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「策を練るのは苦手なので君に任せます」
舞い上がり気味なシャルトリュスは渋い表情をしているラグドルの革手袋に包まれた両手をぎゅっと握った。
「第一弟子である君と私で力を合わせればきっと叶うはず、破滅へのカウントダウンを二人で止めましょう、ラグドル君!」
ラグドルは……赤面した。
片恋をこじらせる余り、数多の女性を虜にしながらも独り身を貫く男は容易に絆(ほだ)されて危うく同意しそうになった。
「シャルトリュス」
かけがえのない片恋相手に不意に絡みついた自分以外の両腕。
「僕のことひとりぼっちにしないで」
半世紀の寝床となっていたベッドを出、久方振りの自由を得たペルシアがシャルトリュスに背後から抱き着いていた。
深紅と深黒のオッドアイによる底抜けに冷えた眼差しをラグドルへ放ちながら。
「……」
明らかな敵意を突きつけられてラグドルは琥珀に煌めく右目を険しげに細める。
「さっき、シャルトリュスに置き去りにされる夢を見たんだ。とっても怖かった」
「私が君を置き去りに?」
「このひとがシャルトリュスを連れていく夢」
不躾に指差されてさらに険しくなっていく琥珀の眼。
「ラグドル君、そんなに睨まないであげてください、ペルシアが怯えてしまいます」
ラグドルはぐっと詰まった、シャルトリュスにイイコイイコされているペルシアが憎たらしくてならなかった、イライラして地団駄を踏みたくなった。
そもそもどうして目覚めたんだ、コイツは。
真の恋人からのキスが起爆スイッチになるんじゃなかったのか。
まさか、先生は、本気でコイツのことを。
「シャルトリュスの夢は僕に優しかった」
ペルシアはシャルトリュスに横から抱き着くと触り心地のいいローブに頬擦りした。
「お父様よりも、お母様よりも、召使いよりも、誰よりも一番優しかった。起きていたときよりも眠っているときの方が楽しかった」
「ペルシア、君が眠りについてから半世紀のときが過ぎました。君のご両親はもう」
「うん。もうどこにもいない。夢の中であなたから聞いた。起きていたときから、もう、いないようなものだったから。ちっとも悲しくない」
あなたがそばにいてくれるのなら、それだけで、いい。
「ぼくの恋人になってくれてありがとう、シャルトリュス」
美しいペルシアに堂々と甘えられて、そんなことを言われて、シャルトリュスは徐々にたじろぎ始めた。
「君は眠りながら私に恋をしたんですか? でも、それだけで真の恋人とは……相思相愛の仲における口づけでなければ目覚めには」
「コイツに惚れたのか、シャル」
「え!? ラグドル君、君、いきなり何てことを言い出すんですか!?」
「今アンタが言っただろう。相思相愛じゃなければ駄目だと」
「そ、そんなまさか、こんな地味おじいさんの私がペルシアに恋なんて、烏滸がましいにも程が、棺桶寸前、亡者一歩手前の私が彼に恋なんて」
赤くなった顔を両手で覆い隠して嘆くシャルトリュスにペルシアは笑いかけた。
「かわいい、シャルトリュス」
さらに頬をまっかっかにしたシャルトリュス。
磨きのかかった仏頂面と化したラグドル。
まるで道化のようだと自分を嘲笑い、夢の中で結ばれた二人に太刀打ちできるはずもない、こんな世界なんざ「破滅の力」でとっとと終わってしまえ、そんな自暴自棄の念に駆られ、居た堪れずにその場を後にしようとしたが。
「んっ!?」
シャルトリュスの驚きの声に反射的に忠犬よろしく振り返れば。
愛しの師匠は下から頭を抱き寄せられてペルシアに熱烈なキスをされていた。
ついついカッとなった。
仰天していたシャルトリュスを懐に引き寄せて、ほぼ半世紀分年上であるにもかかわらずペルシアを突き飛ばすという、何とも年上らしからぬ真似に至った。
「突拍子もないことをシャルにするな、心臓発作を起こすかもしれないだろ」
突き飛ばされてよろめいたペルシアは痛がるでも怖がるでもなく、ラグドルを完全無視、耳まで赤くなっているシャルトリュスに正面からしがみついた。
