蜃気楼に向かう群れの中で

常二常二

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十五年前

血の一滴 汗の一滴

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「ご提案としてはいくつかございます」
 提案と言いつつ、マスト条件であることは言うまでもない。
「一つ目の条件をお話する前にお伺いしたいことがございます。この地形を見てどのように責めるのが一番良いでしょう」
 グフマン大佐は一瞥だけ地図に目を落とした。決まり切った事を聞かれて惑うが、すぐに振り切りブロア准将へと視線を返す。
「現地を見ていない為、憶測の域を出ませんが、准将殿のお言葉どおりであれば平押しが効果的でしょう。策をこねくり回す方が下策となります」
「そうなんですよねぇ」
 ブロア准将はあごをさすりながら考え込んでしまった。理解はしているが納得はしていない。
「前回の市街戦。その事後処理を覚えておられますでしょうか」
「忘れるわけがございません」
 損傷した街道、建物はもちろん、御料地内の霊樹林の大部分が戦火に巻き込まれた。それだけで予算のほとんどを費やしたのにも関わらず、傷病者として収容した奴隷の所有者達が賠償金を請求し、その支払いのために東奔西走したことは苦々しい記憶である。
「奴隷とはすなわち資産です。他人の資産を害することは出来ません」
 包囲は現実的ではない。
 籠城とはそもそも援軍を期待できる場合の遅滞戦術が主だ。レジスタンスが降伏しなければ玉砕か、飢え殺しするしかない。
「回収出来なければ骨折り損どころか、一挙に負債を抱えることとなります」
 不可能と言っても良い。本来であれば多少の損害をいとわず力押しするのが正解だろう。

「そして続けて条件があります。賠償金の取り下げがあったのはご存じですか」
 グフマンは知らなかった。ブロア准将が賠償金請求が正当に値するものか決裁するに際し、特別司令部が立ち行かなくなり、予備予算を開放しなければならない事態を案じた。そして被害を受けたいくつか貴族に対して、恩賞と名誉をもってその返済に充てる密約を交わしていた。
「名誉の為参列を許可いただきたい家がいくつかございます。もちろん彼らの兵を損なわせずにお願いします」
 功労を戦闘しない部隊に与えることなど出来やしない。つまり遠回しに戦闘せず勝てと言うのがブロア准将の腹らしい。
「もはやこの争いについて、血の一滴。いや汗の一滴たりとも自由に使えないものと心得ていただきたい」
 グフマン大佐はこの難題を解決する糸口を未だ見いだせていなかった。
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