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「えらく長かったな」
センセイは俺と入れ代わりにお風呂へ向かった。
現在時刻は八時を過ぎたばかり。
水玉シャツワンピのお気に入りパジャマを着た俺はソファの上で体育座りする。
テレビのチャンネルを当てもなく、ぽちぽち、ぽちぽち。
「今日こそは」
お風呂から聞こえてきたシャワーの音にドキドキする。
聞き慣れてるはずなのに、変に胸を直撃して、心臓を揺さぶられる。
……あんな男の中の男みたいなセンセイが握手止まりとか、笑えます……。
デートして、お泊まりもして、それでも続く清い関係。
いい加減、次のコマに進みたい。
もっとセンセイをダイレクトに感じてみたい。
だから、今日はシャワー後もちょっとだけメイクした、暑くてめんどくさいけどドライヤーですぐに乾かして髪もシュシュできれいめに結んだ。
自分にしてはお高めのリップクリームを買って、念入りにぬりぬりしてきた。
「またぬりぬりしとこ」
シャツワンピのポケットに入れていたリップクリームを唇にぬりぬりし、ぜんっぜん頭に入ってこないテレビのチャンネルをまたぽちぽち、ぽちぽち。
あ、怖いやつだ。
夏ってかんじだなー。
実在する恐怖の村、か、ふーん。
<このI村には恐ろしい伝説がありまして……そう、獣人伝説なんですねー……>
これ、確かネットで見たことあるな。
犬棲村(いんずみむら)の化け猫もとい化け犬の話。
山に棲む化け犬と村の女の人がくっついて、生まれてきたこどもは半分人間、半分犬だった、みたいな。
<今も夜な夜な山から聞こえてくる遠吠え……仲間を探す獣人の声なんでしょうか……やだなー怖いなー……>
「いやいや、ただのノラ犬でしょ、獣人とか古くさいし、B級映画みたいで怖くないし、八尺様とかコトリバコとかきさらぎ駅とか廃村とか、そっちの方がめちゃくちゃヨユーで怖いし、ありえそーだし、獣人とかないわー、ありえなさすぎ、ないないないない」
「変えるぞ」
いきなり目の前ににゅっと伸びてきた腕。
「獣人ッッ!!」
俺は思わず変な叫び声を上げてしまった。
「ッ……び、びびらすなッ……一言なんか言え~!」
リビングに入ってきた気配がまるでなかった、お風呂上がりのセンセイ。
「言っただろうが、変えるぞって」
毎度のことながらお風呂上がりのセンセイは超絶かっこいい。
濡れた前髪が目元にかかって、いつもより若く見えて、熱もつ首筋とか腕とか、オトナの男っぽさがダダ漏れというか……!
「犬棲村の話か」
「あ、センセイも知ってるんだ、そーそー、獣人伝説、古くさくて笑えるっていうか、ありえなさすぎて恐怖度下がるっていうか」
「俺の故郷だ」
「またまた~!」
「コーイチ、お前どうしたんだ、その唇」
「え……? あ……わかる……?」
「フライドチキンかポテトチップスでも食ったのか」
「食ってない!!」
いつもより高いリップクリーム使ってるのに、チキンかポテチ食ったとか、デリカシーゼロですか、この体育教師。
「食ってない!!!!」
「もう十分わかった」
テレビを消した後、肩に引っ掛けていたタオルを投げつけられて、イライラしつつも、すっきりミントの匂いをさり気なーく吸い込んだ。
「そろそろ寝るか」
……出た。
……まだ九時前で寝るか宣言。
……それでガチで寝るんですよ、この体育教師。
「今日もソファでいいな」
しかも俺をソファに置き去りにして、自分はベッドで爆睡するんですよね!!
「夜更かししたいのならテレビの音量には気をつけろ、後は好きにしていい」
今までの俺ならすんなり聞いてました。
でも十七歳になった俺は違います。
今日から変わるんです。
「やだ」
すでに歯磨きも終えて寝る準備万端だったセンセイは俺を見下ろした。
「わかった、10まで上げてもいい」
「音量の話じゃない!!」
俺はソファから立ち上がる。
半袖シャツにロング丈のルームパンツを履いたセンセイと向かい合った。
「夜もずっとセンセイといっしょにいたい」
「駄目だ」
この体育教師、即答しやがったーーーー!!
