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しおりを挟む「こちらは会員制となっております」
パリピの巣窟を守る番人・ドアマンの「会員制」一点張りに岬は憤慨しそうになった。
「あのなぁッ……」
いや、会員制なら断られるのも当たり前だ。
それなら早いとこ会員登録すりゃあ済む話か。
「じゃあ会員になる」
「手続きはウェブ上で、入会費の振込が確認された際に会員証を発送致します」
「入会費いるのかよ」
「未成年の会員登録は不可となっております」
「さっき明らかに未成年の格好した奴入っていっただろうが!!」
ツーブロックの髪型で慇懃無礼なドアマンはツンと素知らぬ顔、岬の後ろに並んだ年上の男女らは待たされて不機嫌になるどころか、上機嫌で写真やら動画の撮影をしている、ちょっとした待ち時間でも有意義に過ごすのがモットーらしい。
……仕方ねぇ、出てくるまで待つか。
ツンツンしているドアマンが後ろの客に来るよう促し、邪魔者扱いされた岬はやむなく列から出ようとした。
「岬くんだ」
突然、背後から肩を抱かれた。
慌てて振り返れば眩いまでに眉目秀麗な顔がすぐそこに。
不意討ちの余り、危うく本能が射ち落とされそうになった。
「……阿久刀川サン……」
いきなり現れたかと思えば過剰に密着されて岬はまごつく。
足首の見えるアンクルパンツに茶の紐靴、テーラードジャケットを羽織った阿久刀川は不要なまでの親しみを込めてヤンキー淫魔に話しかける。
「何してるの? これから夜のお遊戯会? あ、立派な長ネギ」
「……重てぇよ、阿久刀川サン」
「こっちのお店にも遊びにきてくれるなんて嬉しいな」
「え?」
先程までツンツンしていたドアマンに「オーナー、どうもお疲れ様です」と頭を下げられても、疎らにいた客が色めき立っても我関せず、親しげに自分を覗き込んでくる阿久刀川を岬はおっかなびっくり見返した。
「このクラブ、阿久刀川さんの店なのかよ?」
「そうだよ。こっちは<USUAL>、あっちは<UNUSUAL>、どっちも僕のお店だよ」
「あのー、すみません、コチラのオーナーさんですよね……?」
類稀な容姿で名を馳せているらしい、おずおずと写真をせがんできた客らに阿久刀川はてきぱき対応、それぞれスピーディーに記念撮影を終えると岬の方へくるりと向き直った。
「遊びにきたのかい?」
「あー……えーと」
「それとも人探し、とか」
……鋭すぎねぇか、この優性(ドミナント)。
「いいよ。おいで。案内してあげる」
「会員じゃねぇぞ、俺」
「僕だって会員じゃないよ」
「そりゃあ、アンタはオーナーだから……わわっ……!」
腕をとられ、問答無用に引っ張られ、身長188センチのモデル体型な優性淫魔による強引なエスコートに岬は目を白黒させた。
かくして夏休みにぴったりなヤンキー淫魔の火遊びならぬ真夏の大冒険の幕が開けた。
会員制の「USUAL(ユージュアル)」は余所のクラブと比べて治安がいい、夜遊び好きにはもってこいの非日常感を味わえるナイトスポットだった。
広々としたダンスフロア。
開放的な吹き抜けの天井には巨大なシャンデリア。
中央ステージのDJブースに鎮座するプロフェッショナルなムードメーカーの選曲に合わせ、すでに出来上がった人々が思い思いに体を揺らしている。
サイドには快適なソファ席が設けられ、優れた音響システムによるフルボリュームの音楽をお酒と共にのんびり楽しむ人々もいた。
映像を操作するVJの手捌きにより、スクリーンで目まぐるしく展開していく編集・加工された映像。
出来合いのノイジーな暗闇に入り乱れる色鮮やかな光たち。
「中二階はVIPフロア、プラチナ会員専用のエリアなんだ」
ご丁寧に耳打ちして説明してくる阿久刀川に岬はついつい首筋を粟立たせた。
「うん? 寒い? 空調、効き過ぎてるかな?」
耳打ちするのが億劫な岬は首を左右にブンブン振って回答を示した。
思ってたよりも清潔感あって綺麗だな。
もっとゴミゴミしてるのかと思った。
音はすげぇけど。
気合い入ってそうな格好の奴もいれば俺みたいな部屋着っぽい奴もいる。
レストランの方は吸血鬼が出没しそうな雰囲気だけど、こっちは吸血鬼も真っ青っつぅか、陽キャの溜まり場っつぅか。
そんで同じ夜の店でも「アウェイク」とはやっぱ全然違うな。
「岬くんも、きっとお気に入りのひと時が此処(ここ)で見つかると思うよ」
……阿久刀川サン、無駄に近過ぎねぇか。
洋食レストランの方で見かけたインテリアの鳥かごを巨大化したようなオブジェの脇で阿久刀川が立ち止まり、岬も隣で足を止めた。
「はい、どうぞ」
だぼっとした五分袖シャツにサルエルパンツ、足元はサンダル、全身ゆるゆるシルエットのヤンキー淫魔は手渡されたドリンクチケットを興味深げに眺めた。
「あそこで交換してもらうんだよ」
阿久刀川が指差した先はソファ席のそばに設置されたバーカウンターだった。
カウンタートップ一面に施工された装飾ガラスは透明感に満ち、ブルーの間接照明を浴びて月夜の湖のような煌めきを放っている。
四六時中お祭り騒ぎのダンスフロアとはまた一味違うクールな空間であった。
「バーテンにこのチケットを渡して好きな飲み物を注文したらいい」
「へぇ」
「僕はちょっと知り合いのところへ顔を出してくるから」
阿久刀川はそう言うや否やダンスフロアの人波に身を投じ、その場から去っていった。
残された岬はちょっとたじろいだ。
しかしすぐに気を取り直し、長ネギの覗くエコバッグを肩にかけ直し、だだっ広いフロアのコーナーに位置するバーカウンターへ向かった。
……ドリチケか、初めて使う、食券みたいなモンだよな。
クラブ初訪問となる岬はちょっとばっかし浮かれていた。
追ってきたはずの濡宇朗の存在をうっかり忘れる程度には、十代の冒険心を刺激されたわけで……。
なかなか大きい造りのバーカウンターはお一人様やカップルなどで程々に埋まっていた。
ざっくり正装したスマートカジュアル風のバーテンダーが数人、せっせとお酒を造ったり客とおしゃべりしたりしている。
グラスを磨いているバーテンダーに目をつけ、声をかけようとして、岬はものの見事にかたまった。
視界の端に引っ掛かったカウンターの客に一瞬にして全神経を奪われた。
「……志摩センセェ……」
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