流したか。家名を汚したか。いや損はしていない。『経験』という利益に甘んじよう。
「さて話が脱線しましたが、脱走兵であるため人の和は無論。武器によって地の利は作りました。攻撃する立場である我々は天の時も手中にあります。どうでしょう。私の提案聞いてくれますか?」
グフマン大佐はどのような取引を求められるのか身構えた
「グフマン殿は美術品に興味はございますか?」
「恥ずかしながら何分戦働きばかりでからっきしでございまして。ただ機会があればとは常々思っております」
「それはいい!」
飾られてる芸術品の数に劣らず、ブロア准将の美術品を語る口は止まらない。室内に留まらず、廊下に並ぶ先ほどグフマン大佐が説明を断った品までもその愛情の対象だった。
その話の中でグフマン大佐は、ブロア准将とアンドウの関係について当たりをつけた。
どうやらアンドウは、ブロア家御用の美術商としてその懐にもぐりこんだようだ。
ブロア准将が美術品の持ついわくを語る合間合間に、アンドウへの称賛が交じる。
自分の話題になり、あまつさえ賛美の言葉を向けられようとも謙遜も愛想笑いすら浮かべずに短く返事をするだけのアンドウを、グフマン大佐の持つ商人のイメージとはかけ離れ過ぎていて気味悪く思う。
「そうだ!この間面白いものを入手いたしまして。大佐にもぜひご覧いただきたい」
グフマン大佐の前に出されたのは一挺の銃だった。
弾は込めてませんので自由にご観察ください、という執事の言葉に従い、銃口を見て驚く。ライフリング構造がない。
いわゆる滑口式と呼ばれる銃器の製造は五十年ほど前に終わったはずだ。こんな骨董品を…。いや、武具も収集対象とする物好きもいる。
「マスケット銃とは驚きました。私も軍部が長いですが何度か勤め初めに反乱軍が携えていたものを見たきりでございます。武具収集もされているのですかな?」
グフマン大佐からの質問に、ブロア准将は灰色の返事をした。本題は違うらしい。
「この銃が五百挺あったとしてどのような用兵をされますか」
いかにも素人、それも上澄みだけ見て知った気になっている似非専門家らしい質問だとグフマン大佐は思った。地図や時刻、天候等の周辺環境。自軍敵軍双方の士気、練度、規模、装備。攻守の是非。戦端を開く目的。そういった前提条件の提示がなければ明確な答えは出来ない。
それにしてもブロア准将が相手を試すような質問をするという話をついぞ聞いたことがない。買われたのか疑われているのか。珍しい武具が手に入った興奮か。いずれかにせよ適当な返答は出来ない。
「先ほど申し上げたように、何分運用された場面を見たことが有りませんので、外聞や持ちうる知識によってのみの想定となりますが。この銃を有効化するためにまず、地形を選ぶことが肝要です。このマスケット銃は弾の軌道を制御出来ません。よって命中精度が著しく悪く、点ではなく面での攻撃、つまり戦列を敷けるだけの開けた戦場が必要です。森林や山地は論外。市街戦については攻め手であれば言うまでも有りませんが、防御側であれば、広場等を殺し間のように活用出来れば効果的であるかもしれません。いずれにせよ一斉射撃を可能にする高い練度と統制を必要とします」
「つまり並大抵には脅威にはなりえないという認識で差し支えないでしょうか?」
「ええ」
グフマン大佐の力強い肯定を聞いて、ブロア准将は満足そうに笑った。
「続いてこちらもご覧いただきたい」
差し出されたのは一枚の地図。グフマン大佐は極度に緊張した。
地図は製作の意図や場所によって管轄が異なるが、いずれにせよ機密図書に該当する。
「こちらはガリエラ領にあるきこりギルドの本拠地です」
二つの山の山あいからほぼ等間隔に等高線が扇状に広がる。いわゆる扇状地と言われる地形だ。扇頂分にはおそらくギルド本拠地及びギルド長の居宅等建物。扇央部にはいくつかの道路によって畑や果樹が区画され、扇端に小作人の集落。横に伸びる河川と集落の間には水田が広がっている。
五百という数字。部外秘の地図の提示。そしてグフマン自身の存在。
グフマンは確定ではない嫌な憶測を抱いて何とかブロア准将に向く。
「十中八九レジスタンスはそこにいます」
密会というていにしているのは、情報の提供はなく取引ということだ。
情報において遅れを取った事実はひどくグフマンを失望させた。感覚が乖離していく。机に肘をついて頭を抱えたくなった。
「アンドウ氏から、きこりギルド近域で相場のインフレがあると投資を持ちかけられた時にもしやと思いまして、内偵をお願いしていたんです。そうしましたらやはりというか何というか。耳は広くしとくものですね」
失意から立ち直った次はブロア准将や機関についての怒りが芽生えた。
要請に対応する機構ではなく、ブロア准将という頭を持った手駒に他ならない。これは裏切りだ。初めから我々の手札の見えているポーカーなど勝ちようがない。もし遅滞戦術なぞを使われたとしても何も分からないまま負ける。いや負けたことにすら気が付けない。
「しかし、地形を見てこれはもしかしたらゲリラ戦術が厄介ではないかと思いましたが、丁度いいところにアンドウ氏がマスケット銃を用意できると言うじゃないですか。これは渡りに船と思いまして。しかも凄いんですよ調達方法が!ね。ショーさん」
「凄いも何も、お取り潰しになった貴族の館から倉庫の整理をお願いされた時いくらかの美術品と共に買い取って欲しいと言われたのですが、こんな骨董品処分の方が金かかると処分費を請求しただけです」
「それを売りつけて双方から金を取るなんて、商売上手ですよねぇ。おかげで私は散兵の心配をしなくてすみますが」
いや、怒る道理はないか。企画庁長という立場を私益に使えるよう組織を作り、自身の懐を痛まない方法で権益に一枚かめるように持ち込む。
影響力の増し方、行使の仕方は、流石老舗名門の老獪さとでも言うべきか。
確かに同僚部下は血を流した。しかし私はどうだ。血を流したか。家名を汚したか。いや損はしていない。『経験』という利益に甘んじよう。
「さて話が脱線しましたが、脱走兵であるため人の和は無論。武器によって地の利は作りました。攻撃する立場である我々は天の時も手中にあります。どうでしょう。私の提案聞いてくれますか?」
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