「なんで!?」
片付けられたリビングの隅っこ。
俺は両手をグーにしてセンセイに問う。
「なんでなんでなんで!!」
「駄々っ子か、お前は」
「なんでーーー!!」
「……」
駄々っ子上等だ。
息まで切らして、シャツワンピをぎゅっと握り締めて、センセイを睨みつけた。
「俺、もう十七歳になったもん」
「まだ十七だ」
「トモダチとかクラスの奴とか、カノジョがいるみんな、手繋ぎデート以上のこと、してるよ?」
「コーイチ。俺とお前、周りとは大きく違う。比べるんじゃねぇ」
「ッ……男同士で、体育教師と生徒で、センセイは三十路寸前のおっさんで、いろいろあるけど、でも……」
「お前が学校を卒業するまで、おっさんの俺はお前に手を出さない。そう決めてる」
ガーーーーーーーン
「それだけコーイチのことを大事に思ってる」
手を出さない宣言に大ショックを受けて。
センセイの思いやりは俺の心を素通りしていって。
やりきれない虚しさに涙が出てきて。
「そんなきれいごと、俺、いらない」
暑い。
冷房効いてるのに、体中、熱い。
怒ってるのかな、俺、イライラがピークに達したのかな。
センセイは俺と入れ代わりにお風呂へ向かった。
現在時刻は八時を過ぎたばかり。
水玉シャツワンピのお気に入りパジャマを着た俺はソファの上で体育座りする。
テレビのチャンネルを当てもなく、ぽちぽち、ぽちぽち。
「今日こそは」
お風呂から聞こえてきたシャワーの音にドキドキする。
聞き慣れてるはずなのに、変に胸を直撃して、心臓を揺さぶられる。
……あんな男の中の男みたいなセンセイが握手止まりとか、笑えます……。
デートして、お泊まりもして、それでも続く清い関係。
いい加減、次のコマに進みたい。
もっとセンセイをダイレクトに感じてみたい。
だから、今日はシャワー後もちょっとだけメイクした、暑くてめんどくさいけどドライヤーですぐに乾かして髪もシュシュできれいめに結んだ。
自分にしてはお高めのリップクリームを買って、念入りにぬりぬりしてきた。
「またぬりぬりしとこ」
シャツワンピのポケットに入れていたリップクリームを唇にぬりぬりし、ぜんっぜん頭に入ってこないテレビのチャンネルをまたぽちぽち、ぽちぽち。
あ、怖いやつだ。
夏ってかんじだなー。
実在する恐怖の村、か、ふーん。
<このI村には恐ろしい伝説がありまして……そう、獣人伝説なんですねー……>
これ、確かネットで見たことあるな。
犬棲村(いんずみむら)の化け猫もとい化け犬の話。
山に棲む化け犬と村の女の人がくっついて、生まれてきたこどもは半分人間、半分犬だった、みたいな。
<今も夜な夜な山から聞こえてくる遠吠え……仲間を探す獣人の声なんでしょうか……やだなー怖いなー……>
「いやいや、ただのノラ犬でしょ、獣人とか古くさいし、B級映画みたいで怖くないし、八尺様とかコトリバコとかきさらぎ駅とか廃村とか、そっちの方がめちゃくちゃヨユーで怖いし、ありえそーだし、獣人とかないわー、ありえなさすぎ、ないないないない」
「変えるぞ」
いきなり目の前ににゅっと伸びてきた腕。
「獣人ッッ!!」
俺は思わず変な叫び声を上げてしまった。
「ッ……び、びびらすなッ……一言なんか言え~!」
リビングに入ってきた気配がまるでなかった、お風呂上がりのセンセイ。
「言っただろうが、変えるぞって」
毎度のことながらお風呂上がりのセンセイは超絶かっこいい。
濡れた前髪が目元にかかって、いつもより若く見えて、熱もつ首筋とか腕とか、オトナの男っぽさがダダ漏れというか……!
「犬棲村の話か」
「あ、センセイも知ってるんだ、そーそー、獣人伝説、古くさくて笑えるっていうか、ありえなさすぎて恐怖度下がるっていうか」
「俺の故郷だ」
「またまた~!」
「コーイチ、お前どうしたんだ、その唇」
「え……? あ……わかる……?」
「フライドチキンかポテトチップスでも食ったのか」
「食ってない!!」
いつもより高いリップクリーム使ってるのに、チキンかポテチ食ったとか、デリカシーゼロですか、この体育教師。
「食ってない!!!!」
「もう十分わかった」
テレビを消した後、肩に引っ掛けていたタオルを投げつけられて、イライラしつつも、すっきりミントの匂いをさり気なーく吸い込んだ。
「そろそろ寝るか」
……出た。
……まだ九時前で寝るか宣言。
……それでガチで寝るんですよ、この体育教師。
「今日もソファでいいな」
しかも俺をソファに置き去りにして、自分はベッドで爆睡するんですよね!!
「夜更かししたいのならテレビの音量には気をつけろ、後は好きにしていい」
今までの俺ならすんなり聞いてました。
でも十七歳になった俺は違います。
今日から変わるんです。
「やだ」
すでに歯磨きも終えて寝る準備万端だったセンセイは俺を見下ろした。
「わかった、10まで上げてもいい」
「音量の話じゃない!!」
俺はソファから立ち上がる。
半袖シャツにロング丈のルームパンツを履いたセンセイと向かい合った。
「夜もずっとセンセイといっしょにいたい」
「駄目だ」
この体育教師、即答しやがったーーーー!!
「なんで!?」
片付けられたリビングの隅っこ。
俺は両手をグーにしてセンセイに問う。
「なんでなんでなんで!!」
「駄々っ子か、お前は」
「なんでーーー!!」
「……」
駄々っ子上等だ。
息まで切らして、シャツワンピをぎゅっと握り締めて、センセイを睨みつけた。
「俺、もう十七歳になったもん」
「まだ十七だ」
「トモダチとかクラスの奴とか、カノジョがいるみんな、手繋ぎデート以上のこと、してるよ?」
「コーイチ。俺とお前、周りとは大きく違う。比べるんじゃねぇ」
「ッ……男同士で、体育教師と生徒で、センセイは三十路寸前のおっさんで、いろいろあるけど、でも……」
「お前が学校を卒業するまで、おっさんの俺はお前に手を出さない。そう決めてる」
ガーーーーーーーン
「それだけコーイチのことを大事に思ってる」
手を出さない宣言に大ショックを受けて。
センセイの思いやりは俺の心を素通りしていって。
やりきれない虚しさに涙が出てきて。
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怒ってるのかな、俺、イライラがピークに達したのかな。
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