拝啓、親愛なる王子、魔族に求婚されて元従者は花嫁になりそうですー純潔花嫁に手ほどきをー

石月煤子

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ロザには自分専用の部屋があった。

「……はぁ……」

部屋には浴室もついていた。
チェス盤のように黒と白のタイルが敷き詰められた床の上、真っ白な猫足の浴槽にお湯を溜め、ちゃぷんと浸かれば自然と零れたため息。

「今日は何だか疲れたな」

濡れたブルーブラックの髪を掻き上げ、普段は前髪で隠れている額を全開にし、ロザは両手で顔を覆った。

『随分と無口な花嫁殿だ』

自分に対してずっとトゲトゲしていたトゥルシュタインの冷笑を思い出して直ちに仏頂面となる。

「何なんだ、あの魔族は」

妹の方はお喋りで何かとくっついてきたが悪い人……悪い魔族ではなさそうだった。
ただ兄の方はトゲトゲ、ねちねち、俺に対して嫌味ばかり。

「外見が優れているからって、人間より強くて力のある魔族だからって、あの高慢ぶりはないだろう……赤穴さんがいたらきっと注意されているに違いない」

最近、ロザは独り言が増えた。
打ち解けて会話できる相手がいないからだ。
何かとシャーシャー威嚇してくる好戦的な一つ目の使用人とは距離を置いていた。
寂しくないと言えば嘘になる。
魔界に誘われてからというもの、王子や赤穴達を懐かしんでばかりの日々を送っていた。

「……しっかりしないとな……」

緩やかな曲線を連ねる浴槽に背中を預けてロザは目を閉じる。

「今度あの高慢ちきなトゥルシュタインが来たら、また嫌味の一つでもぶつけてきたら、箒で追い返してやろうか……だけど一番許せないのはウルヴァスだ、あのスケコマシめ……初夜だの夜伽だのうるさいと感じていたが、まさかの色情狂だと……? 爛れているにも程がある……腹が立つ……」
「それはヤキモチか?」

ロザはぎょっとした。
目を開ければ真上からウルヴァスが自分を覗き込んでいるではないか。

「うわ!!」

素直に大声を上げればウルヴァスは器用に片眉のみ吊り上げてみせる。

「世にも醜い魔獣でも見たような反応をするな。仮にもお前の主人だぞ、ロザ」
「勝手に風呂場に入ってくるな!」
「ケチくさいことを言うな」

思わず浴槽の中でザバリと立ち上がり、いけしゃあしゃあとしているウルヴァスと果敢に対峙したロザだが。

(そうだ、コイツは色情狂の遊び人……!)

性的な目で裸身を観察されるのは勘弁と、また即座に座り込んで鼻先まで湯に浸かった。

ローブを羽織ったウルヴァスはフフンと笑う。
浴槽の縁に腰掛けると、露骨に警戒している、水面にブクブクと泡を紡ぐロザを肩越しに愉快そうに見下ろした。

「しなやかで綺麗な肉体だ」

戦の際に切り落とされたはずの片腕。
ウルヴァスの恩恵を授かった瞬間、失われた腕は舞い戻り、傷跡すら残っていなかった。
ただしそれより前に負った傷跡は。
幼い頃から暗殺者として育てられ、過酷な訓練や実戦で刻みつけられた残痕は全身に散らばったままであった。

祖国で過ごした少年期、過去に重ねた罪。

指令を受けてロザが殺害した標的の数は両手では収まらず、その成功率の高さ故に敵国の王子暗殺の命を下されたのだ……。

「こんな傷だらけの体のどこが綺麗なんだ」

ブクブクまじりにロザが言えば「命を磨いた証。美しい以外に何がある?」とウルヴァスにあっけらかんと言い返された。

「どうだ、初夜を迎える気になったか、ロザ」
「あのお茶会の後によくそんなこと聞けるな……」
「トゥルネラが言ったことを気にしているのか。まぁ否定はしない」
「スケコマシめ……」
「他の奴に靡いてほしくないのなら今すぐにでも俺を迎え入れたらいい」

キッと目つきを尖らせたロザが「いくらでも靡いたらいい、俺には関係ないッ」と気丈に言い放つと、ウルヴァスはわざとらしく肩を竦めてみせる。

「純潔なる我が花嫁の貞操は恐ろしく強固ときた」

それを聞いたロザは……耳まで真っ赤にした。

確かにこの身は純潔であり、どうしてわかったんだ、魔族故の察知能力か、単なる色情狂の勘か、このスケコマシめ腹立たしいなどなど、ウルヴァスへの文句が頭の中をぐるぐる駆け巡ったが、どれもろくに口にできずにワナワナと震える他なかった。

浴槽の縁から立ち上がったウルヴァスはワナワナしているロザに真顔で言い渡す。

「その純潔を俺以外の誰かに捧げようものなら相手は縊り殺してお前は牢に繋いでやる」



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