紫灰の日時計

二月ほづみ

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揺れる心-1

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「え? コルティス家がどんな家かって?」
 珍しくエリンから話しかけてきたと思ったら、思いもよらない質問が飛んできたので、ゲオルグは驚いた。
「はい。バシリオ・コルティスなる人物がどのような人か、ご存知でしたら、教えていただければと……」
「そりゃ、コルティス家といえば南エウロの豪商だから、僕だって知ってるくらいは、知ってるよ? だけど、どうして君がそんな人に興味を?」
 ゲオルグの疑問はもっともである。エリンに、コルティス一家について探るよう命じたのは、アーシュラであった。
 ベネディクトがコルティス家当主に招かれて度々ジュネーヴの屋敷を訪れていると知った彼女は、その商人について――アドルフに悟られないように――探れと、エリンに申し付けたのだ。
「……昨年、殿下の誕生日祝いの際、コルティス様も呼ばれていたと伺いました」
「あー……確かに、そうだったね、居た居た。父さんが挨拶してたの見たよ」
 エリンの返事が答えになっていないことは気にしなかったのか、ゲオルグは思い出したように何度も頷く。
「カルサス様はお話されなかったのでしょうか」
「うん。まぁ、あの人、あんまり得意じゃないしね。何ていうか……怖いし、暑苦しいし」
「暑苦しい?」
「喋りに勢いがあって、大柄で威圧的な感じするからさぁ。どうも話すと疲れる感じのタイプなんだよね。確か、元フェンシングの選手で、現役時代は相当強かったとか。聞いた話だけど」
 その話を、エリンは神妙な面持ちで聞いていた。いつもこちらを相手にしないエリンが黙って自分の話に耳を傾けているのを、何となく気分が良いように感じたゲオルグは、だんだんと饒舌になっていく。
「コルティス家は、さっきも言ったけど南エウロでは有名な商家でね、商売はかなり手広く色々と扱っているみたいだよ。ワインなんて、リアデンス侯爵家とか、サンサール伯爵家とか、有力な貴族とがっちりつるんで、領内の畑を独占してるって話。景気が良くて、トリノにまるでお城みたいなお屋敷があるって聞いたことあるし。バシリオさんは……まぁ、僕があんまり本人について深く知ってるわけじゃないけど、彼の代になってから新しく始めた商売も色々あるし、野心的な人物だとは思うよ」
 それから、父さんは付き合いがあるから、何か知りたければ聞いてみるけど、と、少年は付け足して言った。
「……ありがとうございます。参考になりました」
 エリンがそう言ったのと、出来たての焼き菓子を満載したバスケットを抱えたアーシュラがリゼットを連れて姿を見せるのが、だいたい同時のことだった。
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