「ごめんね、そんなにびっくりした?」
口元を片手で押さえたシャルトリュスはうんうん頷いた。
「はぁ、あの、いきなり舌を突っ込まれたのでどうしようかと」
「シャル、アンタ一体どういう夢をコイツに見せていたんだ、まるで飢えた獣じゃないか、アンタの唇に浅ましくがっついて、十六歳の少年からケダモノにでも退化したんじゃないのか」
「が、がっつかれたわけじゃあ……ただ舌が……」
数百歳のくせして色事にてんで疎い魔法使い。
「ねぇ、シャルトリュス、僕に教えて? あなたのぬくもりを」
「ハグすればいいんですか?」
「ううん。ちゃんと<なか>まで教えて」
「おい、なに抜かしてる、調子に乗るな、それ以上シャルに触るんじゃない」
「私のなか? それはちょっと痛そうですね、五臓六腑を曝すのは、さすがに」
「あなたと交わりたいんだ」
ラグドルとペルシアの狭間でシャルトリュスはピシッと固まった。
「まままま、まじわ、り」
「うん」
「そそ、それは、こんな貧相な私ではちょっと、あ、そうです、肉付きのいいラグドル君の方がまだうってつけかと」
「ふざけるな、シャル」
「あなたがいい、あなたじゃなきゃだめ」
「え、えーと、それならばせめて女の人に姿を変えましょうかね」
「やだ。ありのままのあなたがいい」
「おい、シャル、本気でこいつの言いなりになるつもりか、なんでそこまでする必要がある」
動揺しっぱなし、どこからどう見てもてんぱっていたはずのシャルトリュスは後ろから自分を支えるラグドルを不意に真摯な眼差しで顧みた。
「だって、私、この子に半永久の眠り魔法をかけたんですよ?」
半世紀の自由を奪った代わりになんでもしてあげたいと思うのは当然でしょう?
「……お優しいシャル、さすが言うことが違う……」
その優しさは諸刃の剣だな、先生。
ペルシアを守って俺の心臓を刺し貫く。
舞い上がり気味なシャルトリュスは渋い表情をしているラグドルの革手袋に包まれた両手をぎゅっと握った。
「第一弟子である君と私で力を合わせればきっと叶うはず、破滅へのカウントダウンを二人で止めましょう、ラグドル君!」
ラグドルは……赤面した。
片恋をこじらせる余り、数多の女性を虜にしながらも独り身を貫く男は容易に絆(ほだ)されて危うく同意しそうになった。
「シャルトリュス」
かけがえのない片恋相手に不意に絡みついた自分以外の両腕。
「僕のことひとりぼっちにしないで」
半世紀の寝床となっていたベッドを出、久方振りの自由を得たペルシアがシャルトリュスに背後から抱き着いていた。
深紅と深黒のオッドアイによる底抜けに冷えた眼差しをラグドルへ放ちながら。
「……」
明らかな敵意を突きつけられてラグドルは琥珀に煌めく右目を険しげに細める。
「さっき、シャルトリュスに置き去りにされる夢を見たんだ。とっても怖かった」
「私が君を置き去りに?」
「このひとがシャルトリュスを連れていく夢」
不躾に指差されてさらに険しくなっていく琥珀の眼。
「ラグドル君、そんなに睨まないであげてください、ペルシアが怯えてしまいます」
ラグドルはぐっと詰まった、シャルトリュスにイイコイイコされているペルシアが憎たらしくてならなかった、イライラして地団駄を踏みたくなった。
そもそもどうして目覚めたんだ、コイツは。
真の恋人からのキスが起爆スイッチになるんじゃなかったのか。
まさか、先生は、本気でコイツのことを。
「シャルトリュスの夢は僕に優しかった」
ペルシアはシャルトリュスに横から抱き着くと触り心地のいいローブに頬擦りした。
「お父様よりも、お母様よりも、召使いよりも、誰よりも一番優しかった。起きていたときよりも眠っているときの方が楽しかった」
「ペルシア、君が眠りについてから半世紀のときが過ぎました。君のご両親はもう」
「うん。もうどこにもいない。夢の中であなたから聞いた。起きていたときから、もう、いないようなものだったから。ちっとも悲しくない」
あなたがそばにいてくれるのなら、それだけで、いい。
