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第一部
1部エピローグ
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それは、勝利として語られた。
魔王城の最深部で起きた死闘。
勇者パーティの決死の突入。
そして――魔王の討伐。
国中に、鐘が鳴り響いた。
街には人が溢れ、酒が振る舞われ、
「世界は救われた」という言葉が、何度も何度も繰り返された。
だが、その勝利は――
あまりにも多くを失った末のものだった。
ガルド
ガルドは、城門をくぐるときも兜を脱がなかった。
肩から下げた左腕は、もう完全には動かない。
魔王城で受けた傷は深く、戦士としての人生は、そこで終わっていた。
「……本当に、終わったんだな」
ぽつりと漏らした言葉に、答える者はいない。
脳裏に焼き付いているのは、あの最後の瞬間だった。
囮として魔物を引きつけるため、
リュナとアレンを城の奥へ送り出した、あの時。
「必ず戻る」
そう言って笑った、二人の背中。
――戻らなかった。
英雄として語られるその死が、
自分たちの選択の先にあったことを、
ガルドは誰よりも理解していた。
「……すまない」
誰に向けた言葉なのか、自分でも分からないまま、
彼はただ、前を向いて歩いた。
レイナ
レイナは、泣かなかった。
泣けば壊れてしまうと、分かっていたからだ。
ミラから告げられた報告は、あまりにも簡潔だった。
――アレンは魔王に殺された。
――魔王は討たれた。
――リュナもまた、その戦いの中で命を落とした。
「……そっか」
それだけ言って、レイナは俯いた。
リュナの笑顔が浮かぶ。
戦いの合間、焚き火を囲んで交わした他愛ない会話。
自分を信じてくれていた、あの目。
「……ずるいよ」
誰にも聞こえない声で、呟いた。
強くて。
優しくて。
誰よりも前に立って、危険な場所へ進んで。
それで――
最後は、全部一人で背負って死んだ。
(なんで……)
胸の奥で問いが揺れる。
(なんで、私たちは生きてるの)
答えはない。
それでも、帰るしかなかった。
英雄の死を、英雄の勝利として語る世界へ。
ミラ
報告は、淡々と行われた。
協会の白い部屋。
記録官の羽根ペンが、紙を滑る音だけが響く。
「――魔王は討伐されました。
勇者アレンは戦闘中に死亡。
剣士リュナも、魔王との相打ちにより死亡を確認しています」
冷静な声。
感情の揺れは、どこにもない。
それが、彼女の役割だった。
――リュナが魔王を倒せなかった場合、殺す。
――倒した場合も、危険因子として始末する。
それが協会の命令だった。
だが結果は、どちらでもなかった。
血にまみれ、倒れ伏していた二人。
致命傷としか思えない出血量。
あの場で、生存を疑う者はいない。
(……これでいい)
胸の奥が、ほんの一瞬だけ軋んだ。
だが、その感覚はすぐに押し込められる。
自分の手で殺さずに済んだ。
それだけで――十分なはずだった。
「……」
報告書を書き終えたあと、
ミラは一度だけ視線を落とす。
魔王が倒れた、その直後。
ほんの一瞬だけ。
玉座の間の空気が、妙に静かだった気がした。
(……気のせい、よね)
そうでなければ困る。
リュナは死んだ。
魔王は死んだ。
アレンも死んだ。
世界は救われた。
――そうでなければならない。
世界
英雄の像が建てられた。
アレンの名は、勇敢なる幻術士として刻まれ、
リュナの名は、最強の剣士として語り継がれた。
魔王討伐。
世界の平和。
人々は、安堵の息を吐いた。
だが――
魔族の侵攻は、完全には止まらなかった。
散発的に、しかし確実に。
どこか以前よりも“意志”を持ったように。
それを、誰も深く考えようとはしなかった。
魔王は死んだのだから。
英雄が命を懸けたのだから。
それで、物語は終わった――
はずだった。
夜のどこかで。
誰にも見られず。
誰にも語られず。
“最強の魔王”は、静かに目を覚ました。
胸に残るのは、
剣を握った感触。
そして――自分を守ろうとして死んだ、ただ一人の少年の記憶。
世界は、彼女を英雄として葬った。
だからこそ。
この先に待つものは――
救済でもない。
復讐でもない。
ただ。
