眠れる森の少年と二人の魔法使い

石月煤子

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「本当はこの手でその命をもぎ取るつもりでした」

一瞬、ラグドルは表情を強張らせた。
眠り人から視線を変えれば、普段通り、ニコニコしているシャルトリュスがそこにいた。

「でも、ね。いざ目にしてしまうと。おくるみに包まれて祝福されている小さな小さな彼の姿に決意が揺らいでしまいました」

予言を授かり、国仕えのウィザードらに情報を伝えたのはシャルトリュス自身だった。

「祝福していたはずの家族は全員逃げたがな。寝始めて半世紀。半永久の眠りよりも刹那の死。そっちの方が救済になったんじゃないのか」
「難しいことを言いますね、ラグドル君」
「乳飲み子の頃からこの塔に閉じ込められて、十六を過ぎてからは寝っぱなし。恋人なんてできやしない」
「だから半永久なんです。君の言う通り、確かにこの選択は残酷だったかもしれません」

でも、ほら、ご覧なさい?

「長いこと生きてきましたけれど、こんなにも安らかで綺麗な寝顔、初めて見ます」

年をとらず、髪も爪もそれ以上伸びず、十六の齢に磔にされたペルシアの体。
一流の画家が魂を削ってまでして描ききったかのような美しさに満ち溢れたフェイス。
半月の弧を描く眉、白磁の如き柔肌に繊細な影を落とす睫毛、滑らかに整った鼻梁、愛らしい可憐な花弁を彷彿とさせる唇……。

「本当、絶世の美男子君ですね、ペルシアは」

半世紀にも渡って見守り続けておきながら、改めて乙女みたいに頬を紅潮させて照れているシャルトリュスにラグドルはまた表情を強張らせる。

「この半世紀であんたが屍体性愛(ネクロフィリア)寄りの児童性愛(ペドフィリア)だと思い知らされた」
「えぇぇぇえ? 心外ですね? 私は芸術品に接するようにペルシアを鑑賞しているだけですよ?」
「どうだかな」

一世紀とちょっとの年月を生きてきたラグドルはそっぽを向いてボソリと呟いた。

「俺が見にきているのはアンタなのに」
「え? 何か言いました?」
「別に」
「最近、すっかり耳が遠くなってしまって」
「……」
「加えて老眼、おかげで予言もイマイチ把握できなくて」
「それって大問題じゃないのか」

そっぽを向いていたはずのラグドルはシャルトリュスの顔を間近に覗き込んだ。

「アンチエイジングの魔法をかけてやろうか。皺とり、シミ消し、潤い補充」
「そんな。美容にこだわるマダムじゃあるまいし」
「食欲不振、虚弱体質、冷え症の回復、眼精疲労、関節痛の除去」
「あはは」
「スタミナ増強、精力強化」
「ありがとうございます、でもしょぼくれた私には必要ないですよ」

しょぼくれたなんて、とんでもない。
どれだけの年月を経てもアンタはいつだって若々しくて、清らかで、純粋で。
そこに横たわる禍々しい人形より何倍もきれいだ。

「ラグドル君に肩を揉んでもらう程度で十分ですよ?」

さり気なく肩もみを強請ってきたシャルトリュスの肩ではなく、頬に、ラグドルは触れた。

「おや? 今日は顔のマッサージですか?」

なーんの警戒心もなく、のほほん尋ねてきたシャルトリュスの切れ長な目をじっと見つめる。

「やだなぁ、いくらなんでも見えてますよ? 安心してください?」

大層な予言は授かるくせに身近な想いには鈍感なんだ、先生は。



流浪の魔法使い(ワンダリング・ウィザード)であるシャルトリュスの一番弟子であるラグドル、超絶ルックス超絶モテ男でありながら、ずっと不運な片恋に悩まされてきた。



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