「ぼくの恋人になってくれてありがとう、シャルトリュス」
美しいペルシアに堂々と甘えられて、そんなことを言われて、シャルトリュスは徐々にたじろぎ始めた。
「君は眠りながら私に恋をしたんですか? でも、それだけで真の恋人とは……相思相愛の仲における口づけでなければ目覚めには」
「コイツに惚れたのか、シャル」
「え!? ラグドル君、君、いきなり何てことを言い出すんですか!?」
「今アンタが言っただろう。相思相愛じゃなければ駄目だと」
「そ、そんなまさか、こんな地味おじいさんの私がペルシアに恋なんて、烏滸がましいにも程が、棺桶寸前、亡者一歩手前の私が彼に恋なんて」
赤くなった顔を両手で覆い隠して嘆くシャルトリュスにペルシアは笑いかけた。
「かわいい、シャルトリュス」
さらに頬をまっかっかにしたシャルトリュス。
磨きのかかった仏頂面と化したラグドル。
まるで道化のようだと自分を嘲笑い、夢の中で結ばれた二人に太刀打ちできるはずもない、こんな世界なんざ「破滅の力」でとっとと終わってしまえ、そんな自暴自棄の念に駆られ、居た堪れずにその場を後にしようとしたが。
「んっ!?」
シャルトリュスの驚きの声に反射的に忠犬よろしく振り返れば。
愛しの師匠は下から頭を抱き寄せられてペルシアに熱烈なキスをされていた。
ついついカッとなった。
仰天していたシャルトリュスを懐に引き寄せて、ほぼ半世紀分年上であるにもかかわらずペルシアを突き飛ばすという、何とも年上らしからぬ真似に至った。
「突拍子もないことをシャルにするな、心臓発作を起こすかもしれないだろ」
突き飛ばされてよろめいたペルシアは痛がるでも怖がるでもなく、ラグドルを完全無視、耳まで赤くなっているシャルトリュスに正面からしがみついた。
「ごめんね、そんなにびっくりした?」
口元を片手で押さえたシャルトリュスはうんうん頷いた。
「はぁ、あの、いきなり舌を突っ込まれたのでどうしようかと」
「シャル、アンタ一体どういう夢をコイツに見せていたんだ、まるで飢えた獣じゃないか、アンタの唇に浅ましくがっついて、十六歳の少年からケダモノにでも退化したんじゃないのか」
「が、がっつかれたわけじゃあ……ただ舌が……」
数百歳のくせして色事にてんで疎い魔法使い。
「ねぇ、シャルトリュス、僕に教えて? あなたのぬくもりを」
「ハグすればいいんですか?」
「ううん。ちゃんと<なか>まで教えて」
「おい、なに抜かしてる、調子に乗るな、それ以上シャルに触るんじゃない」
「私のなか? それはちょっと痛そうですね、五臓六腑を曝すのは、さすがに」
「あなたと交わりたいんだ」
ラグドルとペルシアの狭間でシャルトリュスはピシッと固まった。
「まままま、まじわ、り」
「うん」
「そそ、それは、こんな貧相な私ではちょっと、あ、そうです、肉付きのいいラグドル君の方がまだうってつけかと」
「ふざけるな、シャル」
「あなたがいい、あなたじゃなきゃだめ」
「え、えーと、それならばせめて女の人に姿を変えましょうかね」
「やだ。ありのままのあなたがいい」
「おい、シャル、本気でこいつの言いなりになるつもりか、なんでそこまでする必要がある」
動揺しっぱなし、どこからどう見てもてんぱっていたはずのシャルトリュスは後ろから自分を支えるラグドルを不意に真摯な眼差しで顧みた。
「だって、私、この子に半永久の眠り魔法をかけたんですよ?」
半世紀の自由を奪った代わりになんでもしてあげたいと思うのは当然でしょう?
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その優しさは諸刃の剣だな、先生。
ペルシアを守って俺の心臓を刺し貫く。
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表紙はくま様からお借りしました。
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