失ったものを抱えたまま生きる者が、
やがて辿り着く結末だった。
――第一部・完。
魔王城の最深部で起きた死闘。
勇者パーティの決死の突入。
そして――魔王の討伐。
国中に、鐘が鳴り響いた。
街には人が溢れ、酒が振る舞われ、
「世界は救われた」という言葉が、何度も何度も繰り返された。
だが、その勝利は――
あまりにも多くを失った末のものだった。
ガルド
ガルドは、城門をくぐるときも兜を脱がなかった。
肩から下げた左腕は、もう完全には動かない。
魔王城で受けた傷は深く、戦士としての人生は、そこで終わっていた。
「……本当に、終わったんだな」
ぽつりと漏らした言葉に、答える者はいない。
脳裏に焼き付いているのは、あの最後の瞬間だった。
囮として魔物を引きつけるため、
リュナとアレンを城の奥へ送り出した、あの時。
「必ず戻る」
そう言って笑った、二人の背中。
――戻らなかった。
英雄として語られるその死が、
自分たちの選択の先にあったことを、
ガルドは誰よりも理解していた。
「……すまない」
誰に向けた言葉なのか、自分でも分からないまま、
彼はただ、前を向いて歩いた。
レイナ
レイナは、泣かなかった。
泣けば壊れてしまうと、分かっていたからだ。
ミラから告げられた報告は、あまりにも簡潔だった。
――アレンは魔王に殺された。
――魔王は討たれた。
――リュナもまた、その戦いの中で命を落とした。
「……そっか」
それだけ言って、レイナは俯いた。
リュナの笑顔が浮かぶ。
戦いの合間、焚き火を囲んで交わした他愛ない会話。
自分を信じてくれていた、あの目。
「……ずるいよ」
誰にも聞こえない声で、呟いた。
強くて。
優しくて。
誰よりも前に立って、危険な場所へ進んで。
それで――
最後は、全部一人で背負って死んだ。
(なんで……)
胸の奥で問いが揺れる。
(なんで、私たちは生きてるの)
答えはない。
それでも、帰るしかなかった。
英雄の死を、英雄の勝利として語る世界へ。
ミラ
報告は、淡々と行われた。
協会の白い部屋。
記録官の羽根ペンが、紙を滑る音だけが響く。
「――魔王は討伐されました。
勇者アレンは戦闘中に死亡。
剣士リュナも、魔王との相打ちにより死亡を確認しています」
冷静な声。
感情の揺れは、どこにもない。
それが、彼女の役割だった。
――リュナが魔王を倒せなかった場合、殺す。
――倒した場合も、危険因子として始末する。
それが協会の命令だった。
だが結果は、どちらでもなかった。
血にまみれ、倒れ伏していた二人。
致命傷としか思えない出血量。
あの場で、生存を疑う者はいない。
(……これでいい)
胸の奥が、ほんの一瞬だけ軋んだ。
だが、その感覚はすぐに押し込められる。
自分の手で殺さずに済んだ。
それだけで――十分なはずだった。
「……」
報告書を書き終えたあと、
ミラは一度だけ視線を落とす。
魔王が倒れた、その直後。
ほんの一瞬だけ。
玉座の間の空気が、妙に静かだった気がした。
(……気のせい、よね)
そうでなければ困る。
リュナは死んだ。
魔王は死んだ。
アレンも死んだ。
世界は救われた。
――そうでなければならない。
世界
英雄の像が建てられた。
アレンの名は、勇敢なる幻術士として刻まれ、
リュナの名は、最強の剣士として語り継がれた。
魔王討伐。
世界の平和。
人々は、安堵の息を吐いた。
だが――
魔族の侵攻は、完全には止まらなかった。
散発的に、しかし確実に。
どこか以前よりも“意志”を持ったように。
それを、誰も深く考えようとはしなかった。
魔王は死んだのだから。
英雄が命を懸けたのだから。
それで、物語は終わった――
はずだった。
夜のどこかで。
誰にも見られず。
誰にも語られず。
“最強の魔王”は、静かに目を覚ました。
胸に残るのは、
剣を握った感触。
そして――自分を守ろうとして死んだ、ただ一人の少年の記憶。
世界は、彼女を英雄として葬った。
だからこそ。
この先に待つものは――
救済でもない。
復讐でもない。
ただ。
失ったものを抱えたまま生きる者が、
やがて辿り着く結末だった。
――第一部・完。
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