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4-2
「貴重な昼休みが無駄になる」
柚木は我に返った、素っ気なく教室のドアを閉めようとした眞栖人のセーターを慌てて引っ掴んだ。
「ま、待って待って!」
「何だよ、全力で引っ張るな、伸びる」
「あっ、あのさ、ほっ、ほっ、ほっ」
「ほっ、ほっ、ほっ?」
柚木は口をひん曲げる。
どうして今日一度も会いにきてくれなかったのか。
胸に抱いていたはずの疑問よりもホテルに行くのか、行かないのか、今はそちらの回答が気になって仕方なくて。
初心オメガにとって過激な話題であるだけに口にしづらく、ただただ眞栖人を真っ直ぐに見上げた。
精一杯な眼差しを捧げられた眞栖人は、ほんの一瞬、昼休みの喧騒を忘れた。
「……お前は雨の日に段ボールの中に置き去りにされた捨て犬か」
デコピンされた柚木はぎゅっと目を瞑る。
「痛いッ」
教室のドアを後ろ手で閉めると、こどもみたいに痛がっている柚木の肩を抱き、廊下の窓際へ。
閉じられた窓に背中を軽く寄りかからせ、ネイビーのセーターを腕捲りして俯き気味に両腕を組んだ。
「飯食ったのかよ」
まだジンジンする額を押さえた柚木は彼の向かい側に立つ。
「うん、食べた」
「三限の世界史、テスト返ってきただろ、どうだった」
「黙秘します」
「お前な。俺がヤマ教えてやったっていうのに」
「ヤマが広すぎて全制覇できなかった」
「暗記できなかったって素直に言え」
これまで休み時間にしてきたような他愛ない話を交わす。
傍目には昨日と変わらない眞栖人だが、柚木の目にはどこか違って見えた。
「どこが」と問われると回答に窮してしまうのだが……。
「眞栖人くんさ、他のアルファとホテルに遊びにいくの?」
とりあえず彼と顔を合わせ、普段通りの会話ができて少しだけ落ち着いた柚木は思い切って質問をぶつける。
「溶けかけてんな」
制服ズボンのポケットに入っていた貢物のチョコレート。
銀紙を解いた眞栖人は自分の口の中に放り込んだ。
「そーいう遊びって前からしてた? 集まるのって、アルファだけじゃないよね?」
「あま」
「ま、枕投げとかトランプで遊ぶんなら別に文句言わないけど、それってアレでしょ……」
「アレって何だ」
てっきりはぐらかされているのかと思いきや、唐突に聞き返されて柚木は口ごもる。
「お前も一緒に来るか」
信じ難いお誘いには限界いっぱい目を見開かせた。
ろくに噛まずに甘味を丸呑みにした眞栖人は誰もいない無人の廊下の奥を見、平然と続ける。
「運命の相手も見つかったことだし、そろそろこの辺で学んでおくのもいいんじゃないか、こづくりの作法」
シャープなラインを連ねる横顔を柚木は穴があくほどに見つめた。
「初っ端から番のアルファ相手と本番ブチかまして失敗して同情されるのも酷だろ。醜態見せたくないだろ? 一通りのレッスン受けて、自信がついてきた頃に柊一朗と思う存分愉しめばいい」
「……」
「ヒートを利用するのも一つの手だけどな。お前のことだからいつ来るやら」
毒を吐かれるのは毎度のことだが。
投げ遣りに億劫そうに吐き捨てられて、へっぽこオメガは唖然とした。
(なんじゃそれ)
「な……なんじゃ……それ……」
心の声が口からそのまま転がり出た。
引っ張るなと言われたセーターを両手で引っ掴み、ややキツイ角度ながらも20センチ近く身長差のある彼をぐっと見上げた。
「眞栖人くん、やっぱりなんか違う、変だよ、何かあった?」
「だから。セーターが伸びる」
「ッ……眞栖人くんがいつもと違うから!? セーター伸びるのは眞栖人くんのせいなんでない!?」
「俺に責任転嫁するな」
「なんであっち向いて言うの?」
「……」
「どこ見てるの? おれと話してるんじゃないの? まさかおばけでも見えてる?」
(そうか、わかった)
眞栖人の「どこが」違っているのか、柚木は気がついた。
教室のドアが開かれたとき、彼と視線は一切交わらず、こちらからひたすら見上げていたときはデコピンされて拒まれた。
「なんでおれと目が合うの避けてるの?」
なぜなぜ期ばりに直球で問い続ける柚木の顔が、ふと翳った。
屈んだ眞栖人の影が落ちてオメガの視界は彼に独占された。
「俺の前だと、とことん幼稚園児だな」
(あ)
同じ顔だけど。
同じじゃない。
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